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SNSでのバズ企画事例集:2024-2025
序章:SNSバズ企画とは何か
近年、SNS上で“バズる”現象が社会的な影響力を持つようになりました。「バズる」とは、SNS投稿や企画が短期間で爆発的に話題となり、多数のユーザーに拡散されることを指します。本レポートでは、2024年から2025年にかけてSNS上で大きなバズを起こした企画事例を網羅的に紹介し、その成功要因や失敗要因を分析します。個人クリエイター(インフルエンサー)が仕掛けたユニークな企画を中心に取り上げつつ、企業が手掛けたマーケティングキャンペーンのバズ事例も補足として盛り込みます。成功した事例だけでなく、バズを狙いながら拡散に失敗したケースについても考察し、何が明暗を分けたのかを解明します。
本レポートの目的は、SNSでバズを生み出す仕組みを初心者にもわかりやすく解説し、読者が自身でバズ企画を実践する際のヒントを得られるようにすることです。プラットフォームごとの特徴や拡散のメカニズム、具体的な事例から得られる成功要因・失敗要因、そして企画立案・実行時の注意点まで、幅広くカバーします。それではまず、2024~2025年のSNSを取り巻く環境とバズの潮流について概観しましょう。
第1章:2024~2025年SNSの潮流
まず初めに、2024年から2025年にかけてのソーシャルメディア環境の変化とトレンドを整理します。この時期、主要SNSプラットフォームでは大きな動きがいくつもあり、バズの起こり方にも影響を与えました。
■ TwitterのX化と新プラットフォームの登場: 2023年にTwitterが「X」へとリブランディングされ、2024年にはその影響が広がりました。従来の「ツイート」は「ポスト」と呼ばれるようになり、UIやアルゴリズムの変更もありました。同時にMeta社(Facebook社)がテキスト中心の新SNS「Threads(スレッズ)」を2023年7月に公開し、2024年には利用者が一時急増しました。ThreadsはInstagramと連携したサービスで、Twitterに代わる存在として注目されましたが、初期の爆発的登録(数日で1億ユーザー)の後アクティブ率が低下するなど、定着には課題も見られました。それでも新興プラットフォームの登場は、人々がSNSに求めるものが多様化している兆候と言えます。
■ ショート動画の台頭: TikTokの引き続きの人気と、それに追随する形でInstagramのリールやYouTubeのショート動画といった縦型ショート動画コンテンツが主流となっています。2024年も若年層を中心に「TikTokでバズる→他プラットフォームへ拡散」という流れが定着しました。企業もショート動画でPRするケースが増え、短い尺でいかにインパクトを与えるかが重要になっています。
■ SNS利用者層と文化の変化: 2024年時点で、SNSユーザーは幅広い世代に及びます。TikTokやInstagramはZ世代・ミレニアル世代に強く、Facebookは比較的年長層に支持され、LinkedInはビジネス層がメインといった棲み分けがあります。また、日本に限らず世界的に、SNS上のコミュニティ文化が成熟してきました。特定のミーム(ネット上の流行ネタ)やハッシュタグ文化が各プラットフォームで形成され、例えばTikTokでは「○○チャレンジ」のような参加型トレンド、Xでは瞬間的なネタツイートや画像がバズる傾向が見られます。
■ アルゴリズムの進化: 各SNSのアルゴリズムも進化・変化しています。TikTokは強力なレコメンデーションエンジンで、ニッチな投稿でも一夜にして何百万再生といった爆発を起こし得ます。Instagramは発見タブやリールでの表示最適化が進み、フォロワー以外にもリーチしやすくなりました。YouTubeは引き続き視聴履歴に基づくレコメンドに加え、ショート動画での新規発見導線を拡充。Xはアルゴリズム表示とフォロー表示を選べますが、有料会員を優遇する動きもあり、拡散力に変化が出ています。LinkedInはエンゲージメント(いいね・コメント)の高い投稿を優先表示する傾向が強まり、単なる自己PRよりストーリー性のある投稿が支持されやすくなっています。ハッシュタグも使われますが、フォロワー以外への露出は主に「〇〇さんがいいねしました」というフィード経由で広がります。つまり直接の繋がりとその先の二次繋がりくらいまでが拡散の範囲です。ただユーザー数自体がFacebook等より少ないため、絶対的なバズ規模はやや小さめですが、ピンポイントで業界関係者の間で大きな話題になることがあります。
■ Threadsの拡散パターン: 2024年時点で新顔のThreadsは、Instagramのフォロワーがそのまま移行しているケースが多く、拡散経路もInstagram的です。つまり、著名人やブランドの場合、既存のInstagramフォロワーがThreadsでも投稿を見るため、初期拡散はフォロワー頼みでした。しかしThreadsではリポスト(リツイートに相当)機能もあり、テキスト主体であるためTwitter的な拡散も一部起きていました。ローンチ直後は各企業公式やセレブがこぞって「初投稿でユーモアを競う」ムーブが見られ、その投稿群が相互に話題を呼ぶ現象がありました(例:外食チェーン同士がThreads上でジョークを言い合い、それ自体がニュースになる)。とはいえ2024年前半には利用頻度が下がったため、Twitterのような活発なバズは限定的でした。今後ユーザーコミュニティが育てば新たな拡散パターンが生まれる可能性があります。
