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週末の誕生日祝いと夜の本屋とレモンタルトと。

6月17日。土曜日。

昨夜寝るのが遅くて、朝目を覚ましたら9時だった。夫が起きたのも私とほぼ同時。子どもたちはとっくに先に起きていて、冷凍したご飯を解凍して適当に朝ご飯を済ませていた。週末の子どもたちの朝ご飯は大抵私か夫先に起きたほうが準備することになっているのだけど、今日みたいに夫婦揃って寝坊の日は子どもたちが適当にやっておいてくれる。まあたまにはそういうのもいいんじゃないかと思っている。

今日は私が夕方から外出予定があった。だからというわけでもないけれど、今日は家族で出かけたり大きな予定はなかった。外は朝からものすごく暑いし、なんとなくみんなで家の中でまったりの午前。お昼が近づくにすれ、お昼ご飯はどうしようか、と夫と緩く相談する。今日は特別予定もないし、子どもたちこのことを思って、お昼くらいはちょっと特別なことをしてあげようかと、お蕎麦屋さんの出前をとることにした。我が家にとって、週末のお昼ご飯を家で用意するのは平常モードで、外食したりテイクアウトをするのは特別モード。「特別」のハードルが低いかもしれないけれど、子どもたちはその「特別」なお昼ご飯を喜ぶ。

その駅前のお蕎麦屋さんはウーバーイーツなど今どきの宅配サービスは活用せず、昔ながらの出前をしてくれる。お店の人が電話で注文を受けて、あの出前特有の背後に品物を載せたお店のバイクを走らせて届けにきてくる。ウーバーなどに比べて配送料もかからないし、そこに若干申し訳なさを感じたりしつつ、そこのご飯が美味しくて好きなので、ときどき注文してしまう。なんなら少し配送料なり手数料なりをとってくれてもいいのに。

夫が電話で注文をしてくれて、それから30分後くらいに出前がやってきた。私と夫はそばと天丼のセット。ここはおそばももちろん美味しいのだけど、海老天丼がまた抜群に美味しくて、私も夫もお気に入りだ。長男は冷やしたぬきそば、次男は普通のもりそば。届いて品物をテーブルに並べて、みんなでおいしいおいしい言いながら食べた。

お昼ご飯が終わると、子どもたちはゲームタイムに突入していく。私は出前の食器類を簡単に片付けて、そのまましばらく食卓で読みかけだった本を読む。夫は作業部屋に引っ込んで好きに過ごしているようだったけれど、ふと部屋を覗いたらお昼寝をしていた。私もそのまま夫の横に寝転んで並んで寝てしまおうかと思ったのだけれど、今週の夫は仕事で疲れているようだったので、邪魔はせず一人で寝かせてあげることにして、私は私で寝室のほうに移って一人横になり軽くまどろんだ。

だいたい午後3時頃が我が家のおやつの時間。普段はおやつの時間になると子どもたちが適当に家にあるお菓子やらパンやら何かしたらを探って食べているのだけど、今日は少し事情が違った。今週は小6長男の誕生日があって、誕生日当日は平日だったので、ケーキを買ってのお祝いは週末にしようと話していたのだ。さらには、実は小3次男も来週に誕生日を控えている。兄弟揃って誕生日が近いのだ。なので、兄弟一緒にお祝いをしようと言っていたのが、まさにこの週末だった。子どもたちも朝からケーキを楽しみにしていた。約束通りケーキを買いに行かなければ。おやつの時間が近づくにつれ、私は寝起きの重い腰を上げて夫の元にいく。

どちらかが近所のケーキ屋までケーキを買いに行かなければならないので相談しようかと思ったのだけど、ここで夫が急遽子どもたちにポケモンのカードゲームの相手をお願いされたらしく、カードゲームの仕組みがまったくわからない私は代わってあげられないので、必然的に私がケーキを買いに行くことになった。私は夕方からまた別途外出予定があるのに、その前に一度ケーキ屋まで外に出なければいけないのが正直非常に面倒くさかった。でも今回は特別だ。何しろ年に一度の誕生日なのだ。特別な日のお祝いにと、子どもたちとケーキを約束したのだ。これは親の義務をちゃんと果たし、約束を守る姿勢を見せなければいけない。

