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IAの適合度を定量的に評価する方法を考えてみる

理系を専攻すると、大学1年で微分方程式を習う。

一般的な微分方程式の例

もちろん、もっと難しいものもある。この微分方程式は、僕らが知らないだけで身近なところで使われている。マーケットの予想もそうだし、AIの機械学習、人工動態予想、建築、スマートフォンの電波など上げればキリがない。

通常、これらの式には「一般解」や「特殊解」といった解が存在する。

微分方程式の一般解と特殊解

最初の式を積分すると、定数Cが出来て真ん中の形になる。これが一般解。ここから、定数Cに「特定の諸条件(今回はC=5)」を加えて、y=kx+5と表したものが特殊解。つまり、一般解は汎用的な解、特殊解は条件を細かく設定した場合の解、ということになる。

ざっくりと、これが微分方程式と呼ばれるものだ。


設計をはじめるまえに

今日、僕が話をしたいのは、この数式の解法ではない。IA(設計者)としてプロダクト開発に関わると、事前情報としていろいろなものが共有される。

例えば、ペルソナとかシナリオとか。いわゆるUXデザインの副産物を目にすることもあるし、依頼を受けて自分たちで作る場合もある。

前々から思っていたのだが、こうした情報を設計者(IA)がなぜ求めるのかというと、それは解を導くための諸条件の一部を知るためだと思っている。反対に、この条件が整わない場合、その構造物は精度に欠いたものになる。

その設計が適切かどうか、どのように評価するのか

普段、IAはこうした諸条件を使って、構造、情報、導線などの設計を行い、それが利用者に少しでも適合している(と考えられる)画面を作る。でも、その設計が適合していると、客観的に判断するにはどのようにすべきなのか。

ユーザビリティ、アクセシビリティといった領域においては、国際基準が存在する。ちょっと調べれば、何かに準拠するには「この項目を達成すること」というように細かな項目が定義されている。

本来、IAは課題解決とソリューションをつなぐ要の役回りのはずなのに、情報構造としての適合度が、客観的に定義されていないのはどうしてなんだろう。

IA適合度を測る変数とは

もし、IAの適合度を表す微分方程式があったとしたら。
それってどんな形になるのか。

微分方程式として考えるのは理由があって、これは時間の変化とともに各変数が移り変わるから(※詳しくは後半で)。まずは、この式に用いる変数を考えてみたい。

変数の候補はたくさんある。例えば、UXに関連したものから変数を抽出すると、こういうものがあげられる。

・ユーザー属性
・シナリオ
・利用デバイス
・アクセス性
・取り扱う情報

UXから抽出した変数候補

これ以外にも、アクセシビリティ、ユーザビリティという項目があってもよいだろう。相当数の変数候補が見つかるのだが、これらをすべて使ってしまうと、初期モデルとしてはとても複雑でわかりにくい。

そこで、今回は次の3つを変数にしたい。

構造としての適合性 (Structure): そのプロダクトの情報構造がどれだけ論理的で分かりやすいか。利用者がコンテンツを見つけやすく、全体の設計が理解しやすいかどうかが評価のポイント。

情報としての適合性 (Information): 提供される情報がどれだけ正確で、利用者にとって理解しやすい形で提示されているか。情報の質と関連性が重視される。主にコンテンツの話。

導線としての適合性 (Navigation): 利用者が目標にたどり着くまでの導線がどれだけスムーズで効率的かを評価。無駄のない操作で目的の情報や機能に到達できるかどうかがポイント。

変数の定義

それそれの頭文字をとって、S、I、Nを基本式の変数にしてみる。

微分方程式として数式化する

この変数を使ってIA適合度を示す式を作ってみる。
すると、こんな形になるだろう。

IA適合度を示す微分方程式

これは、構造S(t)情報I(t)導線N(t)という3つの適合度が、時間とともにどのように変化するかを表している。そして、その変化がIAの全体適合度に与える影響を測るものだ。本来は、S、I、Nの変化は相互に結びついているはずだが、今回は割愛している。各要素の変化が、全体の適合度に直接影響するシンプルなモデルとして定義した。

この式における時間(t)とは何か?

上の微分方程式は、時間に対する各要素の独立した変化にもとづいて、全体のIA適合度を評価する。

では、ここでいう時間とは何なのか。
利用者が目的達成のために費やした時間のことなのか?