以上がプラットフォームごとのバズ拡散の特徴です。このように、SNSごとに拡散の仕組みやユーザー層が異なるため、バズを狙う際には適切なプラットフォーム選びと、それに合ったアプローチが重要となります。次章では、こうしたプラットフォームごとの拡散メカニズムの違いと、共通するバズの原理について、もう少し踏み込んで分析します。まずは個人クリエイターが生み出したバズの成功事例から紹介します。
第3章:個人クリエイターによるバズ企画成功事例
SNSで最もインパクトのあるバズを生むのは、往々にして個人クリエイターのユニークな発想と行動力です。ここでは2024~2025年に個人が仕掛けて大きな話題となった企画を、プラットフォーム別に取り上げます。彼らはどんなアイデアで人々の心を掴み、どのように拡散していったのでしょうか。その背景やプロセスを詳しく見ていきます。
3-1. TikTokでの個人発バズ事例
● 農家が起こした奇跡:「まいひめおじさんの高級トマトジュース」
2024年、日本のTikTokで象徴的なバズの一つが、熊本県のあるトマト農家「まいひめおじさん」による投稿でした。彼は自家製の高品質トマトジュース(添加物不使用、厳選トマトのみ使用、1本6000円という高級志向)をTikTokで宣伝するという一見地味な試みをしました。しかし、投稿された動画では農家ならではの温かみと商品のこだわりが伝わり、「こんな情熱的な作り手がいるジュースなら飲んでみたい!」と多くのユーザーの心を掴みました。動画が口コミ的に広がり、わずか3日間で100本の高級トマトジュースが完売。これまでSNSと縁遠かった地方農家の商品が、TikTok発信だけで完売するという出来事は大きな注目を集め、テレビニュースでも「SNSでバズった高額ジュース」として紹介されました。成功要因としては、個人のストーリー性(農家の情熱)と、TikTokで流行の「商品を作る過程を見せる動画」フォーマットがマッチしたこと、さらに「高すぎて逆に気になる」という話題性があったことが挙げられます。コンテンツ自体は真面目で押し付けがましくなく、それが視聴者の好感と応援したい気持ちを誘発しました。
● 小さな店から大行列へ:「フーフー飯店」の真上撮影グルメ動画
TikTokでバズった例はグルメ分野でも見られました。東京・錦糸町にある中華料理店「フーフー飯店」は2024年、一風変わったアングルの動画で脚光を浴びました。ある一般の来店客(グルメ系TikToker)が、店内の荷物置き棚にスマホを置き、テーブルを真上から俯瞰撮影するというユニークな方法で食事風景を撮影しTikTokに投稿したのです。料理の全体像と食べる人の手元が同時に映るその映像は「まるで自分がテーブル上空にいるような臨場感」があると話題になりました。また、ネオン風の店内装飾や色鮮やかな料理が真上から綺麗に映えており、「映像映えする中華料理店」として口コミが拡散。特に20代女性を中心に「私もこの撮り方で撮ってみたい!」と同じアングルで訪問動画を投稿する人が急増しました。結果、「#フーフー飯店」のハッシュタグ累計再生回数は約4000万回に達し、一躍グルメスポットとして有名に。平日でも行列ができる人気店となりました。これは個人が生み出した新しい撮影トレンドが店舗の集客に直結した好例です。バズの背景には、「他にはない撮影方法」という新奇性と、「美味しそう・可愛い動画が簡単に撮れる」という再現性の高さがありました。視聴者が自分も試してみたいと思える参加型要素が、バズを持続・拡大させたのです。
● ユーモアから世界へ:「Gen Z 営業 script」トレンドの発端
TikTokでは一人のユニークなアイデアが世界的なトレンドになることもあります。その例が2024年にイギリスのとある小さなB&B(民宿)から始まった「Gen Z marketing script」というトレンドです。これは、若者言葉をあえて年配者が使って商品紹介をするというコミカルな動画で、発端はイギリスのFyfield ManorというB&Bオーナーが宿の紹介を流行りのZ世代スラング満載で語る動画を投稿したことでした。例えるなら「映えスポットだらけでエモい朝食出します!」と渋い紳士が真顔で言うようなギャップの面白さです。この動画がTikTokでバズり、数日で数百万再生を記録。コメント欄も大盛り上がりとなりました。面白さが評価されると、次第に他国の企業や個人クリエイターも真似し始め、大手企業の公式アカウント(例えば有名ファストフード店など)がこぞって自社商品紹介を若者言葉でやる動画を投稿するという現象に発展しました。これにより「#genZmarketingScript」が国際的なTikTokトレンドとなったのです。個人の小さな発案が企業も巻き込むムーブメントになる好例であり、ポイントは「意外性のある組み合わせ」でした。若者言葉×お堅い人という意外性が笑いを生み、コピーされやすいフォーマット(台詞を真似すれば良いだけ)だったため大量の亜種動画が作られ、一大トレンド化しました。
● 趣味のレシピが世界へ:「キュウリサラダチャレンジ」
アメリカの一般ユーザー、ローガン・モフィットさんは2024年にTikTokで一躍有名になりました。彼は無名の料理好きでしたが、ある日「無限に広がるキュウリサラダ」というユニークなシリーズ動画を投稿し始めました。大きな容器いっぱいに薄切りにしたキュウリと様々な調味料を入れ、シャカシャカ振ってサラダを作るというだけのシンプルな内容です。しかし、ローガンさんの飾らない人柄と斬新なレシピアイデア(例えばキュウリ+醤油+MSGなど意外な組み合わせ)、そして豪快に振って混ぜる様子の面白さが評判を呼びました。いつしか彼は「キュウリガイ(Cucumber guy)」としてTikTok上で親しまれ、彼の投稿を見て自分もオリジナルのキュウリサラダを作ってみるユーザーが続出しました。各人が独自のレシピを披露しあう「#cucumbersalad」チャレンジに発展しました。中には切り方に失敗してケガをする人まで出てしまい注意喚起がされるハプニングもありましたが、それも含めて話題性が増し、結果的に全世界で数億回規模の再生数を稼ぐTikTok現象となりました。このケースでは、個人の日常的なアイデアでも「誰でも真似できる」「結果を共有できる」という参加型要素が備わっているとバズにつながることを示しています。また料理系はTikTokとの相性が良く、音や動きの楽しさで引き込める点も成功理由でした。ローガンさん自身は「まさかこんなことになるとは」と驚いたそうですが、一連の経験で自身の名前のついたキッチングッズの販売話が持ち上がるなど、個人クリエイターがバズでビジネスチャンスを得る好例にもなりました。