ということで、非常に面倒くさいながらも、カンカン照りの暑い屋外へとのろのろ出発する私。ケーキ屋は自宅から徒歩5分とかからない場所にあるので、普段なら歩いていってしまうのだけど、暑い中ちまちま歩きたくない気分で、短距離だけど自転車に乗っていくことにした。

馴染みのケーキ屋だけれど、訪れるのは少し久々だった。駐輪場に自転車を停めて店内に入ると、こぢんまりとした店内に先客が二組いた。私はショーケースに近寄り、お目当てのショートケーキがあるのを確認する。我が家は誕生日でもホールのケーキを買ったことがない。ホールのケーキを買っても食べきれないし、兄弟で欲しいケーキの味が違うことも多く、結局これまで毎回個別のケーキを買ってきていた。

この日は二人ともショートケーキを希望していたので、ショートケーキを2個買うことに。私はお昼の蕎麦と天丼でお腹いっぱいだったし、夫はそもそもケーキにあまり興味ないので子どもたちの分だけでいいかなと思っていたら、ショーケースに私の大好物スイーツであるレモンタルトが期間限定商品として並んでいるのが目に留まり、自分のお腹の満腹具合など無視して結局レモンタルトも購入することにした。

そして買うケーキを決めたら、今度はろうそくと誕生日プレートをどうするかで迷う。去年も同じようにこのケーキ屋で個別のケーキを買い、小さいケーキだけれどそれぞれのケーキに誕生日プレートをつけてもらった。誕生日プレートは一個150円。2個で300円か…。大した値段ではないけれど、ちっこいプレートに300円というのは若干迷う。子どもたちはケーキさえ食べられればプレートがなくても大して気にしない気もする。でも昨年やってあげたしな…もしかしたらひっそり今年も期待されているかもしれない…でも意外と気にしないかな…いやでも、他に対して特別なことを誕生日にやってあげるわけでもないし、プレートの一個くらいつけてあげたらいいか…。モゾモゾ考えて結局それぞれプレートをつけてあげることにした。

その後、ろうそくでも若干迷う。年齢に合わせた数字を形どった大きめのろうそくをそれぞれドーンと一個買うか(でも長男だと12歳だから1と2と2個買わなければいけない)、細いろうそくを何本か買って賑やかな感じにするか…。結局迷いに迷って、細いろうそくを複数本買って帰ることにした。

やっとすべてのアレンジを決めて、店員さんに希望のケーキと誕生日プレートとろうそくを付けたい旨を伝える。プレートは印字されたものではなくその場でチョコペンで書きこんでくれるものなので、その作業が終わるまで会計をして待った。しばらくして出来上がった手書きのプレートを見せてもらうと、出来上がりがとてもかわいくてやっぱり頼んでよかった、と思った。自転車のカゴに乗せてしまうとケーキが崩れてしまいそうだったので、片方の手首にぶら下げたまま慎重に自転車を漕いで家へ引き返した。

私が帰宅すると、まさに夫と子どもたちがポケモンカードゲームで盛り上がっているところだった。ゲームもクライマックスに差し掛かっているようだったので、少し早めにケーキをお皿に乗せてスタンバイさせておく。無事ゲームが終息を迎えると、子どもたちが「ケーキだー!」とウキウキ食卓のほうにやってくる。「あ、名前のプレートがついてる!やったー!」と喜んでいるのを見て、やっぱりプレートつけてよかったーと胸を撫で下ろす。さらにはやはりろうそくもつけたがり、それぞれのケーキに好きなようにろうそくを刺す作業をしてもらった。

無事セッティングができたらライターでろうそくに火を灯し、みんなでハッピーバースデーの歌を歌った。みんなで拍手すると同時に子どもたちがそれぞれのケーキのろうそくを吹き消す。その後早速ケーキを食べはじめ、おいしいおいしいと嬉しそうな子どもたち。よかったよかった。これで私(と夫)の我が子の誕生日における親としての務めは果たした。なんだかとってもやり切った感。

