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「クレーマーにならない」という選択で徳を積んだ話

人付き合いの上で、店員に横柄な態度をとる人とはできるだけ距離をおくようにしています。
客は店員に対して、サービスの対価を払っているにすぎない。
楽しい食事の席なんかで、店員さんを見下した態度をとる人といっしょにいると、単純に気分が悪いですからね。

最近では、悪質なクレーマーによる理不尽な言動を表す「カスハラ(Customer Harassment)」なんて言葉もささやかれるようになりました。

とはいえ、あまりにもサービスの質が悪いと、つい文句を言いたくなるときが無きにしもあらず。
例えば飲食店で、注文したものとまったく違う料理が出てきて、指摘したら「え?あ、ハイ」だけで済まされてスミマセンのひとつも言われないと、さすがにそれは接客業としてどうなん!?と思ったり。

僕みたいなアラサーにもなってくると、年下の若い店員さんと接する機会が増えるので、指摘してあげたほうがその子やお店のためになるんじゃないかとも思ったり。
クレーマーの中には、この「指摘してやってる精神」でクレームをつけてくる人って少なくないんじゃないかな。
デパートやスーパーに置いてあるアンケートのような、いわゆる「お客様の声」は、サービス向上のために大切だと言われているし。

この前、丁度そんなふうに店員さんに指摘したくなって「こんなとき他の人ならどうするんだろう……」と迷った機会がありました。

僕のお気に入りのお店について

僕は、とあるスキンケアブランドを愛用しています。
肌があまり強い方ではないのだけど、そのブランドの商品は相性が抜群。
ヘアからフェイスケア、ボディまで、肌に触れるものはすべてそのブランドで統一しているほど。

女性がメインターゲットのブランドで、店員さんは全員女性。
客も女性ばかりで男性客が珍しいのと、僕は家の近所の店舗へ月に一度は必ず通っているからか、どの店員さんにも顔を覚えてもらっていて「いつもありがとうございます」と丁寧に対応していただいています。

その店舗に一人、どうも気になる店員さんが。

一昨年くらいから見かけるようになったから、歳はおそらく新卒2年目くらい、もしかするともっと若いかもしれません。
真面目そうな女性ではあるのだけど、いつも自信が無さそうにおどおどしていて、「まだ慣れてないんだろうな」と当初から見守っていました。

で、この店員さん、製品についてわからないことを尋ねると「……少々お待ちください!」と先輩に何度も確認しに行ったり、会計も決して手際が良いとは言えなかったり、もう2年間くらい働いてるはずなのに、ぜんぜん仕事が上達してくれない……。

お店の勤務体制も少し問題で、それほど大きなお店じゃないから、店員さんは基本的に一人、多くても二人体制。
その割に人気のブランドなので、一人が接客していて手が離せないと、レジがあっというまに行列になってしまう。

ネットストアもあるけど、僕は香りに敏感で、サンプルを試して購入を決めたいし、他の店舗は何駅か離れていて面倒だから、いくつか気がかりではあるものの今でもその店舗に足繁く通っているわけです。


こんなとき、クレームつける?つけない?

そして、最近の話。

いつものようにお店へ足を運ぶと、あの若い店員さんが一人で勤務しているときでした。
「一人で大丈夫なのかな?」と心配になりながらも、他のお客さんがいなくなって落ち着いたタイミングを見計って、購入したい商品をレジへ持って行きました。

すぐに新しいお客さんがやって来て、もう僕の後ろに並んでいます。
店員さんの顔が、見るからにあせってる……!!
「ダメダメ、こういうときこそ落ち着いてね〜、何かミスしないようにね〜」と心の中で祈る僕。

そうだ、ポイントが貯まってたんだった!
僕が「今日はポイントで購入します」とカードを差し出すと、「あ、ポイントですね!しょ、少々お待ちください!」と、彼女のあせりは最高潮に。
余計なことお願いしちゃったかな……。

彼女がポイントカードをレジで操作しているとき、事件は起こる。

「あ……あの、すみません……私のミスで、今回のご購入金額をポイントから差し引くはずが、お持ちのポイントをすべて消去してしまいまして……

えーーー!?(笑)

どうやったらそんなことになるん?
っていうかレジにそんな機能あるん?
その機能、いる!?
とツッコミたかったけど「あ、そうなん、です、か……」と苦笑いするしかない。
そうこうしている間に、もうレジは行列になってる!!