ここでの「時間(t)」は、プロダクト全体の進化や改善プロセスにおける時間を指している。具体的には、IA(情報アーキテクチャ)の適合度が、設計段階からリリース、運用、改善までの期間で、どのように変化するかを追うものだ。

例えば、開発プロセスの経過とともに、IA適合度がどのように変化するかを見ていくと、

初期設計:
構造、情報、導線がまだ不十分で、適合度は低い。

テスト:
テストやフィードバックをもと、少しずつ改良され適合度が向上。

運用改善:
新たなコンテンツや機能が追加。適合度がプラスの変化。

プロダクトの開発プロセスの経過とIA適合度の変化イメージ

つまり、時間(t)は、設計からテスト、そして運用改善までの進化のプロセスを指し、その過程で各要素(構造、情報、導線)が改善されるごとに適合度がどのように変化するかを表している。

具体例を使って、この式を示してみる

例えば、あるウェブサイトの情報アーキテクチャ(IA)を改善するプロジェクトを考えてみたい。定性的なウォークスルー調査などを経て、以下のような初期値(100点満点のうち何点か)が導き出されたとする。

構造の適合性 S(t): 構造はおおむね良くて80点
情報の適合性 I(t): 情報の質・整理が不十分で50点
導線の適合性 N(t): ナビゲーションが複雑で60点

それぞれの初期の得点

これらの要素を改善するため、どこにお金と人のリソースを割くか。こうした時間的なプロセスを経ることで、プロダクトがどのくらい改善されるかのパラメータになる。例えば、構造、情報、導線それぞれについて、リソースの割合に応じて1〜3点の範囲で改善されていくと仮定しよう。

構造は1点ずつ改善される → dS(t)/dt=1
情報は2点ずつ改善される → dI(t)/dt​=2
導線は3点ずつ改善される → dN(t)/dt​=3

リソース配分と時間変化でどの程度改善されるか

そして、今回のプロジェクトで、構造、情報、導線にどのくらい重要度が課せられているかを「重み」として設定する。今回は、情報の重要度だけ配分を高くして、合計値が1.0になるように仮置きした。

構造の重要度 w1=0.3
情報の重要度 w2=0.4
導線の重要度 w3=0.3

構造、情報、導線の重要度(重み)

これを、先ほどの微分方程式にあてはめてみると、

IA適合度の変化率

このようになり、IA適合度は時間経過とともに2点ずつ改善していくことになる。

また、3つの要素の初期値が、構造 S(0)=80、情報 I(0): 50、導線 N(0):60とすると、

初期のIA適合度の計算

このようになる。つまり、各項目にリソースを割り当て、プロジェクトを進行することでIA適合度は2点ずつ向上していく。このモデルを使うことで、改善のスピードや影響度を定量的に評価できるということになる。

IA適合度の一般解と特殊解

どうやら、この微分方程式は成立しそうだ。でも、普通に考えると、この式の解はほとんどのケースで「特殊解」になるだろう。なぜなら、どこにでもある一般解化された構造物を、クライアントが求めることは非常に少ないからだ。

自社特有の課題、ならではのサービス、特徴的な使われ方などを前提条件にすると、ほぼ確実に特殊解になる。

特殊解として導き出される情報アーキテクチャは、まさにその企業やプロジェクトに最適化されたものであり、カスタムメイドの構造物だ。こうした特殊解は、各プロジェクトに合わせた適合度の高いIAを実現するためには不可欠だろう。

企業が抱えるユニークな課題を解決するためには、その条件に合わせたオーダーメイドの設計が必要となる。

特殊解を一般解へフィードバックすること

しかし、設計者として僕が感じるのは、こうした特殊解として導き出された構造物を、一般解側にフィードバックすることの重要性だ。特殊解で得られた知見や経験を一般解側に取り込むことで、将来的な運用の効率化や品質向上につながるのではないかと考えている。

特殊解は、プロジェクトごとに異なるが、そこから共通の法則やパターンを抽出してフィードバックすることで、今後のプロジェクトに役立てることができる。

例えば、ある企業のナビゲーション改善で成功した手法が、他の企業のプロジェクトでも応用できることがある。このように、特殊解側から一般解側へと知識を還元することで、設計全体の品質が向上し、標準化されたプロセスを構築することが可能となる。

この特殊解と一般解のバランスを取るのが、僕たちアーキテクト(IA)の役割だと感じている。特殊な要件を満たしつつ、その知見を一般解側にフィードバックし、設計の進化をリードする。

エンジニア、デザイナー、ディレクターの連携を促進する要こそ、アーキテクトの重要な責務と考える。

つまり、アーキテクトは、常に個別のプロジェクトで得た解決策を蓄積し、それを将来的に活かすための知見を自分のものにしていくこと。そして、特殊解と一般解の橋渡しをすることで、設計工程の業務効率化、工程そのものの進化という両方を実現していくことが可能になる。

まとめ

今回、IA適合度を定量的に評価するための式を考えてみた。このアプローチにより、プロジェクトの進行に伴って、この適合度がどのように変化するかを可視化できる。これまで曖昧だったIAの評価を、客観的に示すことが可能となるだろう。

また、一般解と特殊解という2つの概念を念頭に置くことが大切だ。プロジェクトごとに特有の条件に応じた解をもとに、広範なケースに適用できる普遍的な解を組み立てること。これがないと、個別具体の事象に対して、一握りのIAが各個撃破していく人力の作業に成り下がってしまう。

IAが両者の解を使い分け、適切な知見を蓄積していくこと。これが、プロジェクト全体の成功、そして継続的な改善へとつながる布石になる。

時間があれば、構造、情報、導線の3要素について、量的に評価する項目もnoteにまとめたいが、今回はここまで。





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