見出し画像

おれにソックリな猫の話

ウチの実家にはおれが子供の頃から4匹の猫がいた。そのうちの1匹、一番末っ子の猫(オス)が、おれにソックリだと言われていた。家族もパートナーも、知り合いにも見せるとソックリだと皆言った。ソックリなのは特に見た目。性格は相手が猫なので似てるかどうか、おれにはよく分からない。
似た者同士だからだろうか。おれとその猫はあんまり仲が良くなかった。「ヨシヨシ〜〜ちゃん」みたいに可愛がる気がしなかった。ある時は、ただ近くを通りがかっただけなのに猫パンチされたこともある。ただ、向こうもおれのことを別に嫌いなわけじゃないようでもあった。
ものすごい内弁慶なやつで、普段は仏壇の上でふんぞり返って、このウチで一番偉そうな顔をしてるクセに、他の3匹はよく家から外へ脱走していたのだが、その猫だけは一度も脱走したことは無かった。外が怖かったんだろう。ビビりだけど生命力は強いやつで、ウチに拾われて来た時には鼻水ダラダラで瞼もヒックリ返って死にかけていたのだが、ウチで保護するとみるみるうちに回復して、ご飯もお腹がパンパンに膨れるまで食べるような、死んでも死ななさそうな感じのやつだった。
そんな猫だけど、やっぱり別れの時はやってきた。20歳だった。最期は寝たきりで動けなくなっていて、まるで強迫性障害で倒れてほぼ寝たきり状態だった頃の自分を見ているみたいだった。
最期の別れの時おれは「またな」と言った。それだけだった。最期までヨシヨシ撫でて別れを惜しんだりしなかった。
それから数日経った時、ふとその猫を思い出して急に涙が止まらなくなった。その時おれは、似た者同士で仲良くなかったけど、その猫を家族として愛していたことに気づいた。
亡くなるまで、そのことに気づかなかった。
失ってはじめて気づくことって、やっぱりあるんだな。

いいなと思ったら応援しよう!