三匹が行くコロンビアの旅(10)アジア食材とタツジン道場
<20XX年2月14日>
朝5時に起床。
昨日第一報が来た職場の事案の件、情報収集。
7時ごろ、アレクサとアナは朝のお祈りのため教会へ。ドニャ・クラウディアが用意してくれた朝食をルピタと共に食べていると、お手伝いのルーシアがやって来た。ルーシアは週2~3回ほど来てもらっているお手伝いさんで、前回のコロンビア旅行にも登場している。
アレクサとアナが教会から帰宅し、フリエータもやって来たところで、ドニャ・クラウディアの提案でフィッシュマーケットに行くことになった。
フィッシュマーケット「HIPERMAR fish」へ。
この店は市内に系列の店が何軒かあり、私はこの1軒しか行ったことがないので他店との比較はできないが、1階部分が駐車場になっていて、2階部分が魚介類やアジア食材を売っている店舗で、食事のとれるカフェ的なスペースも併設されている。鮮魚コーナーにはいろいろな魚が並んでいるが、日本でよく見かけるようなアジやイワシ系の魚はぱっと見た感じでは扱っていなくて、多少なじみがあると感じるのはサーモン系か。
魚介類の他に、アジア食材や調味料の類も扱っている。後日ネットで調べてみたが、ボゴタ在住のアジア人にとっては貴重なアジア食材調達先になっているようだ。
アレクサが言うには、ドニャ・クラウディアはこの店でソイソースと「cazuela de mariscos」の冷凍パックを買うことが多いという。今回も買っていたようだ。「cazuela de mariscos」というのはいわゆる魚介類のスープのことで、ビジュアル的には日本でも有名なパエリアのイメージに近いが、パエリアと違ってライスではなく、スープだという点が異なる。
買い物を終えた後はカフェスペースに移動し、アレクサのおススメである
「ceviche」を食べてみる。「ceviche」は甘口のエビチリのような軽食で、ちょっとしたデザートのように思えなくもない。エビカクテルとでも言うべきか。
フィッシュマーケットからの帰路は食肉店に寄り、ハヤシライス用の牛肉をスライスしてもらって購入。ドニャ・クラウディアはクオリティを厳しく追及しながら店主との交渉を担当。マッシュルームも買うが、日本と違ってやたらとデカい。
帰宅すると、私がリードしてハヤシライスを準備する。ルーは、この日のために日本から持って来ていた。ディエゴが牛肉をたらふく食いたいと言うので、牛肉の量は日本での標準的な使用量の倍以上を投入。ライスはルーシアがあらかじめ炊いて準備してくれていた。
ディエゴが到着したところで遅めの昼食。ハヤシライスは皆に好評でウケた。料理に慣れているルーシアからもお褒めの言葉をいただけたので、日本からルーを持って来て作った甲斐があったというもの。
タツジン道場へ。
夕方、ルピタをドン・ネストルとドニャ・クラウディアに預け、アレクサ、アナ、フリエータ、ディエゴと共に外出。ウワサに聞いていた「武神館・辰人道場」に行くためだ。
この話には少々補足説明が必要だろう。日本語や日本の文化に造詣が深いアレクサの友人ホルヘが先日の集まりで、「ボゴタにニンジュツ道場がある」という話をしたのがきっかけである。彼の親戚が通っているというのである。
この点、日本人が海外旅行をしている際に現地の人間から「この街にはニンジュツ道場があるぞ」と言われても、「どうせ忍者のことをよく知らない外国人が、『ニンジャ』の看板を掲げればウケると思ってやっている、まがい物の忍術道場だろう」と感じる場合がほとんどではないだろうか。だが、インチキ臭い話かどうかは、2、3の質問をすればわかることもある。私がホルヘに聞いたのは、「そこの道場主は日本のどこでニンジュツを学んだのか」ということだった。その返事が「武神館」だったので、これは一見の価値がありそうだと考えたのである。
アレクサとフリエータがホルヘから聞いて調べたところでは、「武神館・辰人道場」というのがそれだということだった。そしてこの日の夕方に、実際行ってみようということになったのである。行ってみると、道場の看板などは出ておらず、場所はわかりづらかった。近くの人に聞いてみると確かにここで、道場があるという建物2階にとりあえず通してもらうと、キッズクラスのレッスン中であった。大人のクラスは開始までにまだ時間があると受付で説明があった。見ると、この受付でいくつかオリジナルグッズを売っているようだったので、ルピタのお土産にキッズサイズのTシャツを買ってみた。グッズを販売している時点でニンジュツ道場としては怪しいか…。
近くのカリビアン風レストランで時間をつぶす。ミントやココナッツのレモネードと、「carimanola」を注文する。「carimanola」とは、肉や細かく刻んだ野菜類を中に入れて揚げた軽食で、日本風に「コロッケ」と説明されている場合もある。見た目の形は中央が太く、両端を指でつまんだようなサツマイモ型のシルエットである。
大人クラスの開始時間に合わせて辰人道場に戻る。受付であったスタッフが、この道場の管理者とレッスンの指導者を紹介してくれた。このあたりの丁寧さは、日本的というよりも日本の文化になじんだ外国人の丁寧さと言ったほうが正確だと感じる。つまり、日本よりも心地よいのだ。
COVID-19の影響でリモートレッスンが強化され、直接指導だけでなく、コロンビア国内や他の南米諸国、はては日本在住のコロンビア人にも視聴してもらえるよう、練習風景をオンライン中継しているようだ。見せてもらったレッスンの詳細はここでは省くが、参考までにこの道場のリンクを貼っておこう。
帰路、「しばらくボゴタに滞在する機会があったら、この道場に通いたいよ」とアレクサに話す。日本の武道は日本で学ぶよりも外国で学ぶ方がずっと楽しい、ということを中東ですでに経験しているので、機会があれば通いたいと素直に感じたのだ。この道場の周辺を少し歩くと、日本の柔術の他、カポエイラを教えているジムなどもあり、Martial Artsを学ぶにはなかなかいい環境だということに気づく。武田流の他、フィリピン武術も練習していた中東時代を思い出し、少し懐かしい気持ちになる。
スーパーに寄って買い物少々。ディエゴが、「carimanola」の材料(コロッケの外側の皮の部分)になる「ユカ」の実物を見せて説明してくれた。後日調べると、いわゆるキャッサバのことである。日本ではタピオカの原料、中南米では揚げ物になるというわけだ。
帰宅すると、ルピタはぐっすり寝ている。ママやパパがいなくても、おじいさんとおばあさんのそばで安心しているようだ。これも一つの成長の証、と思う。