きざんで、にこんで、からめて
幼い頃、台所に立つ母を見るのが好きだった。
材料を切ったり、調味液を使ってボウルに何かを漬けてたり、油を使って何かを揚げてたり…。「こんな風にして出来上がるのか」と目を輝かせていた。エビが実は黒くて、熱を入れて初めてあのいつも目にする赤色になると知った時は幼かった自分にとってみれば大発見だった。いつしか自分でもやりたいと思うようになるが、決まって言われるのは「危ないからダメ」の一言。小学生時代の話なので、今にして考えてみればさもありなんという気もする。
同じ時期、料理番組を見るのもすごく好きだった。
「どっちの料理ショー」という、関口宏と三宅裕司が司会を務める料理対決バラエティ。司会が両陣営に分かれ、それぞれの料理を豪華な食材、そして一流のシェフが腕をふるいスタジオで作り上げる。パネラーは「どっちの料理」を食べたいかを多数決で決め、勝者はごちそう、敗者はおあずけ。そんな番組だった。
「鉄火丼vsうな重」の回が放送された日、漬けにされたマグロを見た少年・スザン門くんは風呂に入った際に手桶の中にタオルを入れ、そこにボトルからシャンプーとボディソープをぶちまける。「漬け」という行為に憧れた子供が繰り広げるもったいないおばけもビックリの料理ショー。脳内スタジオの関口宏は僕の調理工程を煽り立て、草彅剛からは「うわー!こんなんされたら迷っちゃうよー!」の声。あの時は妙に減りの早いシャンプーとボディソープの謎に母親は参っていたことであろうと思う。申し訳ないことをしていた。
……このように料理に憧れる日々が長年続く中、ついに始まる一人暮らし。料理をしない手なんてないと言わんばかりに調理器具を揃え、材料を買い、そしていざはじまる料理づくり。初めて作った料理は親子丼だった記憶がある。鶏もも肉と玉ねぎと卵、そしてめんつゆだけで作るお手軽バージョンだったが、使ったつゆが「創味のつゆ」というそこそこにいいやつだったためか、これがなかなかに上手くいき「天才なのでは?」と自画自賛を送ったことも鮮明に覚えている。
やはり成功体験というのは重要なもので、こうなるとどんどんハマっていき、妙な調味料や調理器具なんかを揃えてみたりして、使い勝手に一喜一憂したりしていた。うちの台所でなかなか使わない調理器具ナンバーワンはポテトマッシャーだろうか。ポテトサラダとコロッケ以外には出番がないので、調理スペースにひっかけるS字フックの肥やしになってしまっている。ドライバジルなんかも、カツレツを作る時に豚肉にあらかじめふりかけたり、一部パスタなんかにしか使わないので微妙に困っている。かけたらかけたで美味いのだが。
あこがれのタレントさんが料理の話をしているとテンションが上がったりもする。声優ラジオをよく聞くので、小野坂昌也、安元洋貴なんかはその筆頭であろうと思う。この二人に共通しているのは「姉の料理を手伝わされた」から料理がうまくなったという経緯。知人にも同じ経緯で料理がうまい人がいるのだが、実はこれはあるあるなのだろうか?
最近は水樹奈々や福圓美里も料理の話をよくラジオでしているので、ちょっぴり「おっ」となる。学園祭学園の一部メンバーや、最近はあまり聞かないが、鷲崎健もよくしていたらしいという話を聞くと、やはりテンションが上がる。料理で繋がる妙な親近感。こちらもあるあるではないだろうか。
この頃は仕事が忙しい時はなかなか台所に立てていないが、時間に余裕があるとくるとローテーションの中にある料理を作ったり、動画サイトで料理動画を見てマネをしてみたりしている。鉄板なコンテンツのためか、徐々に新しい人を発見してはフォローするという行為を重ねている。オススメの料理チャンネルやユーザーがいれば、こそっとマシュマロに送ったりしてみてほしい。
台所に入ることを許されなかったしがない料理人は、今日も調理器具を手に立つ。さて、今日は何を作ろうか…。