命を授かったと知った日【子どもが教えてくれたこと#02】
結婚2年目。33歳。仕事とプライベートとは、両輪でうまく回っていくものだと思う。会社に入って、12年目。かつてないほどに、仕事も最高に面白くなっていた頃だった。新設の部署へ所属となり、前例に囚われることなく、色々とチャレンジできる環境なのが、私には合っていた。
当時の私は、大手のゼネコン会社に自社の新商材を提案することに夢中だった。建設現場にもよく足を運び、現場監督の方とも話をした。何百人もの人が毎日働き、大型の重機が出入りする、ゼロから壮大な建築物を作りあげる現場で時にヘルメットを被らせてもらい、技術者の方たちと日々ミーティングを重ねていた。震災直後の建設業界こそ、踏ん張って頑張る時だとよく話を聞いていた。
赤ちゃんができた!そう分かった日のことはよく覚えている。2012年のバレンタインデーが過ぎ、まだ寒さが厳しい季節のことだった。実は、妊娠が発覚するその数日前、私は会社のメンバーと久しぶりに夜な夜な飲み明かしていた。
だから、妊娠が分かった時、正直言って、その喜びよりも、赤ちゃんへのお酒の影響のほうが気になった。“やべ・・あんなに飲み過ぎたけど赤ちゃん大丈夫かな” 母になる、と分かった瞬間の私はこんな調子だった。
決して褒められたものじゃない・・・だけど、私の母としての自覚はこの日からゆっくり始まったのかと思うと、何とも愛おしく思う。
一方、夫の反応は私とは全く違っていた。
その晩、自宅で遅めの夕食を終えた後、夫に妊娠の報告をした。「多分、赤ちゃんができたと思う」と。その時の夫は、一瞬喜んだ表情を浮かべたけれど、思ったほどのリアクションではなかった。男性だもの、実感もないし、そんなものかなと思って、その場はやり過ごした。
でも、その後、食器をシンクで洗っている時の夫の姿は今でも忘れられない。夫がおいおいと泣いていたのだ。蛇口からジャージャーと水を出しながら、うれしさにむせび泣いていた。水音で泣き声をかき消そうとしていたけれど、泣いていることは一目瞭然だった。「俺、父親になるんだ」「うれしい」「ありがとう」そう言って泣いていた。
それが新しい命が宿ったと知った日の私たち夫婦の様子だった。
まだ2月の中旬、寒さが厳しい時期だったけれども、暦の上では春を迎えて、徐々に黄色い花が咲き始めて、春に向かいだした頃。あの日以来、この季節が訪れる度に思い出す。春の芽吹きとともにお腹の中で赤ちゃんが大きくなっていたんだと。
夫は次の日から、生まれてくる赤ちゃんのために数行日記を書き始めた。私は、体調に気を使いながらも、毎日往復3時間の通勤電車に揺られながら会社に通った。時に、大きなお腹で建設現場にも通い、ヘルメットを被って妊婦姿は同僚の笑い種ともなった。体力的には大変だったけれど、とても充実した日々の始まりだった。
>> 続きはこちら #03 お腹の大きい生活がはじまった
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