【ジュビロ磐田⚽】【雑感】ジュビロくんの、異変。
ジュビロくんという顔色の悪い鳥がいる。
と、噂になったのは1993年頃の事だったか。決して体調が悪いわけではない。
そういう鳥なのだ。
本名を三光鳥(さんこうちょう)という彼は、遠州の地に誕生したプロサッカークラブのマスコットオーディションを受け、奇跡的に合格した。
与えられたキャッチフレーズは「底抜けに明るく情熱的」。
無茶振りだった。
”遠州のからっ風”と呼ばれる、恐ろしいほどの強風に年中さらされることにより顔はこわばり、いつからか笑うことを忘れた。
そんな彼がビジネスと割り切ったところでたやすく笑顔など作れるはずもない。正直者で不器用な性格も裏目に出た。
プロサッカーは興行としては過渡期だった。参考に出来るような先輩も無く、ただ何となく日々が過ぎていく。
それでもスタジアムには異様な盛り上がりがあったし、チームは強かった。
彼は自分の存在価値について悩んでいた。突如現れたゴンという男のマスコットとしての才覚に嫉妬したりもした。掛川に新設される"花鳥園"という劇団からの誘いもあった。正直辞めようと思っていた。そんな時だった。
彼女と出会ったのは。
■初めての彼女
第一印象は”ずるい”だった。
ジュビイちゃんと呼ばれるその鳥には、彼には無いまつ毛と眼球の輝きがある。 生みの親 が違うんだと直感した。そりゃ可愛いさ。マスコットにおける10歳差は人間界のそれとは大きく異なる。はっきり言って自分は古臭いのだ。1990年代を象徴する、平坦な顔をした彼は大人げなく不貞腐れた。
しかし、
彼女は違った。そんな彼に対しても甲斐甲斐しく献身的。いや、それこそ底抜けに明るく情熱的であった。可愛らしさの裏にある、職務を全うするプロ根性も素直に尊敬できた。
そして2003年11月。彼に初めて彼女が出来た。それはチームが岡田マリノスに敗れて連覇を逃した、そんなタイミングだった。
スタジアムが悲しみの涙と、納得のいかない屈辱で充満する中 彼は表情一つ変えなかった。正確に言えば変えられなかっただけなのだが、彼女はそこに 男 としての強靭なメンタルを感じた様だった。
こうしてベストパートナーを得た彼は、気を取り直して仕事に打ち込むこととなる。
未だに上手く笑えない不器用さはあるが、彼女のおかげでそれはむしろ活きた。
スタジアムを歩いていると「どうしてオレに彼女が居なくてお前にいるんだ!」と、無茶苦茶な野次を受けたりもした。が、そんな声すら心地よかった。
自分の存在がより彼女の素晴らしさを引き立てている。それはまごうこと無き事実であり、ゆえにこの 関係性 には手ごたえを感じていた。
しかし…。
■異変
と、
ここまでジュビロくんとジュビイちゃんのアナザーストーリーを勝手に創作し、かつてこんなnoteを書いたりもした。
”勝手に”とは言うものの割と的を得ている自負はあって、彼のキャラクターは底抜けに明るく情熱的ではないからこそ、親近感があった。
文中にも書いたが遠州人とはコツコツと真面目な人が多い。そんな人がスタジアムという空間で非日常を得るためには、コツコツと真面目ではない鳥に「何やってるだぁ」と突っ込むぐらいがちょうどいい。
しかし、だ。
24シーズンから少し彼の様子がおかしいという報告をチラホラと受けている。おかしいとは語弊があるが、要はこれまでと違って妙に陽気であるというのだ。
天竜川の上流で怪しいキノコを食べた可能性がある。あるいはヤバい宗教団体にそそのかされているのかもしれない。
自己啓発セミナーを受けて彼なりに努力しているという意見もある。
いずれにせよ、
私はこの「異変」に対して続編を書かなくてはと一方的に震えた。なぜならば、この異変には心当たりがある。恐らく彼の心境にはこんな変化があったのではないのか、と。
そしてそれを想った時に少しだけ不安が頭をよぎった。
杞憂であればよいのだが、それ故にこのタイミングで筆を執るべきではないかと勝手な使命感にさいなまれたのである。
次項からは改めて彼を俯瞰的に見たノベルスタッチで書いてみたい。
付いてきて欲しい(汗)。
■成功体験
