#366 『高校入試』 悲喜こもごも
読書日記53 & エッセイ 1,500字
■入試に関わるトラブル
書棚に並んでいる湊かなえ、宮部みゆき、東野圭吾の作品群は妻か息子たちのもの。本作を読んだのは話題になった5年後くらい。
湊かなえと言えば、イヤミスの女王。
誰も幸せにならない後味の悪さが癖になるというファンは多い。『高校入試』の書評はイヤ感が薄く肩すかしを喰らったという意見は多い。
ネタバレは1ミリもなし。
個人的には30年以上高校入試に関わってきたので、“ 入試あるある ” “ 想定されるリスク ” “ あってはならないミス ” など、いろんなことが思い出としてよみがえった。
自分の学校や私個人が直接大きなトラブルに見舞われたことはない。
ただし、間接的に迷惑を被ったことはある。
教育委員会に「ある公立高校に爆発物を仕掛けた。入試を中止しないと爆破する」という手紙だ。愉快犯だとしても教育委員会管理下にある200校以上の公立高校のすべてが点検と警戒の対象となる。
すべての高校が不審物点検に当たる。時限式なのか遠隔式なのか、振動感知式なのか地雷なのか、そんなことはわからない。
全教職員で校舎内をくまなく点検する。捜索中に爆発したらどうするんだという思いがあるものの、みんな正常性バイアスが働く。これが最も危険なのだが・・・・
世界中で起こっているテロや犯罪は「予告」より「犯行後声明」のケースが圧倒的に多い。
「どうせイタズラだろう」
「うちの学校は関係ないね」
「爆発しても校舎全壊はないだろう」
教育委員会、警察とも連携する。各高校の偏差値と倍率の高低や、学校に対する怨恨歴などのデータを集め、さまざまな推理を働かせる。
どんな理由であれ、犯人の心が病んでいることは確かだ。
平時は、夜間に侵入者があればセキュリティシステムによって警備会社が駆けつける。2001年に大阪の小学校で起きた児童殺傷事件以来、玄関は登下校時以外はドアロックされる。部外者が入校する際は、入り口のインターホーンで確認して解錠する。
不審者が侵入して、なおかつ爆弾を仕掛けるのはそう簡単ではないということだ。
とはいえ、脇の甘い学校は至る所に侵入経路になり得る盲点箇所がある。そうした問題は「起きてはならないことが起こったとき」に発覚する。危機管理意識が低下している学校は増えているかもしれない。
問題漏洩に対しても厳重だ。某所で印刷された問題・答案用紙が学校に搬入されると500kg前後の厚い大型耐火金庫に保管。キーロック、ダイヤルロックで二重に施錠し、ご丁寧に封印紙まで糊付けする。
試験会場の整備・設営・点検、実施。
そして受験者は親や教師からの励まし、期待、不安、重圧、合否・・・・
入試は主催者(教育委員会)、教職員、受験者、保護者それぞれにドラマが繰り広げられている。
入試とは何か。人生においてどんな意味があるのか。小説を書くとなれば、入試はネタの宝庫だともいえる。
入試は利害調整の場だ。学校は自校のレベルにあった生徒を選抜し、可能な限り均質化した集団を形成したいと考える。そこが義務教育との決定的な違いだ。
現在、大半の学校は多様な選抜方法を導入している。少子化の影響もあり、あの手この手で定員確保に努めている。定員割れが続けば学校は統廃合の対象になる。これからの10年、20年で統廃合は一層加速していくだろう。
多くの人が経験したことのある「入試」
読者もいろいろな感情が湧き起こる。最終的には悲喜こもごものドラマとなる。私もいろんな試験で泣いたり、笑ったりした。
私は今も選抜する側にいる。
年明けの大学入学共通テストをはじめ一般入試、推薦入試では、監督者として公平・公正を期すと共にトラブルが起きないよう緊張感をもってあたりたい。
石川県の能登半島地域の地震と豪雨に見舞われた方々の中には今も大変な思いされている方がいる。中学生や高校生の中にも、辛い思いをしながらの受験勉強という生徒がいるに違いない。
復興祈願と共に、こころ穏やかに受験できる環境であることを祈りたい。