わたし、誰も傷つけたくない 傷つくのは、つらいこと 胸に開く穴 震える足 固まるカラダ だから、誰も傷つけたくない でもでもでもでも それはできない 流れて泳いで 歩いて走って ご飯をもぐもぐ いつでもわたしは誰かをひっかく 気づくといつも 生傷がこっちを向いてる 死んで草木に吸われたら それは優しくなれたってこと?
街を歩いている。 イヤホンをつけて、音楽を聴く。 嫌なものが目にはいるたび、 ボリュームは自然に上がっていく。 すべてをかき消して、 わたしを守ってくれるのだ、音楽は。 今日も音楽で武装し 街を歩く。 ボリュームは日々上がる一方だ。
熱っぽい頭。 自分が何を考えているのか、わからない。 脳にヨレヨレのシーツが1枚、かかっている。 よく見えない。 動きづらい。 わたしは今、どこにいるんだろう。 何もわからない。 わたしの輪郭が薄れていく。 脳が、意識が拡散し、溶けていく。 空気中の窒素分子が頭蓋骨をすり抜け、 わたしの脳細胞は大空へと飛び出す。 次々に脳細胞は旅立ち、わたしは深海に沈んでいく。 今、飛び出した脳細胞の一つが成層圏に到達した。 そこから何が、見えるんだろう。
電車に乗っている。 ひとり。 日が落ちてから、もう2時間くらい経った。 窓の外には、たくさんの明かりが見える。 街灯、車、光にもたくさんある。 でも、一番たくさんあるのは家の窓の光だ。 電車は走れど走れど、窓の光の群れは絶えない。 どこまでいっても、家の窓は輝いている。 いったいいくつの家が、そして生活が、その光の中にはあるのだろう。 考えてはいつも、気が遠くなる。 一つ一つの窓の中に、一つ一つの生活があり 一つ一つの生活の中に、たくさんの物語があるのだろう。 無数
意識を覆うのは、薄いレースのカーテン。 はじめは風でひらひら、ふわふわしているけれど、突然風は止む。 そうなったらもうおしまい。 カーテンは急に成長し始める。 脱皮し、細胞分裂。 その身体は、みるみる育っていつのまにやら肉厚なコートになる。 わたしにできることといえば、そのコートの群れをわずかに揺らすことだけ。 体当たりすれど、殴れど、ほとんど動かないんだ、あいつは。 わたしのいない世界で、誰かがコートの山を見つける。
定食やさんにきた。 半分以上の人は、ひとり。 わたしも、ひとり。 待つ、くる、たべる。 みんなの胃袋が満たされていく。 この店のなかでは 毎秒15mLの胃液が分泌されている。 ちなみに唾液は毎秒75mLな模様。 ぐんぐん膨らむふくらむ風船 ぐんぐん膨らむふくらむ胃袋 そんなに変わらぬ心のぬくもり ちょっと疲れる歯と手の筋肉 潮の満ち引きタイムマシーン。 繰り返すのは、3584回目。 まだまだいけるよ、セーターの君。 満たされた胃袋は、身体は 自らの重さによろめきながら
ちいさいころはいつも なにかを首を長くして待っていた クリスマスのプレゼント おじさんからのお年玉 人生で2回目の遠足 初めて買った、小さなゲーム機 1日を1年に感じるような あのどろどろした焼けつくような気持ち いてもたってもいられない 1日が早く過ぎるように、日付変更線を超えにいきたくなるような気持ち それを考えているだけで1日が終わる そのことしか考えられないような、熱狂的な気持ち あの気持ちは、どこへ行ったのだろう どこかに落としてきたのかな 最近はぜんぜん
人は皆、生まれたときから いろんなものにとらわれている 名前、生まれた場所、体 重力、親 大きくなるにつれて、そのしがらみはより強くなっていく 人間関係、常識、「普通」 偏見、文化 気づけばそこには たくさんのしがらみにとらわれたわたしがいる いつの間に、こうなっていたのだろうか 気づかぬうちに蝕まれているわたしの体 自由になりたい
苔が、すき 森の中にいる 小さい人たち フワフワ ジメジメ しっとり モサモサ みんなの足元にいる いろんなところから、こちらを見ている 苔さんは、みんなのお布団 虫さんの、ブナの種の、きのこの、お布団 柔らかくて、フワフワで、しっとりしていて わたしも今夜はここで、寝ようかな 苔さんたちも生きているんだなあ 雨の後、生き生きしている苔さん ちょっと水をかけてあげて、いいことした気分になる 水、おいしい? 聞いてみる 喜んでいる気がする 昨日の雨
秋といえば、なんといってもカマキリである。 幼い頃すんでいた家のまえは、一面のすすきだった。 小さなわたしは、そこが主な居場所。 たくさんの植物、虫とであった。 秋になると現れるのは、鈴虫、コオロギなど色々いるが、主役はやっぱりカマキリさん。 すすきにわけいっては、彼らを探していた。 秋になり、どこかからすすきの匂いが漂ってくる。 そんなときわたしは 「あ、カマキリのいる匂いだ」 「秋が来たな」 と思うのだ。 こっちに来てからは、彼らにはあまり会えていない。 見
わたしは毎日生きているのですけれど、そうすると、たくさんの気持ちがわたしの中を通過していくんです。 「これおいしい」 「だんだん寒くなってきたなあ」 「わたしは何がしたいんだろう」 「やっぱり友達はたいせつ」 気持ちたちには、いろいろな人がいて、学生服の若い男の子もいるし、アンデス山脈のおばあさんもいたりする。 でも、みんなに共通することが一つだけある。それは、足の速さ。 みんなもう、びっくりするくらい足が速いの。「あ、きたー、初めましてー」って思ってたら、3秒後には
私はクッション。 あなたの吐き出す言葉は、なんだか焦げ茶色で、かたい。 私はそれを、受け止めるクッションになる。ぼふっ。 受け止めた言葉は、どこかへ行ってしまう。どこに行ったんだろう?実は私の中?どこかに飛んでいったのかな。 そのかたいくて茶色い言葉も、触ってみると手に汚れはつかない。私はそれを受け止めても、汚れはしない。 表面をきれいにしてあるのは、あなたの思いやり。だから私は、クッションになれる。 みんなクッションの世界になったら、みんなで枕投げがしたいなあ。