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雪の日。

雪は絶え間なく空から降り続いた。
先ほどまで見えていた黒々とした地面は、
あっという間に白い綿雪に覆われてしまった。
最後まで枝に残っていたハナミズキの赤い実が、
ぽすんと雪の中に落ちて埋まった。
赤い実の代わりに
白い雪の花がたわわに咲いて、
普段とは違う植物に見えた。

実家の雪かきをしようと思いたった。
私は長靴と暖かいダウンコートを着込んで、
両親の住む家に向かう。
途中の道には誰かの足跡が無数に残り、
どこをどう歩くのが正解なのかを
教えてくれていた。

まだ雪が降りしきるなか、
父が雪かきをしている姿が目に入った。
あまりにも予想通りで、
呆れると同時に笑ってしまう。
年寄りがそんなことをしたら危ないよ、と
止められたとしても、
父は雪かきを強行するだろうと
察しはついていたから。



「もう雪かきしてるんだね。」

スコップで雪を掘る父に声をかけた。
この辺りの雪は水分を含んでいて重い。
父は赤く悴んだ顔で笑った。

「せめて家の前くらい、
雪をどかしておかないとな。
近所の人にも悪いし。」

会話する私たち二人とも、吐く息が白い。

「そうだね。じゃあ私も手伝うよ。
一緒にやろう。」

「何を言ってるんだ。
こんなこと、女の子には無理だよ。」

この歳になって、女の子とは。
私は心の中で苦笑いした。
力だって、おそらく私の方が強いのに。
父からしたら私は、
小さな子どもの頃と
何も変わらない存在なのだと知った。

幾つになっても、子どもは子ども。
いつまで子ども扱いするつもりなのだ、などと
今は思わないでいる。
この人の子どもでいられる時間は、
もうそんなに長くはないだろう。
だから今を一緒に過ごす間は、
私は子どもでいよう。
父の雪かきの助手をさりげなく務めながら、
どこに雪の塊を置くかで
ああでもないこうでもないと、意見し合う。
雪はあたりの音を吸い込んで、
ひどく静かになった。
スコップが雪を削り、
アスファルトの表面を引っ掻く音。
私たちの時折の声。
それすらもぼたん雪の間にそっと重なって、
埋もれてゆく。
私たちが雪かきをした場所にも、
すぐにまた雪が積もるのかもしれない。
できることならば、
この記憶は何ものにも覆われなければいい。
時間がゆっくり流れてゆく雪のなか
寒さも忘れて夢中で二人、
雪かきをした年明けの日のことだった。


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鈴懸ねいろ
文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。