日本が国際法を無視して、中国のブイを撤去したらどうなるの?
7月5日(金)、林官房長官が記者会見の場で、中国の海洋調査船が本年6月、沖ノ鳥島周辺の日本の大陸棚に位置する公海上の海域に浮標(ブイ)を設置したことを明らかにしました(ブイの設置目的に関する詳細解説はこちらの記事「中国が沖ノ鳥島周辺の公海上にブイを設置した真の目的は?」を参照してください)。
中国はこれまでも尖閣諸島周辺の海域にも以下のとおり、ブイを設置してきました。
2013年2月:中国が沖縄県・尖閣諸島の周辺海域に「海上ブイ」を設置。設置場所は排他的経済水域の境界線である「日中中間線」の日本側(出典:産経新聞)
2018年10月:尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の日本の排他的経済水域内で、今年に入り、中国が新たに海上ブイを設置 (出典:産経新聞)
2023年7月:中国の海洋調査船が尖閣諸島(沖縄県石垣市)の魚釣島北西約80キロのEEZ内にブイを設置(出典:産経新聞)
2024年1月:海上保安庁が東シナ海の日本の排他的経済水域内で転覆した状態のブイを確認したと明らかにした。(出典:産経新聞)
これらのブイは、日本政府によってまだ撤去されていません。この現状に対し、国会議員や一部の世論から、「すぐにブイを撤去せよ!」と怒りの声が上がっています。
その一方で、仮に日本が中国の同意なく、本当にブイを撤去した場合、「どうなってしまうのか?」についての論評が、全く見られません。そのため、本noteでは、「日本が国際法を無視して、中国のブイを撤去したらどうなるの?」という疑問に対し、国際法の観点から分析をしていきたいと思います。
また、「ブイの撤去に向けて、日本政府がやらなければいけないこと」を国際法の視点で論じていきたいと思います。
ブイ撤去が中国からの強烈な反発と国連海洋法条約で規定される国際裁判を引き起こす
まず、日本が国連海洋法条約などの国際法を無視して、強引にブイを撤去した場合、中国は間違いなく以下のように、激しく反発をしてくるでしょう。
日本は国連海洋法条約で規定される「公海自由の原則(同条第89条)」に違反した(沖ノ島周辺の「公海上」へのブイの設置に対する反発)。
日本は、国際法上全く根拠がないにも関わらず、我が国(中国)の排他的経済水域上で我が国のブイを違法に撤去した(2013年2月、2018年10月、2023年7月及び2024年1月の尖閣諸島周辺海域へのブイの設置に対する反発)
因みに、東シナ海での排他的経済水域は日中間でまだ画定されていません。日本は「衡平原則」に基づいて、日中間の「中間線」を排他的経済水域の境界にしようとしていますが、中国はそれに反発しています。
いずれにせよ、中国は日本の行為を強く批判し、国連海洋法条約に規定されている「海洋紛争の解決手段(裁判)」で日本を訴えてくることも十分考えられます。そして、日本が中国に訴えられた場合、現時点では、日本はその裁判に敗れる可能性が高いと考えられます。
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