● 音楽から生まれるバズ:流行曲に乗せたクリエイティブ
TikTokでは楽曲の流行がバズを引き起こすこともしばしばです。2024年にはいくつもの楽曲がTikTok発でヒットしました。例えばバッド・バニーというプエルトリコ出身の人気歌手が2025年初頭に出した新アルバムの収録曲「DTMF(Debería Tomar Más Fotosの略、もっと写真を撮っておくべきだった)」は、その郷愁漂うメロディと歌詞がTikTokユーザーの心情に刺さり、多数の「この曲をBGMに過去を振り返る」動画が投稿されました。バッド・バニー本人もこのトレンドに乗って、自分の曲に涙するリアクション動画を出すなど盛り上げたため、楽曲とミームの相乗効果でグローバルなバズに発展しました。またTikTokで過去の名曲がリバイバルヒットする例もありました。ナターシャ・ベディングフィールドの2004年のヒット曲「Unwritten」は2024年末頃からTikTokで突如流行し始め、映画挿入歌をきっかけに劇中ダンスを真似する動画が大量発生しました。アーティスト本人がTikTok上でリアクションやリミックス動画を出したことでさらに火が付き、一時音源使用数が急増しました。このように「音源」はTikTokバズ企画の重要なファクターで、クリエイターが自ら歌や音楽を作ってバズる場合(例:素人が作ったコミカルな曲がバズって一発ヒットするケース)もあれば、既存の曲を巧みに使ってバズ企画化する場合もあります。音楽は国境を越えて共有されやすいため、個人の動画が世界中で真似される原動力にもなります。
以上、TikTokでの個人発バズ事例を見てきました。身近なアイデアや趣味でも、TikTokという拡散力の高い場を得て一大ムーブメントに化ける可能性があることが分かります。次にInstagramでの個人クリエイターのバズ事例を見てみましょう。
3-2. Instagramでの個人クリエイターバズ事例
● 独特のキャラが文章でバズる:「アレン様構文」の拡散
Instagramは写真や動画のイメージが強いですが、2024年に日本のSNS界隈で話題になった「アレン様」はテキスト(文章表現)でバズを生み出した異色の存在です。アレン様は全身美容整形に1億円以上を投じたことで知られる男性インフルエンサーで、整形前後の劇的な変化や豪華なライフスタイルが注目されていました。彼自身はInstagramやブログで独自の文体を綴っており、一人称や語尾、絵文字の使い方までクセになる「アレン様構文」として一部ファンに親しまれていたのです。これが2024年、X(Twitter)上で「アレン様構文面白すぎる!」といった投稿をきっかけに広まり始め、多数のユーザーが真似をして遊ぶブームが起きました。例えば日常の何気ない報告をわざと大袈裟かつ耽美的な表現にして投稿する、といった具合です。アレン様本人の魅力と文章の個性が組み合わさり、Instagram発の流行語が他プラットフォームでバズる逆輸入的な現象となりました。この事例は、キャラクター性とオリジナリティが強ければ媒体を問わず人々を惹きつけること、そして複数プラットフォームで相乗効果的にバズることがある良い例です。アレン様はこれを機にTVなどにも出演し、結果的に自身のブランドを大きく高めました。
● カップルYouTuberの人生イベント:「なこなこカップル」
InstagramとYouTubeを中心に人気を博している「なこなこカップル」という関西出身の男女ペアがいます。彼らはUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)で出会ったことをきっかけに付き合い始め、その日常を面白おかしく発信する動画で支持を集めてきました。2024年、このカップルに大きな節目が訪れます。3月に婚約・結婚発表、そして10月に入籍報告——ファンにとっては待望の展開でした。Instagramでは結婚指輪の写真や2人の晴れ着姿などが投稿され、多くの祝福コメントとともに数十万以上のいいねが付き、大いに話題に。Twitter(X)でも「なこなこ結婚」がトレンド入りするなど、ネットニュースにも取り上げられました。彼らは元々160万人以上のYouTube登録者を抱える人気者でしたが、人生イベントをコンテンツ化することでさらに注目度を上げた形です。ファンにとっては推しのハッピーエンドを見届けられる喜びがあり、また未フォロー層にも「SNSで有名なカップルがゴールイン」と広く知られることで新たなフォロワー獲得にもつながりました。リアリティとドラマ性——実在のカップルの物語——は、多くの人の関心を引く強力な要素です。彼らはアパレルブランドやコスメブランドもプロデュースしており、結婚を機にそれらのプロモーションも兼ねるなど、マーケティング的にも上手く波に乗せたと言えるでしょう。
● 趣味が実を結ぶ:中町綾の「アサイーボウル専門店」