実は私には、少し大げさなまでにお誕生日のお祝いは子どもたちのためにしっかりやってあげなければ、という脅迫概念とも言えるくらいの思いがあり(その割に大したことはしないのだけど、少なくともケーキを買うのは毎年マストな気持ちがある)、もはや子どもたちのためでもあるけれど、その自分の中にある思い?執念?を成し遂げないと、なんだか落ち着かないのだ。よく行事ごとは親の自己満だなんていうこともあるけれど、そういう側面は確かに否めないよなぁ、と思う。

私はまだお腹いっぱいだったのでレモンタルトは後々食べることにして、今度こそ夕方の外出に向けて身支度を始めた。先ほどは近所に出かける程度のワンマイルコーデでケーキ屋まで行ったけれど、今度は何駅か電車に乗ったりもするお出かけなので、しっかり身なりを整えたい。ちゃんとメイクもして、お出かけ用の服装に着替えた。今日は白のリブニットに、ワインレッドのワイドパンツを履くことにした。子どもたちの夜ご飯の準備を簡単に済ませて、あとは夫にお願いして、17時頃に家を出た。

この日の夜のお出かけの目的は、ある書店さんで開催される作家さんのトークイベントだった。私の自宅の最寄駅から3駅と比較的近い場所にある書店さん。その独立系書店さんは以前から名前は聞いたことがあって存在も知っていたけれど、なんとなく今まで訪問する機会がなかったので、今回イベントを機に初訪問できるのが嬉しかった。イベントは、たまたま私がどちらも好きな二人のエッセイ作家さんの対談イベントということで、告知を目にして参加申し込みをしたときからこの日を楽しみにしていた。

夕方の時間帯の外出は珍しく、少しずつ陽が落ちはじめる夕暮れどきの街を歩くのはなんだか新鮮でワクワクした。普通だったらみんなが家路に着く時間帯に、私はこれから目的地へと出発する。お出かけはこれからだ。なんだかそれだけで面白い、楽しい。電車で移動をして、書店さんのある駅で降りる。書店さんは駅から近くて、Googleマップを頼りに道を進んだらあっという間に着いてしまった。なんだか少し懐かしさのある小さな商店街を抜けた先、静かな住宅街にさしかかるあたりに、その書店さんはポツンと立っていた。

お店はレンガ調の外壁がかわいらくし、建物のこじんまりとした大きさと合わせて、なんだかファンタジー小説の物語の中に現れそうな少しメルヘンな雰囲気を感じさせる佇まいだった。それだけでもなんだか特別な感じがするのに、さらにはだんだんと辺りが暗くなってくる中で、お店の看板を照らす小さなランプの明かりと窓から漏れ出ている店内の橙色の灯りが夜の暗闇にぼんやり浮かび上がる感じが、さらにその建物の幻想的な雰囲気に拍車をかけているようだった。小さい頃は特にファンタジー小説が大好きだった私、その物語の世界から飛び出てきたかのようなお店の佇まいに密かに胸が高鳴った。

ドキドキしながら店内に入ろうとお店のドアに近づくと、そのドアノブまでもがアンティークな造りになっていて素敵だった。お店の方にトークイベントに来た旨を告げると、上の階に案内され、びっくりするくらい急で狭い階段を慎重に登った。2階に上がってみると、そこは外装や1階の洋風な造りとは異なり、畳が敷かれた和室になっていて、靴を脱いで上がるようになっていた。

恐らく6畳ほどのこぢんまりとした空間の中、窓辺にはテーブルを挟んで椅子が二つ並べられており、その前の畳にはあちこちに無造作にいろんな色や形の座布団が並んでいた。いくつかの座布団には既に座っている人たちがいた。恐らく二つの椅子に今日の主役の作家さんたちが座り、私含め観客たちが座布団に座るのだろう。私は壁際の座布団の一つに腰を下ろし、トークイベントの開始までなんとなくぼーっと待機した。

