ショートショート 230【浦島太郎の、あの時の話】
青年はひどく落胆していた。
ずっと向こうまで続く砂浜を歩きながら軽くため息をつく。海のある村に生まれたことを最近特に幸せに感じていた。もはや自分自身の人生の一部だと言ってもいい。ただそれ故に、自分の愛する海が最近ゴミなどで汚れていることを許せないでいた。
”彼”はもう30歳になろうとしていた。少年の頃は自分の庭のように遊んでいたこの砂浜を今は保護する立場になった。
昔の生活用品ほとんどが木材だったが、最近では銅や真鍮のものが出回るようになった。高級なものでは漆器などの塗り物もある。とにかくこれらが浜辺に捨てられると、海や浜は汚れる。
自分が少年の頃は良識ある大人が自分の周りにたくさんいたが、今はどうだろう。青年は環境の移り変わりを憂いながら、古き良き昔を思い出していた。
あの日、
まだ歳が一桁だった自分は近所の友達と亀をいじめていた。若気の至りだった。珍しく浜辺に大きな亀を見つけた時はとても興奮した。恐らく急な潮の変化についていけず打ち上げられたのだろう。私と友人は木の棒を拾ってきて熱々になった亀の甲羅を殴った。
子供の力だったが亀には相当気の毒なことをした。今思えば反省しかない。そして、そんな私たちを止めに入った大人のおかげである意味私たちも助けられた。
彼は「止めなさい!」と一喝すると私たちを追いやり、亀を優しく保護した。私たちは走って逃げた。そのあとまるで亀と会話するように労わっていた姿を私は逃げながら目にした。
私は、うるせぇ!などと悪態をつきながらも彼の立ち振る舞いにどこか感心していた。そのせいだろう。私は大人になってから海を保護するようになった。あんな大人になりたいと、心のどこかで思っていたのだ。
逃げながらもう一度浜辺を振り返ると、男性と亀はすでに浜辺からいなくなっていた。
「はぁ。」
と青年は改めてため息をつく。想い出から現実に引き戻される。
「どうしてこんなものが。」
足元には、場違いなほど上等な漆器が落ちていた。青年はそのゴミを回収する。
誰かが捨てた、玉手箱だった。
**完**
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました!
浜辺にて、時空をつなぐ物語。。。