エアコンのクリーニングを頼んだら、喉の痛みと咳が治った話
私は今の賃貸に引っ越してきて4年が経つが、きまって夏のはじめと冬のはじめに喉を痛め咳が出るということが続いていた。
最初のうちは季節の変わり目だからそのせいで体調を崩したのだろうと思ってそのままやり過ごしていたのだが、去年くらいから季節の変わり目の中でもさらにエアコンをつけ始めたタイミングで喉がやられるということに気がついた。これは気温や湿度の変化が原因なのではなくエアコンがおかしいのではないかと疑い始めた。しかし、すぐに取り外せるフィルターくらいしか掃除する場所はないだろうと思っていたから、昨冬はフィルターを洗うにとどまった。
そしてつい先日、湿気がいよいよ肌にまとわりつくようになったのでエアコンを動かし始めた。
するとやはり喉に異変が生じる。フィルターを洗っても治らなかった。
これはもしや自力では掃除できないような内部を洗わないといけないのではないかと疑い始めた。
するとやはり、少し調べるだけでエアコンの内部クリーニングの情報が出てくる。
値段は張るが、健康には変えられないと思い、すぐに依頼をかけた。
夏前はエアコンクリーニング業者にとって繁忙期だろうし少し待つだろうと覚悟したが、
運よくうちの近所を回る日があるということで3日後に来てくれた。
当日、予定の時間になると、白髪で日焼けした、愛嬌のあるおじちゃんがやってきた。
「洗浄するところは見るかい?なかなかおもしろいよ。」と言ってきた。
もともとエアコンのすぐ横のデスクで残りの仕事をやってしまおうと思っていたので応諾する。
「このランプいつからついてるの?」
うちのエアコンは入居した当時からオレンジ色のランプが点滅していた。
「入居してからずっとついてます」
「これ、中が汚れてるサインだよ」
その一言で、喉の痛みの原因を確信した。
ランプがずっと前からついているとわかったおじちゃんはなぜかとても嬉しそうだった。
そしてカバーを外し、周りが汚れないようにビニールで養生したらいよいよ高圧洗浄機での内部洗浄が始まった。
「ほら見て、汚れすごいでしょ」
「うわ、まるで墨汁じゃないですか」
「これで習字できるね」とおじちゃんは無邪気に笑いながら言った。
おじちゃん曰く、うちのエアコンの汚れ度合いは10段階中9らしい。
住んでいる賃貸は築12年だからおそらく新築時に取り付けて以来、中は洗っていなかったのだろう。
「これ全部カビだよ。よくこんな汚れてて無事だったね。」
そりゃ喉やられるわとバケツに溜まった墨汁を見て思った。
「さあ、終わったよ。これでこの夏は爽やかに過ごせるね。」
そういって清算をすませ、競馬が日々の楽しみだというおじちゃんは、その日最後のエアコン掃除を終えて帰っていった。
私は楽しそうに仕事をしている人を久々に見た。久々に見て思ったのは、楽しんで仕事をしている人は、自分が何をしたいのか相手に示すのがうまいということだ。うまいというか、自然に出ちゃっている。
おじちゃんはエアコンがきれいになっていくのが楽しいといった様子だった。つまり、より多くの汚れを落とすとうれしいということになるだろう。
そうなると、見ているこちらもバケツに溜まっていく漆黒の液体を見て
「うっわ、汚な!」「墨汁みたいっすね」といえば相手はまず嫌な気はしないだろうと容易に予想がつく。
案の定、おじちゃんは嬉しそうだった。嬉しそうなおじちゃんを見てこちらもうれしくなる。
ここに仕事というものの意味を一つ見出したような気がしている。
相手が仕事を楽しんでやっている人だと初対面であってもどうなったら(リアクションしたら)うれしいかがこちらにも明確になりリアクションが取りやすく円滑にコミュニケーションが取れる。
エアコンの汚れを取るのが楽しい人にとってエアコンのクリーニングというのはこの上ない天職なのかもしれない。汚れているエアコンに出合ったとき、汚れを落とす喜びと人をカビから救えるという喜びが生まれるからだ。
エアコンつけ始めてから体調がおかしくなった人へエアコンのクリーニングを勧めるつもりで書いていたが、いつの間にかコミュニケーションや天職の話になってしまった。とにかくその日は、おじちゃんのうれしそうな姿に癒される1日だった。