SibeliusとFinale,Musescoreの比較について
楽譜制作としての二大巨頭、AvidのSibeliusとMakeMusicのFinale。どちらも大変有名です。また無料のMusescoreもかなり広まってきました。今日はそうした制作ソフトについて、個人的な視点から書いていこうと思います。
私自身は今、ほとんどSibeliusを使っています。FinaleはNotePadを中学~高校時代、そして正規版(Finale 26)を大学院時代に扱いました。SibeliusはUltimate 8を大学院入学直後に買いました。Musescoreは高校の途中から大学院入学までの10年近くを過ごしてきた戦友です。それぞれのソフトに思い出があり、メリットやデメリットがあります。
整理すると、Finale NotePadを2008年まで、2009年~2019年はMusescore、2019年~Sibelius Ultimate、2020年~Finale 26ということです(大学院は社会人学生として入ったので・・・)。
尚、私は打楽器の人間であり、作編曲もやりますがアカデミックに専攻したわけでは無いので、『基本的には演奏や指導がメインだが譜面を書きたい(書く必要性が出てきた)』という方にとっては、この記事はお役に立てると思います(作曲の道を真剣に考えている方は、その道の方に尋ねてください)。
楽譜制作ソフトウェアとはそもそも何か
Finale / Sibelius / Musescoreのほか、Doricoやスコアメーカーなども知られています。これらは『楽譜制作のためのソフト』であり、楽譜を制作する以外の目的には適しません。何を当たり前のことを、と思うかもしれませんがここがポイントです。言い換えれば『作曲』『浄書』『アレンジ』『DTM』は、これらのソフトでも出来るかもしれないが、直接の目的ではないということです。このソフトを使ったから作曲が急にできるようになるわけではありません。
『楽譜制作の補助』のための道具が楽譜制作ソフトであり、それ以上でもそれ以下でもありません。また、そのためには人間がその道具をうまく操る必要があります。目的にあった種類を選ばなくては、本末転倒です。
この記譜の部分のみを担うのが楽譜制作ソフトだと考えてください。
ちなみにSibeliusは.sib、Finaleは.musx、Musescoreは.mcszという拡張子であり互換性はありませんが、それぞれのソフトで出力可能な.mxlという拡張子であれば一応互換性が考えられています(完璧に復元されるとは限りません。音程と音価以外は、ほとんど復元されない場合もあります)。
はじめはMusescoreで充分
Finale NotePadという無料版で書いていた私ですが、Musescoreに移行したらスラスラ書けるようになったのを覚えています。Version 0.9くらいだったと思いますが・・・最終的に1.3を10年近く使い続けて、大概の記譜は出来るようになりました。(Ver.2以降は操作方法が多少変わってついていけなくなったのもあります・・・。)
まず無料。タダ。動きも軽い。これは驚くべきことです。以前は他のユーザーが厚意で公開した楽譜をダウンロードすることも無料で出来ましたが、現在は有料のようです・・・。
大概のピアノ曲なら書くことが出来ますし、10人くらいまでの室内楽は問題なく書けます。時間が掛かると言われますが、ショートカットを多用すれば大丈夫です。
一方でパート譜の出力が大変なので、管弦楽・吹奏楽などの作品を書く場合には向かないと思います。合唱も、歌詞の入力が大変です。
また、混み入った連符を書くことも出来ませんので、20世紀以降のコンテンポラリーな作風の記譜には適しません。
王道のFinale
周りを見渡せば、だいたいがFinaleユーザーです。私も購入にあたって20人以上の方(全員Finaleユーザー)にお伺いしましたが、Sibelius経験者は居ませんでした。そして、仕事の標準はFinaleであることも間違いないと思います。私が今までやりとりさせて頂いた方も皆さん、Finaleユーザーです。質の高い楽譜を書くなら、Finaleが一番だと思います。
まず、困ったときに誰かに聞けるのが利点と言われました。私もそう感じますが裏を返せばそれだけ困るということです。その理由は『Finale独自のやり方にユーザーが染まる必要がある』ことにあると感じました。
ほぼ全てをショートカットで入力できる反面、ショートカットなしでは相当手間が掛かります。ではショートカットを覚えれば良いか?問題はそんなに簡単ではありません。
