心を込めれば人は感動する！のか

エンタメでもモノ作りでもなんでも、
心を込めることの重要性は飽き飽きするほど説き尽くされている。

どれだけ技術的に立派でも、そこに心が伴っていなければ意味がないんだよ、と。

そんな言説を聞くたび、自分は高校時代のある場面を思い出す。

当時、劇団に所属しお芝居や歌のレッスンを受けていた。

公演は定期的にあり、演劇と歌を取り入れたミュージカル風の舞台が多かったように思う。

そんな中でのとある公演の合同練習。

フィナーレで、キャスト全員が歌って幕が降りることになっていた。

今回はその合唱の稽古だ。

お芝居のテーマは重々しく、とてもシリアスなストーリーだった。
そのストーリーの締めを飾る最後の歌は、悲哀と感動を誘うテイストのもの。

曲も歌詞も覚えて暗譜で歌える段階ではあったものの、
自分も含めまだみんな「ただ歌う」といった感じだった。

当然、歌唱の先生は檄を飛ばしながら何度もやり直しをさせる。

一回ずつ歌い直す中で、確かに全体としての歌のクオリティは上がっていった。

その過程で自分は、登場人物の気持ちになりきってそれを歌に乗せることに集中した。

まさに「心を込めて」歌うことに全力を尽くしたのである。

そして、時間的に最後になるであろう回で、自分は込められるだけの心を全て込めて歌った。

この人(自分の役)はどういう気持ちでこの歌を歌っているのだろうか？

ああ、悲しいよな。無念だよな。

みんな死んでしまうんだ。

死んでしまう前の最後の歌なんだ。

ありがとう。ごめんなさい。

今までの人生が全て思い出されるようだ。

これは自分自身へのレクイエムなんだ。

………

………

………

そうして歌い切ると。

聴いていた劇団のマネージャーが感動で泣いていた。

練習の段階なのに泣いていたのだ。

自分だけの影響ではもちろんないだろうが、
少なくとも1人が芯から本気で歌ったことで聴く人の涙を引き出すことができた。

そこで自分は、本当に心を込めて歌った歌は人を泣かせるだけの力があるのだと知った。

そして公演当日。

練習時に比べ、ぜんっぜん心の込もっていない自分の歌声が響いた。

もちろん、歌唱技術は磨いたししっかり真面目に歌ったのだが、
あのときの練習で力を使い果たしていたのだ。

歌う際の集中力、感情といったあらゆるパワーは合同練習の時に空になりました。とほほ。

もし本番でも同じ熱量で歌えていたのなら、
観客席はより一層の感動に包まれていたに違いない。
そう確信できる。
(形上は完璧にやったからある程度の感動は与えていた、と思う笑)

本番で力を出しきれなかった自分がつくづく思ったのは、
いつも全身全霊で心を込めて歌える人はいかに凄いかということ、
そしてそれが最低ラインとして求められるミュージカルの世界がいかに厳しいのかということだ。

無論、それ以降プロを目指すことはなくなった。

にしてもだ。

フル集中で感情を込めきって歌った際のマネージャーの涙。
それは自分の中で確かに「心を込めれば人は感動する」という方程式を作り上げた。

ただ、それを生かして実践しているかといえば、全くもってのNOだ。

だって疲れるんだもん←

なので自分は今、人を真に感動させる珠玉のパフォーマンスではなく、
気軽に楽しむことができるストリップ・エンターテイメントの世界で日々過ごしている。

お客さんに気軽に楽しんでもらうためには、こちらも気軽な心持ちでやるのが一番だ。

大衆娯楽の世界で、一々感動がどうとか魂のなんちゃらとか毎回やってたらサブいと思うわ。

そしてやる側が潰れてしまう。

そういうのに耐えられる人が高尚な舞台芸術の世界などで第一線で活躍されているスターたちなのだろう。

尊敬するけど自分には出来ない。

また、少し話は逸れるが、八代亜紀さんは営業回りの際に疲れてしまい、思わず心を込めずに歌ったところ
かえってその歌が大喝采を浴びた経験からあえて感情を入れずに歌うと決めているらしい。
技術で魅せる歌手だ。

そういうスタンスもあるのかと驚き、価値観が広がった気がした。

そんなわけで今回は、心を込めれば確かに人は感動する、
しかしそれが全てではないし、自分は出来ない、やらないというお話であった。

今日も自分は気軽な気持ち、6割の力で緩くお客様を楽しませようと思う。

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