中国軍の情報収集機が日本領空を侵犯した真の目的
8月26日(月)、防衛省は、中国軍の情報収集機が長崎県五島市の男女群島沖の日本の領空に一時侵入したと発表しました。同省によると、中国軍機が日本の領空に侵入したのは、今回が初めてとのことです。
日本の主権が完全に及ぶ領空への侵入は、国際慣習法や国際民間航空条約(シカゴ条約)に完全に違反します。もちろん、国際法を熟知する中国も、領空侵犯の違法性を十分に認識していますが、それでは、なぜ中国は国際法を無視してまでも、日本の領空にわざわざ侵入してきたのでしょうか。
実は、中国軍機による日本領空への侵犯には、軍事的、地政学的な思惑に加えて、中国のとある思惑が隠されています。我々は、今回の領空侵犯により、知らず知らずのうちに、中国の思惑にまんまとハマっていたのです。恐るべし中国!(なお、中国軍の情報収集機画像の出典は防衛省の報道発表です)。
まずは事実関係を確認!
まずは、中国軍の情報収集機の行動概要を確認していきます。以下の2つの地図をご覧ください。
上記2点の画像は、「中国軍のY-9情報収集機が実際にどのような飛行経路を通ったか(地図上の赤い線部分)」を示す地図です。NHK「中国軍の情報収集機が五島市の男女群島沖の日本領空に一時侵入」の報道によると、本件の概要は以下のとおりです。
8月26日午前、中国軍のY-9情報収集機1機が、東シナ海上空の日本の防空識別圏に入り、九州の方向に向けて飛行しているのを確認した。
航空自衛隊の戦闘機がスクランブル=緊急発進し、日本の領空に接近しないよう無線で通告するも、情報収集機は午前10時40分ごろから長崎県五島市の男女群島の南東沖上空で旋回を始めた。
そして、午前11時29分ごろ、男女群島の沖合およそ22キロの日本の領空に東側から侵入した。
領空侵犯はおよそ2分間にわたり、午前11時31分ごろ男女群島の南東側から領空の外に出たが、その後も周辺で旋回を続け、午後1時15分ごろ、中国大陸に向けて飛行した。
中国海警局の公船が尖閣諸島周辺の領海や接続水域において、日本に対して威圧的行動を続けていますが、実は、男女群島の周辺海域においても、中国軍艦の航行は複数回確認されています。
令和3年12月15日(水)午前11時頃、海上自衛隊は男女群島の西約 350kmの海域において、同海域を南東進する中国海軍クズネツォフ級空母 「遼寧」1隻、レンハイ級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイⅡ級フリゲート1隻及びフユ級高速戦闘支援艦1隻の計4隻を確認。 その後、12月16日(木)、これらの艦艇が沖縄本島と宮古島との間の海域(※宮古海峡) を南下し、太平洋へ向けて航行したことを確認(出典:令和3年12月17日付防衛省報道発表)。
令和4年12月13日(火)午後10時頃、海上自衛隊は男女群島の西約90kmの海域において、同海域を南東進する中国海軍レンハイ級ミサイル駆逐艦1隻(艦番号「102」)、ルーヤンⅢ級ミサイル駆逐艦1隻(艦番号「124」)及びフチ級補給艦1隻(艦番号「889」)の計3隻を確認。その後、12月14日(水)にこれらの艦艇が大隅海峡を東進して太平洋に向けて航行したことを確認した(出典:令和4年12月14日付防衛省報道発表)。
令和5年8月25日(金)から26日(土)にかけて、男女群島の西約100kmの海域において、同海域を東進する中国海軍ジャンカイⅡ級フリゲート1隻(艦番号「550」)を確認。その後、当該艦艇が対馬海峡を北東進し、日本海へ向けて航行したことを確認(出典:令和5年8月28日付防衛省報道発表)。
これらの男女群島沖海域における中国海軍の動きとは異なり、砲らしきものを搭載した中国海警局の公船が尖閣諸島周辺の領海へ侵入した回数は、年間数十件単位で推移しています。それにも関わらず、中国は尖閣諸島への領空侵犯をしたことは一度もありません。
領空では、軍艦にでさえ無害通航権が認められている領海と異なり、他国による領空の上空飛行には、無害通航権が全く認められていません。つまり、今回の中国軍の情報収集機による日本の領空侵犯は関連国際法に完全に違反します。
それでは「なぜ中国は国際法を公然と無視してまでも、日本の領空侵犯を行ったのか」について、軍事的・地政学的な観点から分析を進めていきたいと思います。
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