人気兄妹YouTuberである「中町兄妹」の妹、中町綾さんも2024年に興味深い挑戦をしました。彼女は自身のファッションやメイクのセンスが若者に支持され、Instagramでも多くのフォロワーがいますが、8月に自身プロデュースのアサイーボウル専門店「I♡ACAI」をオープンしたのです。オープン初日からSNSで話題沸騰し、開店1時間前には長蛇の列ができたほど。綾さんは元々アサイーボウルが大好きで、自分の理想の一杯を作りたいという想いから店を出したとのこと。その過程もYouTubeやInstagramで公開し、ファンは親近感を持って開店を見守りました。お店が開いてからは、フォトジェニックな店内装飾や美味しそうなアサイーボウルの写真がInstagramに多数投稿され、「おしゃれで美味しい!」と口コミが拡散。食べ物系のリアルビジネスとSNSスターの融合による成功事例です。このケースでは、コンテンツ発信→ファンコミュニティ形成→リアル店舗集客という流れが上手くいった例と言えます。綾さんの影響力もさることながら、「商品自体のクオリティが高い」「SNS映えする店づくり」という点で一般客にも評価され、リピーターも獲得しています。個人クリエイターが自身のブランドを立ち上げる際、SNSバズを味方につけて軌道に乗せる好例として注目されました。
● 海外のフォロワーも魅了:平成フラミンゴの快進撃
「平成フラミンゴ」はNICOさんとRIHOさんからなる女性YouTuberコンビで、小学校1年生からの幼馴染同士という強い絆を活かした笑い溢れる動画が人気です。彼女たちは2020年頃から活動開始し、2024年にはYouTube登録者が360万人を超えるまでに成長しました。Instagramでも二人の日常オフショットやファッションが人気で、特に10代~20代女性の絶大な支持を得ています。2024年、彼女たちはYouTubeのみならず活躍の幅を広げ、日本の深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン0」のパーソナリティに抜擢されました。SNS発のクリエイターが伝統的メディアに進出することでまた逆にネット上で話題となり、「ラジオでも面白すぎる」と切り抜き音声がTwitterに出回ったりしました。また平成フラミンゴは海外にもファンを増やしており、英語や他言語でコメントが付くInstagram投稿も増えています。コメディ動画の笑いは国境を越えやすく、ファンが字幕を付けて拡散するなどUGC(二次創作的なファン投稿)も貢献しています。彼女たちのバズの秘訣は、長年の友情から来る自然体の掛け合いと真似したくなるギャグ(動画内のフレーズが若者の間で流行語になることも)でしょう。常にトレンドを意識しつつ自分たちの色を出すクリエイティブが人々を引きつけ、個人クリエイターでもテレビ・ラジオを巻き込む存在になり得ることを示しました。
3-3. YouTubeでの個人クリエイターバズ事例
● 世界トップYouTuberの破壊力:MrBeastの挑戦企画
YouTubeと言えば世界的な人気者MrBeast(ミスタービースト)を外すことはできません。彼はアメリカの個人クリエイターで、桁外れのスケールの企画と大盤振る舞いの賞金・プレゼントで知られています。2024年もMrBeastは次々とバズ動画を生み出しました。その一つに「Beast Games」と称した大会企画があります。これはAmazonのプライム番組として製作された大規模チャレンジ企画で、様々な競技で競わせて勝者に賞金を与えるものです。撮影の過程で44ものギネス世界記録を更新したとも報じられ、リリース直後の動画は1日で5000万再生を超える勢いを見せました。彼の動画がこれほどバズるのは、やはり投じる予算とアイデアのスケール感が視聴者の度肝を抜くからです。例えば「100人の子供 vs 100人の大人、勝つのはどっち?」といったシミュレーションゲーム的企画から、チャーター機を使った鬼ごっこ、大豪邸を丸ごとプレゼントするといった企画まで、現実離れした内容が「次は何をするんだ?」と世界中で注目されています。MrBeastは2024年時点で個人のYouTubeチャンネル登録者数が史上最多(1億人超)を誇り、その影響力で動画公開=即トレンド入りという図式ができています。ただ注目すべきは、彼が常に視聴者目線で企画を設計していることです。テンポの良い編集、興奮と驚きの連続、そして最後は心温まる結末(賞金で救われる人がいる等)で締めるストーリー性。これらがバズを生む要素として計算され尽くしています。日本のYouTuberを含め、世界中のクリエイターが彼の手法を研究するほどで、まさに現代のバズ企画の王道を行く存在と言えるでしょう。
● 日本発の大型コラボ:ヒカキン ✕ 浜田雅功
日本でもYouTubeの影響力はテレビに匹敵するほどになりましたが、2024年に象徴的だったのがトップYouTuberとテレビ界大物のコラボです。日本のトップYouTuberヒカキンさんが、ダウンタウンの浜田雅功さん(お笑い界の大御所)とYouTubeでコラボ動画を公開しました。内容はヒカキンさんが浜田さんに1日密着し、色々なゲームやトークを繰り広げるというもので、公開から数日で再生数が1000万回を突破する大ヒットとなりました。元々異業種コラボという点で話題性は抜群でしたが、動画内で浜田さんが普段見せないような素のリアクションを連発したことで視聴者の笑いを誘い、「伝説的コラボ」としてTwitterなどでも大きな話題になりました。テレビでは見られない自由な企画が実現した点が視聴者に刺さり、コメント欄も絶賛の声で溢れています。この事例は、メディアミックスのバズと言えます。テレビで有名な人物がYouTubeに来ることで若年層に再発見され、逆にYouTuber側はテレビニュースなどでも取り上げられて認知度をさらに上げるという相乗効果が生じました。今後も有名人とネットクリエイターの垣根は低くなりつつあり、2025年にはますますこうした大型コラボが増えるでしょう。