例えば、強弱記号のショートカットとして『Fキーを押しながら符頭をクリックする』というのがあります。これで入力されるのはフォルテではなくフォルテピアノです。フォルテは『数字の4を押しながら符頭をクリック』です。他にも、次のようなショートカットが割り当てられています。
あとはわかりにくいのだと『accel.はE』、『arcoはO』あたりでしょうか。『cresc.はC』『dim.はD』『rit.はR』あたりは直感的でとても分かりやすいのですが、ちなみにPは『pizz.』です。これらは全てテキストではなく記号として設定されているので、ファーニホウに出てくるようなmpzといった記譜をするためには、設定から入力しなくてはなりません。
ただし、浄書能力は圧倒的です。連桁(れんこう)の調整なんて朝飯前、組段間の距離なども全て数字で調整できます。手で調整する場合でもグリッドという目安を任意の等間隔で表示させることが出来るので、美しい楽譜を作ることが可能です。
このファとソにつけられたフォルテ、わずかにソの方が位置が高いのです。(赤い線は後からペイントで書き足しました)
この微細な幅の調整も可能です。
近代的なSibelius
そしてなぜ私が20人以上のFinaleユーザーに聞いてSibeliusを購入したか、それは私が人の話を聞かないから・・・というのもあるかもしれませんが、彼らが皆Finaleを勧めなかったからです。
或る飲み会で、その席にいらした私以外の全員がFinaleユーザーで、その全員に反対された時もありました。『使ったことはないけれど、でもFinaleよりは絶対マシだから』とまで言われました(その後自分で実際両方のソフトに触れて、用途によるかなとは思ったのです)が、今となっては彼の伝えたかったことも納得・・・というのもあります。
Sibeliusにはショートカットは多くありません。その代わり、Fと打てばフォルテが、mpと打てばメゾピアノが入ります。極めてストレスフリーです。
プラグインも豊富なので、基本的なことは全部自動でやってくれます。ハープのペダリング、コード記号も自動で可能です。
ただし、ユーザーが少ないので、困ったときに誰にも聞けません。私の周りには2人しかおりませんし、フォーラムは全て英語です。浄書機能も自動レイアウト調整くらいしかないので、Finaleほど細かい作業は出来ません(ただし、実用に耐える楽譜は充分に製作可能です)。
ただし、Finaleを超える圧倒的な利点は、Photoscoreとの連携です。Photoscoreは別売りですが、Sibelius Ultimateを購入すると体験版が付属してきます。これを使うと楽譜のスキャン入力が可能になります。
スマートフォンで楽譜を撮影、PDF化してPhotoscoreに読み込ませるだけで、あとはSibelius用のデータに変換してくれます。もちろん、読み込みエラーは何か所もありますが・・・1から入力するより圧倒的に早いです。デジタル楽譜でPDF化されているものであれば、精度が高まることは言うまでもありません。
ちなみに価格は高いです。
結論:目的によってソフトウェアを選ぼう
この記事をご覧いただいた理由は様々だと思います。私としてはSIbeliusの便利さ、Finaleの浄書へのこだわり、お世話になったMusescoreの手軽さをアピールしたかったのですが・・・伝わっていますでしょうか。
まず、手ごろに始めたいという方はMusescoreで大丈夫です。充分やっていけます。ただし、作編曲の仕事として納品するのは難しいでしょう。奏者同士の仲間内で回す譜面であれば問題ありません。
美しく浄書された楽譜を書きたい、将来は楽譜出版に携わりたいという方は、迷わずFinaleだと思います。ただし慣れるまでが大変です。
作編曲を不自由なく楽しみたい方は、Sibeliusが良いと思います。スキャン入力は編曲する上で最優先事項です。Musescoreを触ってからでも充分間に合いますが・・・。
どのソフトウェアでも、時間を掛ければ最終到達地点は同じだと思います。出来る事は最終的には同じであり、どのルートで進むのかを選ぶだけです。そしてどのソフトウェアでも『Ctrl + S』で上書き保存をこまめにしながら、書いていきましょう。
最後、私が言われた言葉で印象的だったことをいくつか引用しておこうと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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