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英国政府が非上場証券/ストックオプションの取引市場を創設&試験運用へ
英国では25年5月からPISCES(非上場企業株式の取引PF)の試験運用開始が予定されており、昨今の英国資本市場の地盤沈下の解決策として注目されます。特に譲渡課税の軽減や印紙税免除など、政府を挙げて取引活性化に注力することでNASDAQ私設市場などに対抗する方針です。
日本でも徐々に非上場株/SO(主にスタートアップ)の取引がセカンダリの形で進みつつある中、国を挙げた施策ということで学ぶ部分が多いと思い調べてみたので共有です。やはり、税制優遇/取引手数料軽減は一番のインセンティブになります。
https://www.gov.uk/government/speeches/mansion-house-2024-speech
1;PISCESの概要
英国政府(財務省)は資本市場改革/金融産業成長に向けた[Private Intermittent Securities and Capital Exchange System(PISCES;未公開証券の一時取引システム)]を推進する方針。PISCESは非上場企業の証券取引PFで、政府は25/05までに制度整備/規制サンドボックスを開設すると表明
PISCESは英国政府による資本市場活性化施策であり、世界の金融エコシステムと競争する取組における重要な一歩と位置付ける
1-1;目
英国は新規上場の著しい減少と非公開化増大に伴ってIPO市場の氷河期にあり、将来のIPOパイプライン強化に向けた施策が急務。
非上場企業株式の断続取引にむけたPFとしてPISCESを設定、幅広い投資家層がアクセス可能な取引PFの造成を通じた資本市場の成長を狙う。規模拡大/成長を望む革新的な非上場企業に向け、公開市場資本への足がかりを提供して英国での将来IPOにつなげる
英国財務省は24/03に諮問文書を発行、その後は下記のように進展
-24/10;来期予算案でPISCES取引の印紙税免除を確認
-24/11;諮問文書に対して政府は推移姿勢/体制整備を回答
-24/11;英財務省がPISCESに掛る法定規則案を発表
2;PISCESの詳細
英国政府は[The Financial Services and Markets Act 2023(2023年金融サービス/市場法)]で付与された権限でPISCESを導入。
当初5年間は金融インフラのサンドボックスとして設定、期間中に政府は適切な規制監督を維持しながら、既存法の改正/運用変更を通じてPISCESの運用試験を行う
2-1;取引参加者
元々は機関投資家/プロ投資家を対象としていたが、範囲を拡大して個人投資家や従業員も対象として拡大。現在は2属性を想定するが今後拡大の可能性もある
-投資家;機関投資家/プロ投資家/個人投資家(FPOに基づく富裕層/熟練投資家)
-企業従業員;PISCES参加企業の従業員(グループ企業も含む)
2-2;PF運用者
PISCESのPF運用者は金融行為規制機構(FCA)の認可を受けた英国法人である必要があり、具体的には下記法人となる
-[投資取引アレンジャー][多角的取引システム運用者(MTF)][規制業者による私設取引システム(OTF)]に係る許可を受けたもの
-FSMA-2000に基づく認定投資取引所ステータス保有者
2-3;取引対象
PISCESはセカンダリ市場として運営され、下記が取引対象となる
(株式) 既発の株式が対象でPFにおける新規発行はできない
(期間) 特定期間の取引で、断続期間(アドホック/四半期/半年/年ごと)が設定
(法人) 公開市場で取引されない企業、英国の非公開会社/公開有限会社/海外会社を含む
(運営) 運営者は最低限の企業統治要件を含む、市場参入要件を決定
(他) 発行企業による自社株買いは認められない
3;PISCESを推進する施策
3-1;FCA(金融行為規制機構)による規制
PISCESでは公開市場での規制制度は適用されないがFCAはPISCES用の開示制度を作成する規則制定権限が与えられる
-透明性;取引内容は取引参加者全てに報告する必要があるが公開不要
-公正性;公正なDDに基づく当事者間でのプライベート取引に委任
-報告;株式のCSD(中央証券保管機関)への登録は協議中
3-2;募集行為に係る規制
募集行為に関してPISCES開示が既存規制の制限から免除されるようFPOを修正(FPO免除)する予定
富裕層および(自己認定)熟練投資家は規制対象外となるよう調整している
3-3;取引活性化への免税/免除
-印紙税-
2024年秋予算で財務大臣が、[PISCES取引は印紙税/印紙税準備金税を免除する]と発表しており、当該免除はPISCESの大きな推進力に
-事業資産軽減(譲渡税)-
非上場株式の譲渡/相続に関して現金化段階における相続/譲渡にかかる税金を100万ポンド(25/01時点で1.9億円)を上限に免除する特例も発表。
-SOに係る譲渡税優遇-
潜在投資家の広さを勘案し、従業員SO保有者がPISCESを通じて行使/株式売却を円滑/簡易に行える仕組み構築を行う。
英国税制優遇SOの場合には発行条件で裁量権/行使トリガーを柔軟に定めることが可能であり、発行者の設計に依存する。ただし、株式譲渡制限の継承については協議中。政府は[公正で秩序ある効率的な取引を確保するために、PISCES取引イベントの時点で株式譲渡に対する制限が無いことが期待される]とのことで協議が現在進行中