彼にとってあの男との出会いはとても大きなものであった。
その男の名は、大津祐樹。
そう、昨シーズン限りでサッカー界からの引退を表明し、今現在は社長と、時計屋の取締役と、もはや何足のわらじを履いているのかわからないほど精力的に活躍しているナイスガイである。
大津祐樹との出会いは一言で言えば、長年求めてきたロールモデルとの出会いでもあった。
”底抜けに明るい”という点ではかつてゴンという男もいたが、自らを「隊鳥」と呼び試合後に踊り狂う様は、控えめに「ホイホイ」と鳴くことが精いっぱいの彼にとっては明るすぎた。
その点 大津祐樹は違う。SNSを巧みに駆使し、サポーターを実にスマートに盛り上げていく。
カッコよかった。
そして奇跡が起こる。
そんな大津祐樹の後押しを受け、何とマスコット総選挙において6位という好成績を収めてしまうのである。
表彰式の後、
西麻布で行われた祝勝会はこれまで彼が見てきた世界とは全く違うものだった。煌びやかで、華がある。それは浜松フラワーパークで見てきたものとは一線を画す。上位常連のヴィヴィくんやグランパスくんが健闘を讃えてくれたのも嬉しかった。
と同時に、
彼らの常連としての立ち振る舞い、特にメディアに対する積極性に刺激を受けたのも事実だった。
撮られることに対して天賦の才があるジュビイちゃんにふさわしい 男 になるためには、必要な映え方があるのだと知った。
キャラを変えなくては。
僅かではあったが、彼が自分の中の何かを動かすには十分な夜であった。
そんな尊敬する大津祐樹がチームを去る。偶然ではあったがマスコット総選挙も終焉を迎えた。彼はいよいよ決意する。
もう誰にも頼れない。これからは自分自身で、自分なりに、底抜けに明るく情熱的なスタイルを築いていこう、と。
それは見慣れない者にとってはあまりにも怪しく、まるで中の人が代わった様だと 何かを疑うには十分な立ち振る舞いではあるが、どうやらもう少し見守る必要がありそうだ。
人と同じように、特別な成功体験をした鳥もまた、変わる。
今はその過程に過ぎない。
彼がこの先どんなストーリーを紡いでいくのかは誰にもわからない。
知っているのは天のみ。すなわち「ツキ(月)ヒ(日)ホシ(星)」だけなのかもしれない。
ホイホイホイ。
■心配
ここからは私の個人的な憶測になる。
やや蛇足的な感じもするが、本題はこの章だといっても過言ではない。
成功体験し、自らを変えるエネルギーが芽生えた鳥は、魅力的だ。
いわゆる自己肯定感が高い状態。人がモテる時というのは、実はこういう時である。それは鳥もまた同じではなかろうか。
モテ期というのは皮肉なことに比較的異性に興味が無く、何かに打ち込んでいるときにこそやって来る。
つまり自分にその意思が無くても、向こうから誘惑がやって来てしまうのである。
ご存じの通りジュビロくんには唯一無二の彼女がいる。彼はそんな彼女のために自らを変えようと努力している。
しかし。好事魔多し。
先日のマスコット総選挙の時もそうであったが、最近彼が単独でアウェイゲームに顔を出す機会が増えていることも密かに気になっている。また、訪れた先で手土産を渡すという社交性も身に着けた。
まさか。
売れないバンドマンがメジャーになった瞬間に支えてきた彼女を裏切り、タレントやアイドルと付き合いだすという展開もどこかで聞いたことがある。
そんなものはゲスの極みであり、杞憂であれば良いのだが・・・。
スタジアムで、あるいは夜の街で。
アウェイゲームに駆け付けるサポーターの皆さんは、彼がおかしな間違いを起こさないか見守る必要があるかもしれない。
「ホイホイホイ」という本来奥ゆかしい鳴き声が、すすきのや中洲で陽気に響き渡った時を聞き逃してはいけない。
あくまでも憶測ではあるが、とても心配している。
僕たちはジュビイちゃんを、彼を、護らなくてはいけない。
これは準絶滅危惧種を守るという、社会貢献でもあるからだ。
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました。
(なんのこっちゃ(笑))
※この物語はフィクションです。多分。