● 挑戦シリーズの国内ヒット:○○してみた企画
2024年、日本の個人クリエイターでも「挑戦シリーズ」でバズを起こした例が多く見られました。特に目立ったのが、YouTuberフィッシャーズによる「100万円企画シリーズ」です。彼らはグループで様々な無茶な挑戦をすることで人気ですが、2024年には「100万円で自販機の商品全部買ってみた」「100万円分ガチャガチャやったら何が出る?」など、わかりやすくインパクトのあるタイトルと内容で連発しました。これらの動画は例外なく数百万再生以上を叩き出し、SNSでも「またバカなことやってる笑」と拡散されていきました。大金を使う派手さだけでなく、結果の意外性やメンバー同士の面白リアクションが視聴者を惹きつけ、シリーズものとしてファンを楽しませました。また別の例では、女性ソロYouTuberが「24時間生活」ネタでバズを起こしました。ある女性YouTuberは「猫カフェに24時間泊まって生活したら猫と仲良くなれるか?」という動画を投稿し、これが猫好きの心を掴んで大ヒット。他にも「無人島で24時間サバイバル生活」「24時間青い食べ物しか食べない」など、一日縛りのコンセプト企画が流行しました。こうした挑戦系コンテンツはエンタメの王道で、「結果が気になる」という心理を刺激します。視聴者は最後まで見届けたくなり、コメントで感想や自分ならどうするかを書き込んだりします。結果として動画のエンゲージメントが高まり、アルゴリズム的にもおすすめに載りやすくなる好循環が生まれていました。個人クリエイターでも、着眼点とやり切る力があれば、多くの人を巻き込むバズ企画を成立させられる典型例です。
● 感動で引き込むドキュメンタリー:あるホームレス男性の再起
YouTubeでは過激なものや派手なものだけがバズるわけではありません。2024年には、ある無名のドキュメンタリー系YouTuberが投稿したホームレス男性の再起を支援する動画が異例のバズとなりました。このYouTuberは日頃から路上生活者にインタビューする企画をしていましたが、とある50代男性との出会いをきっかけに、彼が再び社会に戻る手伝いを長期にわたり記録しました。数回に分けて投稿された動画シリーズでは、男性が身なりを整え、仕事探しをし、苦労しながらも一歩ずつ自立に向かう姿が描かれています。最終的に男性が定職に就き、新しい生活を始めるシーンでは、多くの視聴者が感動して涙したとコメントしました。シリーズが進むにつれ視聴者はまるでドラマを追うように応援コメントや支援物資提供の申し出を行い、それ自体がコミュニティ化しました。最終回となる動画は1000万回以上再生され、ニュースサイトでも「YouTube発、人助けの連鎖」として紹介されました。この事例は、バズ=一過性の笑いや驚きだけではないことを示しています。人々の心を揺さぶり、前向きな連帯感を生むコンテンツも大きなバズになり得るのです。クリエイターは広告収入の一部を男性に寄付し、さらに得られた知名度でNPO支援のプロジェクトを開始するなど、社会的にも意義のある展開となりました。SNSでのバズはときに実社会へのポジティブなインパクトを持ちうるという好例でしょう。
3-4. X(Twitter)での個人バズ事例
● シンプルな笑いが国境を越える:バズツイートの威力
Xでは日々無数の投稿が生まれ消えていきますが、その中でひときわ拡散される「バズツイート」はしばしば生まれます。2024年にも数多くのバズツイートが誕生しました。例えば海外のあるユーザーが投稿したたった一枚の写真:「整列してバスを待つアヒルの行列」。この微笑ましくもシュールな光景の写真は、「月曜日の朝の自分たちみたいだ」などとキャプション付きで世界中にリツイートされ、最終的に数百万のいいねと数十万のリツイートに到達しました。動物系のほっこりネタは鉄板ですが、Xのリアルタイム拡散力で一気に全球へ広がった好例です。投稿者は当初フォロワー数桁の無名アカウントでしたが、この一件で一夜にして有名になり、その後も写真投稿を続けてフォロワー数万人の人気アカウントとなりました。Xではこのように「面白いものを見つけた」というだけで誰でもバズを生むチャンスがあります。特に視覚的にわかりやすいネタは言語の壁を超えるため、国際的バズにつながりやすい傾向です。
● 心に響く短文:140字の感動ストーリー
Twitter時代から伝統的に、短文で人の心を打つ投稿も度々バズります。2024年にはある日本人ユーザーが綴った感謝のミニストーリーが大きく拡散されました。内容は「毎朝コンビニで会う掃除のおばあさんに挨拶を続けていたら、ある日『あなたが声かけてくれるから頑張れるのよ』と言われ泣きそうになった」というようなものです。この実話風エピソードは、読む人に小さな感動と励ましを与え、「優しい世界」「心温まる」と評判に。数時間で何万ものリツイート・いいねが付き、リプライ欄でも似た経験を共有する人が続出しました。Xではネガティブなニュースが話題になることも多いですが、それだけにポジティブな物語は際立って人々の心を捉え、積極的に拡散される面があります。この投稿者は突如注目を浴び戸惑ったそうですが、「優しいお話ありがとうございます」という声に後押しされ、その後も日常の小さな良い話シリーズを投稿するようになりました。バズをきっかけにアカウントの方向性が定まるケースとも言えます。Xでは自分の体験や意見がダイレクトに評価されるため、共感性の高いコンテンツは見知らぬ人同士を結びつける力を持っていることを示す事例でした。
● 技術者コミュニティの星:技術系投稿のバズ