時間になると、作家さんお二人が和室に上がってきて、お店の方がお二人を紹介してくれる。作家さんお二人の自己紹介にその場のみんなで拍手をして、対談が始まっていった。対談といってもとてもカジュアルな雰囲気で、作家さんお二人はもともとお友達ということもあり、和気あいあいとトークは進んでいった。お二人がエッセイ本を出版するまでの道のりや日々エッセイを書くことへの考え方感じ方、現在の心境やこれからの目標など、最初から最後までとても興味深いお話で、じぃっと聞き入った。

ただ話を聞きながら唯一気がかりだったのが、座布団に座り続けているとどうにもお尻が痛くなってきてしまって、途中からなんとかお尻が痛くならないようにと度々姿勢を変えて頑張った。お二人の話に集中したいのに、尻の痛みというくだらないことに気が散っている自分がもったいない!と思いながらも、お尻が痛いものは痛い。なんとか姿勢を変え変え、トークに意識を戻そうと努めた。

質問コーナーも入れて約一時間半のトークイベント。最後には大満足で終わりを迎えた。その後お二人の本の販売などもしていたのだけど、私は既に以前購入済みだったので、そのままお二人にお礼を言って、お店を退散した。とても素敵なイベントで、来てよかったな、と思いながら駅までの道を歩く。

20時頃の商店街は既にシャッターが降りているお店もいくつかありながら、まだまだ賑やかだった。暗い夜の空の下浮かび上がるお店の看板の灯りが、なんだかけばけばしさもあると同時に、どこか幻想的に感じられた。そんな自分の目に映る街の雰囲気が気に入って、思わずスマホでその景色の写真を撮った。私の日々の生活では夜に外出することは珍しいので、逆にその滅多にない機会があると、その景色がいちいち新鮮で、すごく尊いものに思える。写真に収めておきたくなる。

電車で自宅の最寄り駅まで戻って、駅から自宅までは約10分の距離をゆっくり歩いた。夜のお散歩、少しそよ風を感じながら半袖で歩いていてちょうどいいくらいの気候だった。気持ちよかった。でも自宅に着く頃には、体温の上がった体が少し汗ばんで、首周りがじとっとしてした。玄関から家の中に入ると、若干もわっとした空気が私を包みこむ。夜気から自宅の馴染みの香りの中へと、再び溶け込んでいく。まだ起きていた子どもたち、そして夫が「おかえりー」と出迎えてくれた。

夫が具沢山の豚汁を大人の夕飯に作ってくれていて、私の分もあるというので喜んでいただいた。夫が作る豚汁は具材がゴロゴロ大きめで、汁物というより立派なおかずの一品と言えるくらいボリュームがあって食べ応えがある。白いご飯と夫の豚汁だけで大満足の遅めの夕飯。外出のあと、美味しいご飯(しかも誰かが作ってくれたもの)の元に帰って来れるって最高だ。

そして今日の私には、夕飯後のデザートにレモンタルトが待っていてくれている。お昼にレモンタルトを買ったときから、これは夜の外出から帰ってきた後に食べようと目論んでいたのだ。子どもたちが寝静まった後、レモンタルトを冷蔵庫から出してきた。

タルト生地にの上でピカピカ光る黄色いレモンクリームのさらに上にはふんわり施されているメレンゲクリーム。メレンゲ、レモンクリーム、タルトをバランスよく一口分フォークですくいあげ、ゆっくり口に含んだ。ほどよいレモンの酸っぱさとメレンゲの優しい甘さのバランスが絶妙だった。そこにタルトの香ばしいサクサク食感が加わって、「これ、私がめっちゃ好きなやつ!」と心の中でガッツポーズをする。一言でレモンタルトと言っても世の中にはいろんなタイプのレモンタルトがあって、このレモンタルトはまさに私の好みのものだったのが嬉しかった。

朝から盛りだくさんの一日、最後に楽しい夜の外出を終えて、夜中のリビングで一人レモンタルトを口にする。充実した一日を締めくくるのにぴったりな味と時間だった。

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