僕はもう何年もこのブランドを愛用しているから、相当な額のポイントが貯まっていて「申し訳ございません!消去してしまったポイントを、同じポイントでお返しするか、現金でのお返しになるのですが……」とのこと。

うーむ、ややこしい……。
特に深く考えず「じゃあ、ポイントで」と答えたのだけど、これがまたマズかった。

「では、ポイントでのお返しの場合は、この用紙にご記入を……」と出された書類が、名前から住所から電話番号からいろいろ書かなきゃいけない超めんどくさいやーつ!
今これ書くの!?
こんなにめんどくさいんだったら先に言ってー!
そしたらこっち選んでないからー!!
後ろに並んでる奥様方のイライラした視線が痛〜い!!

「あの、もし現金で戻してもらう方が早いんだったら、そっちで良いですよ……」
「あ、ありがとうございます!本当に申し訳ございません!!」

そんなこんなで、もう5人くらいになっていた行列をまた彼女が一人で捌かなきゃいけないのを尻目に、僕はお店を後にしました。

まあ確かに、あの忙しそうな状況下でポイント値引きなんて、ややこしいことをお願いした僕も悪い。
それにしてもヒドかった。

ほらね、前から思ってたけど、こういうことがあるから一人体制じゃダメなんだよ!
僕まで他のお客さんにイヤな目で見られちゃったし!
ポイント値引きのやり方くらい教えておいてくださいよ!
っていうか、あの子ぜんぜん仕事できるようにならないすね!
接客業、向いてないんじゃないじゃないすか!?
きっと指摘してあげたほうがあの子やお店のためになると、カスタマーセンターに連絡したかったけど……やっぱりやめました。

考えてる間にどうでも良くなったってのが本音だけど、僕が敬遠している、店員に横柄な態度をとる人と自分が同じになるような気がしたからかもしれない。
けれど、さすがに怒ってもよかった案件だったんじゃないかとも思う。
こういうときにはっきり自分の意見を言える人がうらやましいともね。


またあのお店へ行ったときのこと…

そんなことがあったのも忘れかけていた頃、いつものようにお店へ行くと、その日は別の店員の女性が落ち着いた様子で立っていました。

いくつか商品を選んでレジへ持って行くと、彼女がこんなことを。

「もしかして、先日ポイント値引きでご迷惑をおかけしたお客様ですか?」

え?
あ、はい、そうですね……。

「その節は申し訳ございませんでした。
こちらのミスにもかかわらず、とてもお気遣いいただいて、行列ができている中でも優しくお言葉をかけてくださって、とても励みになったとスタッフが申しておりました。
本当にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願いいたします」


カラーン、カラーン
頭上で天使が鐘を鳴らしている。
なにこの多幸感。
もしかして僕すげぇいいことしたんじゃない?


確かに、「お客様の声」を届けてサービスが向上することもあると思う。
たとえクレーマーと思われても、たまには店員にガツンと言ってやらないといけない場面だってあるかもしれない。

けれど、「指摘してやってる精神」をこじらせると、気づかない間に自分がカスハラをしていることがあるかもしれない。

僕が指摘しなくても、あの店員さんはちゃんと反省していたし、お店にもしっかり情報共有されていた。
僕が指摘しなくても、あの店のサービスはこれを機に少なからず改善に向かっているはず。

そしてなにより、僕はクレーマーにならないという選択によって、さらに優良な顧客だと認識されたわけです。

なんでもかんでも感情に任せるのは良くない。
冷静でいればいいことがあるもんだ。

ボディーソープがなくなってきたから、またあのお店へ買いに行こう。

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