XはIT技術者や専門家が情報交換する場としても活発です。2024年、ある若手プログラマーが投稿した「挫折から成長した体験談」が技術コミュニティ内で大きな話題となりました。その人は初めてリーダー職に就いた際に感じたインポスター症候群(自分が無能に思えてしまう心理)を正直に綴り、どう乗り越えたかをまとめたのです。「最初は自信がなく眠れない夜もあったけれど、小さな成功体験を積み重ねてチームに助けられて成長できた」という内容に、多くのエンジニアが「わかる」「勇気をもらった」と反応しました。この投稿は当初技術系フォロワーの間で広まりましたが、やがて一般層にも「努力と仲間って大事だね」という形で届き、最終的に数万リツイートに達しました。LinkedIn的なストーリーがTwitterでバズる珍しい例ですが、ポイントは専門的すぎず人間味がある語り口にありました。技術コミュニティ発の話でも、専門用語だらけではなく、誰にでもある不安と成長の物語として書かれていたため幅広い共感を呼んだのです。このように、Xではニッチな界隈の話題が品質次第で一般化してバズることがあります。裏を返せば、自分の専門性を活かしつつ普遍的なメッセージを伝える投稿ができれば、個人でもバズを起こせるということです。
● 公共心が賞賛される:社会貢献系のバズ
Xでは社会課題に関する個人の発信が脚光を浴びることもあります。2024年、ある大学生が街中で見かけたベビーカー利用者への駅員の親切対応を描写したツイートがバズりました。「エレベーターが壊れて困っていたベビーカーのお母さんに駅員さんが駆け寄り、協力して階段で運んでいた。世の中まだまだ捨てたもんじゃないと思った」といった内容です。これには「素敵な駅員さんですね」「社会が優しくなる話」と多くの人が心を打たれ、瞬く間に拡散。鉄道会社の公式アカウントもこれに反応し「弊社スタッフの行動を紹介いただきありがとうございます」とコメントするなど実際の企業まで巻き込む事態となりました。このエピソードは最終的に新聞のコラムにも掲載され、投稿者本人は驚きと喜びを語っていました。こうした日常の善行スポットライト的なバズは、日本では定期的に見られる現象です。他にも、災害時にボランティア活動を報告するツイートが称賛とともに拡散された例や、迷子の子を保護して警察に届けた体験談がバズった例もありました。SNSでは悪いニュースが炎上として広がりがちですが、それと対照的に良い行いは称賛したいという人々の心理が働き、リツイートでポジティブな話題を広める文化も根付いています。個人としては、善意や感動を発信することが思わぬバズにつながり、自分の言葉が多くの人を動かす力になることを実感できるでしょう。
3-5. Facebookでの個人バズ事例
● 家族愛が生んだシェアの嵐:祖父母と孫の心温まる動画
Facebookでは写真や動画を家族・友人と共有する文化が根強く残っていますが、それがバズにつながることもあります。2024年に世界的に拡散した動画の一つに、アメリカのとある家族が投稿した「90歳の祖父が初めて曾孫と対面する瞬間」があります。この動画では、耳の遠い祖父に赤ちゃんを抱かせて「ひ孫だよ」と伝えると、祖父が驚き喜んで泣き出す——その姿に家族ももらい泣きする——という感動的なシーンが映っていました。元々は家族内の記録としてFacebookに上げたものだったのが、親しい人が「素敵だから共有させて」とシェアし始め、それが次々に広がって、最終的には数千万回再生・何百万件ものシェアという規格外のバズになりました。コメント欄には世界中から「涙が止まらない」「家族っていいね」という反応が殺到し、投稿者は後に「祖父が多くの方に愛されて幸せです」とコメントしています。このケースは、Facebookにおけるシェアの連鎖の威力を物語っています。友人のタイムラインで見かけて感動→自分もシェア→さらにその友人へ…という雪だるま式の広がりです。家族愛や世代を超えた絆という普遍的なテーマは、文化圏を越えて人々の心を打つため、Facebookのような繋がりベースのネットワークでもバズを生みやすい題材と言えます。
● 地域コミュニティから全米へ:「奇跡の卒業式」
Facebookでは特定のグループ内での投稿が起点となり、後に一般公開されて広まることもあります。2024年、アメリカの小さな町のコミュニティグループで共有された「奇跡の卒業式」の話が全米に知れ渡る出来事がありました。ある高校生が重い病気で卒業式に出られないとわかった際、クラスメイトたちが先生と協力して彼の自宅前で特別な卒業セレモニーを開いたのです。その様子(仲間たちがガウン姿で家の前に集まり、本人に卒業証書を手渡す)は動画と写真で地元のFacebookグループに投稿され、「なんて優しい世界!」と地域で話題になりました。やがてその感動の投稿は地元メディアの目に留まり一般公開され、Facebook上でも共有が拡大。ニュースサイトやテレビ局が取り上げたことで一気に全米中に知れ渡りました。Facebookの投稿自体も何十万回とシェアされ、企画したクラスメイトたちは表彰を受けるまでになりました。このエピソードから、リアルコミュニティとSNSの融合がバズを生むことがわかります。Facebookは実名登録ゆえ地元の知り合いネットワークが強く、その中で感動を呼んだ出来事は次第に大きな渦となり得ます。また、誰もが関わったことのある「卒業式」という人生イベントにまつわる物語だったことも、多くの共感を集めた要因でしょう。個人が投稿した小さな善意のエピソードが、Facebookを媒介に一国規模の話題になる面白い例でした。
● 意外な人の才能が開花:おばあちゃんコスプレイヤー
