ボツネタ帳【こだわりのトリそば】

今回のボツネタは「こだわりのトリそば」というコントです。良ければご一読ください。

ネタの着想:「ラーメンを食ってるんじゃない、情報を食ってるんだ」という言葉から着想を得た。
ボツ理由:風刺する説得力が足りないから。風刺?

A:ラーメン屋の店主。こだわりが強く、頑固そう。
B:お客さん。ミーハーな印象。
Bが「こだわりのトリそば」を注文し、Aが着丼させる場面から始まる。
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A「お待たせしました、一番人気の『こだわりのトリそば』です」
B「うわあ、おいしそう!」
A「厚切りのチャーシュー、透き通ったスープ、そして時間がたっても伸びにくい太麺。とにかく『トリ』にこだわった一杯です」
B「2時間並んだ甲斐がありました。めちゃくちゃおいしそうです」
A「こだわりの一杯だからね。ごゆっくりどうぞ」
B「ありがとうございます。見た目もきれいだなあ。写真撮ろう」
Bがスマホで写真を撮り始める。座った状態で上から、横から。立ち上がって上から、横から。Aは訝しげにBを見やる。Bは写真を撮ることに集中していてなかなか食べ始めない。しびれを切らした様子で、AがBに声をかける。
A「ちょっと、お客さん!」
B「は、はい・・・」
A「うちはね、こだわり尽くしてこの『トリそば』を作ってるんだよ。この一杯への向き合い方はお客さんの自由だけれど、これだけはキッパリ言わせてもらおう」
B「はい・・・すみません」
A「うちのラーメンは・・・」
B「はい・・・」
A「この角度が一番良く撮れるよ」
B「・・・え?」
A「ほら、ここから撮ってみな」
B「は、はい」
BはAの指示通りに写真を撮る。
A「どうだい、おいしそうでしょ?」
B「・・・ほんとだ、とてもおいしそうです!」
A「うちは『トリ』にはこだわってるからね」
B「すごいこだわり!『トリそば』ってそういうことだったんですね」
A「あんたみたいに、なかなか食べずに写真ばかり撮る人が多いので、写真を撮るための『トリそば』を始めたんです」
B「なるほど」
A「そしたら、インスタフォロワー数・ラーメン部門トップ。今や、うちの店『トリそば-六連写-』を知らない人はいないですね」
B「たしかに『六連写』はいつも行列してるイメージあります。やっぱり、ラーメンは見た目も大事ですか?」
A「ラーメンは、見た目が10割だね」
B「すごいこだわり!そうだ、自分のインスタ用に、トリそばとのツーショットも撮っておこう」
Bはスマホで自撮りをするが上手く撮れない。
B「ご主人すみません。テーブル全体が入る感じで、うまく撮りたいんですが」
A「はいよ、うちはこだわりの『ジドリ』使ってるからね」
Aは自撮り棒を差し出す。
B「ありがとうございます!」
Bは自撮り棒で写真を撮る。
A「お客さんどうですか。おいしそうでしょ?」
B「はい、とてもおいしそうです!雑誌に載ってた通りだなあ」
A「雑誌?もしかして君も、あれ、読んでるの?」
B「はい。『食べなくても美味いラーメン専門誌・麺ズNONノ』に載ってましたよね」
A「君も『麺NON』見たんだね。あれに載ってるのはどれもおいしそうでしょう」
B「はい、全部おいしそうでした」
A「人気だよね、おいしそうなラーメン。そうだお客さん、お好みはありますか?」
B「じゃあ次は、食べている感じで撮りたいので、ちょっと撮ってもらっていいですか?」
A「はいよ!」
Aは、Bのスマホを受け取って写真を撮る。
A「もっと口開けてー。実際には食べないでね。画が崩れるから。うん今の表情いいねー」
AはBに、撮った写真を見せる。
A「どうだい、おいしそうでしょ?」
B「はい、とてもおいしそうです!」
A「次は、シズル感出していこうか」
B「シズル感、いいですね」
A「お客さん、そこでカメラ構えてて」
AとBが協力してブツ撮りをする。
B「すごい!この画、テレビで見たことあります」
A「これが、インサートカット用のブツ撮りだよ」
B「すごいこだわり!」
A「どうだい、おいしそうでしょ?」
B「はい、とてもおいしそうです!」
A「他にお好みは?」
B「次は食べ終わった感じで撮りたいので『六連写』名物のアレ、お願いしていいですか?」
A「お客さん、なかなか通っぽいね」
B「はい、通っぽいんです」
Aはどんぶりを持って、湯切りするような体勢になる。
A「よーし、カメラOK?」
B「OKです」
A「・・・せーの、はいよー!」
Aはどんぶりをひっくり返してラーメンをすべて捨てる。
B「うわー!贅沢!」
A「名物『天地返し』からの『全部こぼし』だよ!」
B「すごいこだわり!」
A「はいお待ち!スープ、一滴も残さなかった感じで撮ってね」
B「ありがとうございます!」
Bは空になったどんぶりの写真を撮る。
A「どうだい、おいしかったっぽいでしょ?」
B「はい、とてもおいしかったっぽいです!」
A「シメもあるよ?」
B「シメもあるんですか!お願いします!」
BはどんぶりをAに渡し、スマホを構えて撮影準備をする。
A「せーの、はいよー!」
Aはどんぶりを両手に持って天高く掲げる。
B「ご主人、それなんですか?」
A「ワールドカップ優勝の瞬間だよ!」
B「もはやラーメン関係ないですね」
A「でも、繁盛してそうでしょ?」
B「たしかに、繁盛してそうです!」
A「今日撮ったおいしそうな写真、タグ付けしてインスタにあげておいてね」
B「はい、おいしそうにアップしておきます!」
A「毎度あり!これでまた商売繁盛!」
B「おれのインスタもグルメっぽくなってきた。ご主人、とってもおいしそうでした!ご馳走さまでした!」
A「ありがとうございました、またお越しください」
Bは退店する。しかし数秒後、Bが再入店する。
B「・・・すみませーん」
A「あれ、さっきのお客さんじゃないですか。忘れ物ですか」
B「実は、さっきの写真見返してたら、すっごく美味しそうでお腹減っちゃって」
A「それは、ありがたいですね」
B「だから、一杯だけ、食べてもいいですか?」
A「あ、うち食べるのやってないんで」
B「すごいこだわり!」

#ボツネタ帳

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鈴木ジェロニモ
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