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手話通訳者全国統一試験「手話通訳の理念と仕事」2020過去問⑱解説〜手話通訳業務の実践過程〜
2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。
問18.手話通訳業務の実践過程
手話通訳業務の実践過程について述べています。講演会通訳における実施過程について、下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。
(1) 複数で手話通訳を担当する場合の通訳者間での調整をする。
(2) 通訳位置、照明、音響などの物理的条件の確認をする。
(3) 講師に関する情報収集と出版物に目を通す。
(4) 通訳者間で手話通訳技術上の課題を整理する。
問題解説
公式回答では(2)が正しい。とはいえ、手話通訳業全般においては上記事項は必須のものと思われるため、本問の「実施過程」に限定していえば(2)が導きだされるのだろうか。(1)の 複数で手話通訳を担当する場合の通訳者間での調整や講師に関する情報収集と出版物に目を通すことについては事前準備にあたる。(4)の通訳者間で手話通訳技術上の課題を整理することは、手話通訳業務終了後の確認となる。個人的には本問は難問奇問の部類と思われる。
手話通訳業務の実施場所での留意事項
あいさつと事前確認
会議や講演会、イベント等では、主催者に通訳に来たことを伝え、自己紹介する。参加してい聴覚障害者が家人できればあいさつをする。
特にきこえる人が多い会議では、聴覚障害者が発言したい内容や思いを先に聞き取り、適確に発信できるようにすることが大切である。また、司会者には、手話通訳が入り、確実にきこえない人に情報を伝えるために、発言に手を挙げていただくことや、複数で同時に発言することがないよう、進行の配慮について、可能な範囲を確認する。
打ち合わせ
会議、講演会、イベント等では、当日配布の資料を入手し、進行の打ち合わせをする。必ず当日資料を確認することが必要である。主催者に、司会者、講師等とのあいさつも含め、打ち合わせの時間をとってもらう。事前に確認事項をまとめておく等短時間で簡潔に行う。
通訳環境の確認
手話通訳者の立つ(座る)位置は、聴覚障害者にとって見やすい位置か確認する。また、聴覚障害者の席が予め用意されている場合もある。併せて確認しておく。その他、マイクの有無、スピーカーの位置を確認し、手話通訳者が内容を明瞭に聞き取れることができるかどうか、実際の位置で確認する。照明や外の光がまぶしくないか、不具合があれば移動することが可能か確認する。また、会議であれば、手話通訳者の位置が適当か、参加している聴覚障害者に協力してもらい、確認する。
手話通訳者同士の確認
手話通訳業務を複数の手話通訳者で行う場合は、上記のあいさつ、事前確認、打ち合わせ、通訳環境の確認を一緒に行う。その上で、最終確認としいて、①進行、資料の情報共有、②手話語彙の確認、③交代時間の確認(何分交代か等)、④役割分担、⑤その他、交代の待機時間に行うことや、アクシデントの想定とその対処方法など、不安があればお互いに確認することが大切である。また、手話通訳業務終了後には、円滑に手話通訳業務ができたか、業務内容の振り返りを行う。
守秘義務
手話通訳者が派遣される現場は、医療現場や労働場面、講演会、学校など様々である。業務上知り得た知識を他に漏らしてはいけない。自分がボランティアや活動仲間ではなく、自治体から派遣された福祉事業の担い手である手話通訳者として接し、その境界線をきちんと保つことが大切である(手話通訳者養成のための講義テキストp81)。