Facebookでは年配ユーザーも多く、自身の趣味を発信する場にもなっています。2024年、とある日本の72歳の女性がFacebookページに投稿していたコスプレ写真が海外で注目を浴びました。彼女は孫の影響でアニメを見始め、そのキャラクターの仮装を手作り衣装で楽しんでいたのですが、その完成度が非常に高かったのです。家族向けに投稿していた写真がいつしかシェアされ、国内のコスプレコミュニティで「すごいおばあちゃんがいる」と話題に。さらには海外のアニメファンの目にも留まり、英語で「This grandma is cooler than all of us!(このおばあちゃん、私たちよりイケてる!)」と紹介されて広まったことで国際的なバズになりました。高齢者がコスプレというギャップの面白さ、そして衣装・メイクの本格的な出来映えが評価され、彼女は一躍有名に。テレビのインタビューまで受け、「人生いつからでも趣味は始められる」と語る姿に多くの人が感銘を受けました。このケースでは、Facebook自体の拡散というよりもFacebook発のコンテンツが他SNS(TwitterやInstagram)でも取り上げられてバズった面があります。ただベースにはFacebookで日々家族や友人との交流を続けていたからこそ、投稿を見た知人が自信を持って他に紹介できたという側面があります。プラットフォーム間の拡散も今や珍しくなく、良質なコンテンツは媒体を問わず広がることが示された事例です。
3-6. LinkedInでの個人バズ事例
● 就職活動体験談が起こした共感の波
LinkedInは職務経歴やビジネス情報の共有がメインですが、そこでの個人投稿がバズるケースも増えています。2024年、とあるインドの若手エンジニアが書いた就職活動の体験談がLinkedInで大反響を呼びました。彼は新卒時になかなか内定が出ず、500社に応募し、面接50回以上落ちた末にようやく1社からオファーをもらえたという壮絶な経験をしています。彼はその過程で心が折れかけたこと、家族の支えや自分の改善点発見などを赤裸々に綴り、最後に「だから今仕事ができていることが本当にありがたい」と結んで投稿しました。このストーリーは瞬く間に同世代の就活生や若手社員の間でシェアされ、「勇気をもらえた」「自分も頑張ろうと思った」といったコメントが1万件以上付きました。さらに採用担当者や経営者からも「当社でも是非活躍してほしい」といった声が寄せられるなど、単なる共感を超えて新たなチャンスまで生まれる結果となりました。LinkedInでは、このように失敗と成功をセットで語る投稿がバズる傾向にあります。単なる成功自慢では共感されにくいですが、そこに至る試行錯誤や教訓を共有することで読者の心を掴むのです。またビジネスSNSらしく、その共感が人脈形成やキャリアアップ機会につながるという実利的なメリットも見られます。
● プロフィール写真の革新:「#NoFilter運動」
LinkedInの投稿で2024年ユニークだった動きとして、プロフィール写真に関するチャレンジが挙げられます。ある女性マネージャーが始めた「#NoFilter」(ノーフィルター)運動は、自身のプロフィール写真をプロのヘアメイクやフォトスタジオで撮ったものから、敢えて普段着・ノーメイクで自撮りしたカジュアル写真に変更するというものでした。彼女は「自分らしさを大事にし、本当の姿で勝負したい」との思いを投稿に書き添えました。これに賛同した多くのユーザー、とくに女性たちが次々と自分の素顔写真をアップロードして参加の意思表明をしたのです。ハッシュタグ#NoFilterはLinkedIn内で数万件規模で使われ、メディアも「LinkedInで自己受容のムーブメント」として報じました。このバズは興味深いことに、LinkedInという真面目な場でアイデンティティ表現の話題が盛り上がった点です。参加者は「飾らない写真を載せても評価は実力でされるべき」というメッセージを共有し、コメント欄ではお互いを称え合う姿も見られました。最初に始めた女性マネージャーは、これほどの反響になるとは考えておらず驚いたそうですが、自身の思いが多くの人に届いたことで「職場の多様性とありのままの自分でいることの大切さを再認識した」と語っています。個人の信念がLinkedInというビジネスSNSでバズり、社会的な議論にまで発展した好例でしょう。
● 実用情報で存在感:「キャリアTips」投稿
LinkedInではインフルエンサーと呼ばれる有名経営者や専門家の発信が目立ちますが、無名の個人でも有用な情報発信でバズを起こすことが可能です。2024年、ある人事コンサルタントが連載的に投稿した「キャリアアップのための10のTips」が多くの支持を集めました。彼は各投稿で一つずつ、例えば「1. 新しいスキルを毎年1つ習得せよ」「2. メンターを見つけよ」といった具体的なアドバイスを短い文章にまとめました。その実践的な内容が、働く人々に刺さり、投稿シリーズを通して数万のリアクションが付きました。特にインフォグラフィック(図解画像)を添付するなど、視覚的に理解しやすい工夫も功を奏しました。コメント欄には自分の経験と照らし合わせた議論が生まれ、各業界のプロが意見を述べ合う場にもなっていました。LinkedInでは、このように教育・啓発系のコンテンツも高エンゲージメントを得られます。FacebookやTwitterだと堅すぎて敬遠される内容でも、LinkedInなら需要があるわけです。投稿者はこの成功で一気にフォロワーを増やし、セミナー登壇の依頼を受けるなど専門家としての地位を向上させました。自らの知見を惜しみなく公開し、それがバズによってさらに自身のブランド価値を高める好循環を生み出した例と言えるでしょう。
3-7. Threadsでの個人バズ事例
● Threadsローンチ初期の熱狂:有名人のつぶやき
