[短歌50首連作]ホログラム

うつくしい神とひととの口約束として光の三原色は

祝福は触れたらわかる 黄砂舞う春陽の中に指を反らして

歩行者天国 手の触れ合ったよろこびは花火のように遅れてとどく

木漏れ日だろうあなたをなぞらえるならば 噴水が湧き上がりまひるま

理由なく好きでいいからはつなつにくまなく触れて ゆっくりでいい

恋が愛に変わるあいだに付け替えた千の電球一面に光る

わたしより先に暑がることさえも滲むいのちの予言のようで

白亜紀のことを言いつつお互いのプリズムを照らしあって笑った

パスタのため沸かされる湯のかがやきが人類を寿いでやまない

お菓子箱に書かれたクイズの正解がカメレオン 虹色のカメレオン

日影ないね、日影ないねえって言いながら白っぽい歩道橋下りてゆく

崇高な計画として仰向けのあなたが宙に描く夏薔薇

海のことすっかり忘れてわたしたちを滅ぼすものの色を数えた

ふたりとも鳥の夢を見た早朝に運命めいてるねってキスする

Barleyとあなたが言うときまなうらの異国の大麦畑にふたり

誕生日という言葉のあかるさはチェコガラスボタン売る店のよう

アラザンをたくさんまぶしてまぶしくて笑う あなたの過ちが好き

よく光るあなたの銀歯を見てるからもっと聞かせてその比喩のこと

You’re more mortal than you and I think. それでもあなたを虹だと思う

銭湯のすぐそばに住み湯上がりのあなたを待つ間の美味しんぼ

びろうどのように名前を呼ばれいま加速してゆく光の満ち干

あまり嘘はつかないでおくひと夏に白桃タルトがつやめいている

さ・ま・り・あ・び・と マス埋めながら回り出すあなたの額の中の王国

thをちゃんと発音したらthe thrill of love ポップソングのように続くよ

蝶類の図鑑を買った八月に惰性で信じている進化論

歌舞伎町のレボリューションという店名に革命であってほしいな 強く

夏空の雲の種類を教えたこと忘れないでね 水の永遠

ふたりともドリカムを聴くことだってうれしい 打ち水きらきら撒いて

口角をわずかに上げて遠雷をあなたは待っている 凪いだ窓

ありふれた婚約のあと吹きガラスの花瓶をふたりで集め始める

やり尽くしたビデオゲームでもう一度見る常夏の町のパレード

レトルトのパンプキンスープそろそろと開けるわたしの指先ほてる

自分の字が好きになれないわたしたちがぎこちなく送り合うラブレター

砂浜のある町の映画 ぎりぎりまで注いだコーラをゆっくり運ぶ

右上の閉じるボタンを選んでも選んでも満開の百日紅

天気雨に拗ねたあなたが編んでいるレースのドイリー わたしは寝るね

幸運は夕焼けチャイムのふりをしてやってくるから手を繋いでて

幼少を思えば胸におひめさまワンピースの一枚よぎる朝

日に焼けた交通安全ポスターに少女のきれいなおかっぱを見る

ハイタッチした瞬間にマニキュアがいっしんに陽を吸ってかがやく

わたしの顔で目だけが好きでしょって思う ラメマスカラ目にちらちら落ちて

お揃いのタトゥー消さずにいようよね戴冠式に呼ばれたとしても

ひとりでは選びきれないレモンサワー あなたに聞きたいこと増えてゆく

二日酔いのわたしの記憶の空白に幻として咲く酔芙蓉

午睡のちの日差しがシーツの経血で薄く汚れたところに届く

まだ若いわたしたち秋の入り口で背伸びして買う革の香水

指でなぞる紙飛行機の折り筋がもう戻らない そんな夕焼け

球体が転がるように最初から決まってたようにあなたと眠る

(サイゼリヤは悲しいひとも来るけれどずっと明るい)みたいな愛だ

夏のうちに見た極彩ごくさいが手のひらに湧き出るばかり 今日、休みます


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