手話通訳者全国統一試験「障害者基本法」2020過去問⑨解説〜障害の定義と改正のポイントとは〜
2020年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。
問9.障害者福祉の基礎
問題解説
(2)が正しい。障害者基本法の制定に至る動き、改正までの流れ、障害の定義について理解を深めたい。日本の法律で手話が言語に含まれることを明文化した2011(平成23)年、障害者基本法の改正についても成果と課題について整理しておきたい。
障害者基本法
わが国の障害者福祉は第二次世界大戦後、児童福祉法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法(現 知的障害者福祉法)、社会福祉事業法(現 社会福祉法)、身体障害者雇用促進法(現 障害雇用促進法)などの法律に基づき、様々な象徴に分かれて実施されてきた。その結果、諸施策の総合性、一貫性の確保が難しくこれらの問題を補うことを目的に1970(昭和45)年に議員立法として「身体障害者対策基本法」が制定された。
障害者を取り巻く社会経済情勢の変化等に対応し、障害者の自立と社会参加の一層の促進を図るために、1993(平成5)年に「身体障害者対策基本法」は「障害者基本法」に改正された。
この法律改正の主要内容は以下の通りである。
障がい者制度改革推進会議が設置
民主党政権の誕生がきっかけとなり、2009(平成21)年の閣議決定で障がい者制度改革推進会議が設置された。障害者運動の働きかけに加え、背景の根底には国際的な動きもあった。第一に、障害者権利条約の存在である。2006(平成18)年、国連総会で採択された権利条約は、その後日本政府としても署名を行い(2007年)、さらに批准国が20カ国に達したことを受けて、2008(平成20)年より発行をみた。聴覚障害分野からみると、第2条(定義)、第19条(自立した生活及び地域社会への包容)、第21条(表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会)が特に目を引く。日本において効力を発するためには批准すること(締約国)になることが求められ、批准の条件を満たすために国内法制を権利条約の水準にあわせる、もしくは近づけることが必要となる。
障がい者制度改革推進会議から障害者政策委員会へ
障がい者制度改革推進会議は、構成員の過半数を障害当事者が担ったことに加えて、実質的な審議が展開されたこと、情報公開の徹底ぶり、障害のある構成員への合理的配慮の視点からの支援などいくつもの新たな手法が取り入れられた。その後、障害者基本法の改正2011(平成23)年に伴って、障がい者制度改革推進会議は2012(平成24)年より障害者政策委員会へと改称された。
障害者基本法の改正
2011(平成23)年、障害者基本法の改正が全会一致で成立をみた。第3条3項において、「全ての障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること」とされ、日本の法律で、手話が言語に含まれることを明文化したのは初めてであった。まさに歴史的な快挙といえる一方で、「可能な限り」の文言が被せられ言い訳条項とも揶揄され、後退面と前進面を象徴する条項となった。
改正点で注目すべき点のひとつは、「障害者の定義」である。改正法は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と粗総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」(第2条1項)と明記した。障害者の定義の改正に関する最大のポイントは、①いわゆる谷間の障害問題の解消、②社会モデルの視点を取り入れる、であった。権利条約やICFの水準に向かって新たな一歩を踏み出したといえる(手話奉仕員養成テキストp118,119)。
よって(2)が正しい。(1)は、厚生労働省ではなく内閣府が正しい。(3)は、障害者権利条約や国際生活機能分類(ICF)の水準を満たしていなかったため、批准に向けて法改正が必要であった。(4)は、障害の定義は、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と粗総称する。)がある者が正しい。
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