トカゲが来たら、家の中がそわそわし始めた
とうとうトカゲをお迎えしてしまった。
前回のお話はこちら
学校帰りの娘を車で迎えに行き、そのままトカゲショップに直行した。店に入るなり、妻は「あのトカゲについて、いろいろ聞きたくて来た。もう飼育ケージを置くスペースは確保したんだけど」と店のオヤジに宣言し、めちゃくちゃ苦笑されていた。
もう完全に飼う気だ。テンションが上りすぎておかしくなっている。
とはいえ、生き物なので、あまり無責任に飼い始めるわけにもいかない。それなりに寿命は長いし(10〜15年くらいらしい)日本に一時帰国するときにどうするかという問題もある。
イタリアにはカニーレという施設がある。人が飼いきれなくなった犬や猫などを保護している、いわゆるペットシェルターだ。あまり明るい話ではないが、カニーレではバカンスシーズンが近づくと保護されるペットが増えるらしい。イタリアのバカンスは長くて、3週間から1ヶ月くらい家を空けるのもざら。行く場所によっては、ペットを連れていけない場合もある。だから、そのタイミングで見放す人がいるのだそうだ。
そういうニュースを聞くと、葛藤も生まれる。
もちろんそんなことをする気はないけど、もし日本に一時帰国する時、この子の扱いに困るような事態になったらどうしようと、少し不安がよぎる。
どうしたもんだか。
と迷ったふりをしてはみたものの、結局のところ飼育ケージを置くスペースまで確保して、家族そろってトカゲショップにいるのである。何をか言わんや、である。
日本に一時帰国する場合は、ペットホテルを利用する方法もあるのかもしれない。
「ペットホテルって、犬や猫じゃなくてトカゲも預かってくれるかな?」と、誰にともなく言ってみた。そしたら妻は、その場でペットホテルをいくつか調べて電話して「3週間で120ユーロ」という値段まで確認した。いや、仕事めっちゃ早いやん。
夏のバカンスにしたって、車で行ける場所なら持ち運び用のケージに入れて連れていける。あとのことは、まあなんとかなるだろう。子供が産まれたときと一緒だ。
多分みんな、もう心は決まっていた。
店のオヤジは、トカゲの飼育ケージの前で迷っている(ふりをしている)私達に対して、特に強くは勧めてこなかった。衝動や勢いでペットを買ってもいいことはない。それを知っているからのような気がした。
どうしよう。どうしよう。
結局その場では結論が出ず、一度車に戻って、落ち着いて、話をして、
そして
とうとうお迎えしてしまった。
ヒョウモントカゲモドキ。いわゆるレオパだ。
この子はすっかり我が家のアイドルになり、妻と娘はケージの周りに張り付いて離れなくなった。でも本当は、ストレスがかかるからお迎えしてしばらくは、基本的に放置が推奨らしい。じっと見つめるのも良くない。ごめんよ。
「まだ慣れてないから、そっとしてあげてね」
娘にそう言うと、今度は体を低くして斜め後ろからそっと近づき、飼育ケージを覗き込むようになった。それ「公園でトカゲを捕まえる時の動き方」だよね、爬虫類図鑑に載ってたの見たよ。娘までテンションが上りすぎておかしくなっている。
*
トカゲをお迎えしたのは一昨日のことだけど、それからというもの、我が家はなんとなくそわそわしている。いつもは夕飯を食べたらすぐシャワーを浴びて寝る準備をするというのを習慣にしていたが、ここ数日はトカゲにメロメロとやられてルーティンが崩れ、すっかり寝るのが遅くなってしまった。
でも、娘が初めて我が家にやってきた時のような、このそわそわした感じが、今はとても楽しい。ご飯を食べたり、寝たり起きたり、うんちをしたり。そんな些細なことにわくわくする毎日が、また始まるのだ。