手話通訳者全国統一試験「手話通訳の理念と仕事Ⅰ」2020過去問⑮解説〜手話通訳の技術・技法〜
2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。
問15.手話通訳の理念と仕事
問題解説
(2)が正しい。手話通訳におけるメッセージの伝達過程、手話通訳技術、手話通訳実践技術について理解しておきたい。
手話通訳の技術・技法
手話通訳の技術・技法には、手話通訳技術と手話通訳実践技術があるとされる。手話通訳技術とは、「起点言語としての手話や日本語をもう一方の言語に変換して伝えるための技術」である。手話通訳実践技術とは、状況に応じ一定の「幅」のある情報提供等の技術・技法のことである。
異なる言語の交換過程はメッセージ伝達の面からみると次のような過程となる。
このような伝達経路は手話通訳技術からみれば、音声言語又は手話言語によって「表現」されたメッセージを受け止め、手話言語又は音声言語によって表現する技術・技法と、メッセージの意味を理解し、他言語によって再構成する「翻訳」的な技術・技法とに峻別される。
一般的には、「翻訳」は書きことばについて、「通訳」は話しことばについて使用されるが、講義の意味で「翻訳」を使用し、その中に通訳を包括する場合もあることから、ことばの重複をさけて、言語の交換に係る技術・技法を翻訳技術としている。
上記の流れのように、異なる言語間の通訳をする際、重要なことは、メッセージの理解である。ことばによって発せられたメッセージを正確に受容し、理解する能力が基盤となる。その上で、そのメッセージを保持し、異なる言語に再構成する能力が必要である。手話通訳とはこの一連の過程を繰り返し、しかも同時に重ねて行う作業である。
また、翻訳にあたっては、言語能力(手話言語・音声言語)、心理的状況などによるコミュニケーション能力、内容に関しての知識、経験、理解度等を適確に把握し、聴覚障害者のニーズに応じた言語コード(文脈)を判断する能力とそれを実践する技術・技法が必要とされる。
手話通訳実践技術
様々な対象者や通訳内容に対応し、手話通訳実践が行われるが、その過程を通して、聴覚障害者と障害のない人々が互いに理解し合い、互いの人間関係の発展をめざすための手話通訳者の役割に応じた実践的な方法・技術である。
手話通訳が円滑に行われるたための手話通訳現場の物理的・心理的な環境の調整、発生するトラブルへの対応、対象となる個々のコミュニケーションの様子に応じた各種情報の適確な提供などに関する方法や技術のことを指す(手話通訳者養成のための講義テキストp46,47)。
よって(2)が正しい。手話通訳におけるメッセージ伝達は、「表現されたメッセージの受容」▶「メッセージの理解」▶「メッセージの保持」▶「メッセージを他言語で再構成」▶「メッセージを他言語で表現」という過程となる。