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最後のデートは、お台場にしたかった。

「今度のデートは、お台場にしよう」なんて、久しく言わなくなっていた。

海浜公園、スポッチャ、ジョイポリス、観覧車……
お台場といえば、東京のデートスポットの、定番中の定番。
地方にお住まいの方の中には、「いつかお台場でデートしてみたい」と憧れている人も多いかもしれない。

けれど、30代にもなると、いくら都心に住んでいてもデートのためにお台場なんてほとんど行かなくなる。

スポッチャやジョイポリスで騒ぐような歳でもないし、新宿や渋谷から埼京線で30分くらいの距離ではあるのだけど、「だったら新宿か渋谷でいいや」と思ってしまう。

けれどそれが、大観覧車やヴィーナスフォートが閉館してしまうとなると、話は大きく違ってくる。


大観覧車と、ショッピングモール「ヴィーナスフォート」、ライブハウス「Zepp Tokyo」、トヨタの展示ショールーム「メガウェブ」などを含む複合施設「パレットタウン」が、2022年8月31日を以って閉館した。

パレットタウンは、世紀末の1999年に開業し、1996年に完成したフジテレビ本社ビルと共にお台場の観光名所として大きく賑わい、特に開業当時世界一の高さを誇った大観覧車は、長きにわたってお台場を象徴するランドマークとなっていた。
それが、今後プロバスケットボールチームのホームとして活用される新たなアリーナが建設されるなどの理由により、23年間の歴史に幕を下ろした。

お台場なんて年に1回行くか行かないかだったけれど、それでもパレットタウン大観覧車にはかれこれ5、6回は乗ったと思う。
室内なのに天井に空が描かれていたり噴水があったりしてなんだかよくわからないコンセプトだったヴィーナスフォートも、無くなってしまうと思うと急に名残惜しくなってきた。

最近では特に見向きもしなかったお台場の風景。
それなのに、ヴィーナスフォートも、パレットタウン大観覧車も、もう二度と見られない。
どんなものも、壊すのは簡単だ。
いつまでも変わらずそこにあると思っていても、気がつけばもうそこから無くなっていて、やがて、かつてそこに何があったかも思い出せなくなる。

「お台場デート」は、これまで何万組のカップルが体験したかわからない、東京の恋人たちが抱いている、共通の記憶。
僕はそれを、どんな形でもいいから残したいと思った。


『ラストデート』は、僕が初めて監督を務めた映像作品。
2022年春に東京都の町田市で開催された短歌の合同展示会に出品する作品として、町田市から出資していただいて作り上げた。

テーマは、ただひとつ。
“恋人たちの、最後のデートの1日を描く”。

恋が終わるその日。
恋人たちはどんなことを思い、どんな表情をするのだろう。
美大に通っていた十数年前から、いつか作品として取り組みたいと思っていたテーマだった。

十数年の時を経て、監督・撮影・脚本・編集を、すべて自分ひとりでやってみることにした。
撮影をすべてiPhoneだけで行う“縛り”もあえて設けた。


この作品には、お台場の風景が不可欠だった。
デートスポットとして、ある意味でベタすぎる選択は、ベタであるからこそ、より多くの人の体験や記憶とリンクする可能性を秘めている。
また、撮影を決行した2021年の年末には既にパレットタウンの閉館が発表されており、恋の終わりを描いたフィクションではあるけれど、もう同じデートを二度と再現できないという現実が重なり、作品の儚さを一層際立たせるエッセンスとなった。

ヴィーナスフォートやパレットタウン大観覧車での撮影は無許可ではあったのだけど、これまで何万組のカップルが体験したはずなのにもう二度と体験できないこのデートを、映像に残すことができて光栄に思う。


これを読んでいるあなたにも、ぜひ映像を通して体験してほしい。
もう二度と体験できないお台場デートを。

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