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ゼロUIが切り開く未来
朝起きてからの行動を振り返ってみる。
自分のスマホを手にとって、今日一日の流れを確認する。
その後、トイレに向かうのだが、大抵、多くの人が何かしらのデバイスを触るはずだ。
スマホに限らず、パソコンや家電など、僕たちは日々の生活を送る上で、実に多くのインタフェース(UI)に囲まれている。そして、それらの画面は複雑になる一方だ。一昔前までの、物理的なボタンがなくなったとはいえ、画面にはタッチやクリックで操作するアイコンやボタンが立ち並ぶ。
ここ数年の話だが、この現代のあたり前が、とある技術によって変わりつつある。
それが、今回のテーマである「Zero User Interface(以下、ゼロUI)」という概念の登場と関連している。
ゼロUI
ゼロUIとは、その名の通り「デバイスとの物理的接触を必要としない」インタフェースのことだ。利用者は、画面に表示される様々なメニューやボタンを操作しなくても、デバイスとコミュニケーションできる。
ゼロUIが、日常のどこで使われているのか?
最近の事例を少しだけ追ってみると、
・料理中、汚れた手を洗わずに音声で時間設定。
・食事中、テレビのチャンネルを手の動きで変更。
・運転中、運転手の視線が長時間外れた際に警告。
こんなシーンで利用されている。
ゼロUIは、これまでのようにデバイスに触れる必要がない。利用者の話す声、ジェスチャー、目の動き、さらには特定のポーズなど、人間の身体的な行動を使ってデバイスの操作を試みる。
この技術の進化は、僕たちがデバイスとどのように対話するか。今後の機械とのコミュニケーションのあり方を変えていくことにつながっている。
AIの進化とゼロUI
ゼロUIが、多くのデバイスで採用される背景を見てみたい。
そこには、AI技術の進化と発展速度が大きく関係している。
AIを活用したデバイスは、これまで難しかった「利用者の行動パターン」を深く理解する術を身につけている。そして、それらのパターンを学習し、読み取った上で、デバイス側が適切なアクションを取ることが可能になった。
ゼロUIにとって欠かせないAI技術。
僕は、次の3つのコア技術が驚異的な速度で進化しているためだと思っている。
1.自然言語処理の進化
AI分野のNeuro Linguistic Programing(通称NLP:自然言語処理)技術が、利用者の音声認識を飛躍的に進化させたこと。これにより、日常的な会話を通して、利用者の意図を正確に捉え、適切な応答を示すことが可能になった。
Home podsに代表されるデバイスが、複雑な要求に応じたり、自然な対話を続けたりするのもこの技術のおかげだ。
2.機械学習とパターン認識
機械学習技術では、利用者の行動パターンを学習し、そのデータから予測を行う能力を格段に向上させたこと。量販店に行けば、あらゆるスマートホーム家電が入手できる時代である。居住者の生活リズムに合わせて、照明を調整したり、気温を最適化したり、第二の自分のようにたち振る舞ってくれる。こうしたデバイスは使い続けることで、さらなる学習していき、利用者の好みに細かく対応できるようになっている。
3.顔認識と感情認識技術
顔認識だけでなく、感情認識技術もゼロUIには欠かせない。利用者の顔を識別し、その表情から感情を読み取る。この進歩によって、一般家庭のみならず医療現場など、あらゆる場面で恩恵を受けることができる。
加えて、Amazon Echoなどのスマートスピーカーでは、視線認識技術も導入されている。僕も利用しているのだが、こちらがデバイスと視線を合わせている時には、「Alexa(アレクサなどの登録名)」と呼びかけることなくデバイスが応答する。従来の音声認識だけでなく、視線、仕草、表情といった非言語的なコミュニケーション手段を可能にしている。
これらのAI技術の進化によって、ゼロUIの概念は現実のものとなった。
高度な技術が利用者の日常生活に溶け込み、その存在を意識することなく、様々なサポートを受けられる土台が構築されていることを意味する。
普段、プロダクト利用者の体験設計などを行っている設計者の立場からすると、この技術の進歩は、人とデバイスとのやり取りをより自然なものに変えるための重要なステップである。
設計者として注視しているエシカルな設計
こうして見ていくと、ゼロUIが日常生活に溶け込んだ世界は、とても暮らしやすく良いことづくめなように思えてくる。でも、そうではない部分もある。僕が設計者として気になっているキーワードに「エシカルな設計(倫理的な設計)」というものがある。
AI技術を搭載したゼロUIでは、デバイスが利用者の音声、視線、ジェスチャーなど、非常に個人的なデータを収集する。これは裏返せば、「設計段階から倫理的な考慮を組み込む」ことが強く求められるのだ。
具体的には、
(1)透明性:
どのようなデータが収集されるのか。
どのように使用されるのか。
利用者にどのタイミングで説明するのか。
(2)利用者の同意:
データ収集には明確な同意が必要だ。
その撤回も簡単にできる設計とは何か。
(3)最小限のデータ収集:
必要なデータのみを収集すること。
「最小データ」の原則をどこまで守るのか。
こうした観点をあらかじめ認識したうえで、プロダクト開発を行わなければならない。ゼロUI技術の普及は、生活を便利で豊かにする可能性を秘めている。その一方で、上記のようなエシカルな設計、そしてプライバシーの保護に関する対応と、いくつかの問題も提起されている。
これは健全な発展を促すために必要不可欠な要素であり、この問題に対する適切な対応が、ゼロUIの未来を左右する鍵となる。
今後のゼロUI
ゼロUIの原則を応用し、さらに革新的な技術が普及しつつある。
数年前から、拡張現実(AR)インタフェースや、高度な生体認証システムは、すでに登場して久しくない。
利用者の行動をさらにシームレスに。
デバイスとの境界をより流動的に。
デジタルインタラクションの時代が幕をあけようとしている。