樽屋雅徳:斐伊川に流るるクシナダ姫の涙(小編成版)ティンパニの音替え等について
なんとピンポイントな記事だろうか。
これは今、私の指導校で頑張って取り組んでいる作品だ。この作品はよく音替えが問題になり、『作曲者はティンパニのことがよくわかっていない』という話で炎上するらしい。
つまり、音替えがやりづらいということだそうだ(そのように私は話を理解しているが、共感はしていない)。
そう、今指導校で取り組んでいる彼は初心者で、高校から打楽器を始めたようだ。彼自身、不器用な面もあると以前話していて、確かにそうかもしれないとは思ったが、でも譜読みをして練習して、今では特に問題なく出来ている。きっと陰で努力を重ねるタイプなのだろう。1週間程度で音替えは全部出来てしまった。難しい箇所も難なく出来ている。他にやる曲が10曲くらいあるのと、昨今のガイドラインのことで練習時間に制約があることで、現状ではやや安定感に欠ける演奏ではあるが、少なくとも炎上するほどの楽譜では全くないということが(彼のお陰で)私にもわかってきた。
というわけで、今回の音替えプランを一応全部記してみます。
配置はアメリカン。奏者から見て右手が小さいサイズの配置です。
一般的なプラヘッドのティンパニで演奏することを想定しています。
曲頭(1小節目~)
最初の出番が17小節目。練習番号Bに入るまでは以下の通り。
練習番号Cに入ったら余裕があるはずなので、そこで音替えしましょう。
32インチのGをEsに下げます。
43小節目~
43小節目~は以下の通り。ただ、練習番号Dから、3拍目にロール指示がある。これを両手で取るか片手で取るか。片手で小太鼓のロールのようにするのもアリかもしれない。両手で取るならRLRLで4打、つまり32分音符換算くらいで取るか?
色々な考えがあると思うが、これは3拍目の弱拍感を出すためにトレモロにしているのだろう。短いトレモロは上手に演奏すると、音楽に馴染むが奏者にはハッキリと聞き取れる範囲で雑音がする。これがきちんと定まって演奏出来ると、管楽器は演奏しやすいだろう。
このフレーズが終わったら32インチのEsをAsに上げることを忘れずに。
56小節目~
56小節目のAsは32インチでとった方が音色が馴染むと思われる。これは個人的な好みだが、ペダル操作も楽ではないだろうか。
演奏が終わったら、32インチのAsをFに下げます。
65小節目~
いや、ここにはティンパニはないのだが。でも現実問題、音替えをするのはこの辺りのはず。それまで低音が無いので音替えしていたら目立つし。
ところで、88小節目で使うFの音程をどこからとるかという問題がある。
29インチのFは最低音に当たるので、きちんと基礎チューニングが出来ていれば正しい音程のはず。よって、32インチのAsをFに下げた際に、29インチのFと合っているかどうか確認することで、そう悪くない音程にすることが出来る。
29インチのCを作るのはその後で良い。
この配置にすると、73小節目~75小節目の手順は非常にやりやすくなる。もしペダリングに自信があるなら、75小節目のDesは26インチで作っても良いかもしれない(その方が音が良いし、76小節目にも入りやすい。4拍目のトレモロだけでも良い。ただし、その後Bに戻すことを忘れずに。)
★88小節目
ファとソが出てきますが、これは32インチで演奏してください。
動作の順番としては、『ファ』→『ペダル操作』→『ソ』です。
ゆっくりから練習すれば必ず出来ます。
出来ない人は『かえるのうた』を1台で演奏出来るように練習しましょう。
これは、慣れです。最初ドキッとするかもしれませんが、慣れればすぐ出来ますよ。もし身近に打楽器を教えてくれる人がいれば、実演してもらうようにお願いしてみましょう。
ということで、次。
94小節目~
88小節目で32インチはGになっているはずなので、その後32インチをAsに上げる。で、23インチをEsに上げる。32インチ→23インチの順で操作するとミスしにくい。
★96小節目
23インチのEsをFに上げて演奏。演奏しながらペダリングすれば音は変えられます。これもそんなに難しくない。このフレーズをこの配置で取れると、手順は非常に楽になります。
100小節目~
100小節目からは32インチのAsを演奏しながら音程を作る。これで107小節目は楽に演奏出来ます。最初がシ♮、次がシ♭なのを忘れずに。
109小節目~
これは非常に音替えが楽。32インチと26インチを下限まで下げると、それぞれDとAになるはずなので、110小節目、111小節目は難なく演奏可能。欲を言えば、111小節目のAは29インチか32インチで取りたいところ。
119小節目~
これはよく考えればすぐに答えが出る。練習番号Iのあたりで音替えをしておけば良い。119・120小節目で音替えしても良い。
127小節目~
このHは29インチで取れる。
131小節目~
ここは要注意。137小節目~の手順をどう取るかで変わってくる。32インチと29インチを逆にする(下からG、A。いわゆる正規配置)という手もあるが、手順的に音量が出にくく、あまり推奨出来ない。
148小節目~
29インチをFに下げるだけという手もあるが、そうすると音色的に馴染まないので、私としては以下を推奨したい。
188小節目~
練習番号Oの辺りで音程を作り直しておくと良い。
198小節目~
練習番号Pの辺りで音程を作り直しておくと良い。
★203小節目
このFは29インチで取ると、基礎チューニングの音(=ペダルの下限)なので取りやすいが音色に難がある。32インチだと音色は良いが跳躍が難しい。どちらでも構わないと思う。
219小節目~
203小節目終わったらすぐに音替えを始めた方が良い。
★238小節目
このFは29インチで取ると、基礎チューニングの音(=ペダルの下限)なので取りやすいが音色に難がある。236小節目でペダルを下げるだけなので楽だが、迫力を求めるのであれば32インチのFにしたい。間に合えば32インチでも良いかもしれないし、私はそうするが、音程が合わない恐怖もわかるので、どちらにするかは奏者によるだろう。
おわりに
難しいと思われる音替えも、このように簡単に行うことが出来る。
特に小編成版を使用する団体では打楽器のレッスンが受けられない場合もあるかもしれない。何らかの参考になれば幸いである。
ちなみに、大編成版や中編成版等でこの解説が活きるかどうかは、不明である(多分、活きない)。