Threadsは2023年半ばに始まったばかりで、2024年にはまだ発展途上でしたが、それでも初期にはいくつかの「バズ投稿」が生まれました。特にサービス開始直後は各界の有名人・インフルエンサーが競って参加し、「一番乗り投稿合戦」のような様相を呈しました。例えばファストフードチェーンのWendy’s(ウェンディーズ)はTwitterでの機知に富んだ投稿で知られますが、Threads開設時にも「Is this thing on?(これ動いてる?)」とユーモラスに投稿し、多くのユーザーから拍手(いいね)が送られました。さらにライバルチェーンの公式アカウントも参入し掛け合いが始まるなど、企業公式同士の冗談の応酬がバズを生みました。ユーザーは「Threadsでも企業アカウント戦争が勃発!」と面白がり、そのスクリーンショットがTwitterなどでも拡散されるなど話題に。これはクロスプラットフォームなバズの例でもあり、Threads内だけでなく外部にニュースとして広まったことで新規ユーザー誘引にも寄与しました。
● Instagramインフルエンサーのカジュアル投稿
Threadsの特徴の一つは、Instagramで多くのフォロワーを持つ人が気軽にテキスト投稿できる点でした。2024年、あるファッション系インスタグラマー(数百万フォロワー)がThreadsで開始した「今日のコーヒー一言日記」という連載が人気を集めました。毎朝飲むコーヒーの写真を貼り、「今日は撮影で朝4時起き…眠気に勝てるかな?」といった何気ない一言を添えるだけの投稿です。しかし彼女のファンにとってはステージ上の華やかな姿とは違う素の可愛らしさが見えると好評で、毎日数万件のリアクションが付くようになりました。他のSNSではこうしたゆるい投稿は埋もれがちですが、Threadsでは逆に日常感ある内容が歓迎されたわけです。本人も「こんな気軽に書いてこんな反応もらえるなんて!」と驚いたそうで、今後の発信の幅が広がったとコメントしていました。
● テキストならではの大喜利文化
ThreadsはInstagram由来で画像が中心かと思いきや、実際にはテキスト投稿がメインです。そのため、ユーザー同士の大喜利的なやり取りも見られました。2024年には、「今日の晩ご飯を俳句で表現してみて」というハッシュタグチャレンジが一部で流行しました。Threads上であるユーザーが始めた遊びで、例えば「カップ麺 湯気と共に 我涙」といった自虐ネタ俳句を投稿したところ、それに乗っかる人が続出。食事内容や心情を五七五に載せる投稿が何千件も集まりました。Instagramでは味わえないテキストコミュニケーションの面白さがそこにはあり、Threads黎明期の和やかなムードを象徴する出来事でした。バズとしては中規模でしたが、エンゲージメント率(参加率)が高く、見ているだけだったフォロワーも気軽に自作俳句を投稿して交流する姿が見られました。Threads運営側も公式アカウントでこのハッシュタグに触れるなど一時コミュニティ全体が活気づきました。テキスト中心とはいえ画像付きも可能なThreadsでは、今後もTwitter的な言葉遊び文化とInstagram的なビジュアル文化が融合したバズが出現するかもしれません。
以上、主要SNSプラットフォームごとに個人クリエイターのバズ成功事例を見てきました。それぞれの場で、個人の情熱や創意工夫が如何に多くの人を動かし、時に企業や社会全体をも巻き込む力を持つかが感じられたでしょう。次章では、企業が手掛けたバズ企画の成功事例に目を向けてみます。個人とはまた違ったアプローチや工夫がありますので、比較しながら見ていきましょう。
第4章:企業によるバズ企画成功事例
企業がマーケティング目的で仕掛けたSNSキャンペーンも、うまくはまれば爆発的なバズを生みブランド認知を高めます。ここでは2024~2025年に話題となった企業発のバズ企画を紹介し、そのマーケティング手法や成功のポイントを分析します。個人と違い、企業は計画やリソースを投入している分、戦略的な工夫が凝らされているのが特徴です。一方で、近年は企業もユーザー参加型や共感重視の手法をとることが増えており、その点では個人のバズと共通する部分もあります。では具体例を見ていきましょう。
4-1. 国内企業のバズキャンペーン事例
● セガ公式の「#カバンの中身でPR」
ゲーム会社セガは2024年、Instagram上でユニークなPR投稿を行い成功しました。テーマは当時流行していたハッシュタグ「#カバンの中身」(バッグの中に何が入っているか紹介する投稿が流行)です。セガ公式アカウントは、ゲームショウに出展する新作ゲームをPRする際、キャラクターのカバンの中身を公開するという切り口で投稿を作成しました。中にはゲームに関連するアイテムや小ネタが散りばめられており、ファンにはたまらない内容です。ぱっと見は普通の「カバンの中身」投稿に見えるため企業色が前面に出ず、しかしよく見るとゲーム宣伝になっているという巧みさがありました。これが「宣伝っぽくなくてセンスある!」とユーザーに受け、通常の告知投稿では得られないほどの反響(いいね・コメント)を獲得しました。セガの例は、流行ネタに自社要素をうまく混ぜ込むことで広告臭を抑え、ユーザーに楽しんでもらう企業投稿の成功例です。一般ユーザーの投稿と地続きの文脈に載せることで、埋もれず拡散してもらいやすくなりました。
● シャトレーゼの美麗スイーツ投稿
洋菓子メーカーのシャトレーゼは、Instagramでのブランディングに力を入れている企業の一つです。2024年には特に「エモーショナルなビジュアル訴求」で成功しました。ある投稿では、自社の焼き立てスイーツの美しさを際立たせる写真に、擬音語を駆使したキャプションを添えました。例えばチョコレートケーキの写真に「しっとりとろける、ん~っ!という食感」といった具合です。また「焼き立て食感早見表」というユニークなグラフィックを作り、どの商品がどんな食感か視覚的に示す工夫もしました。これによりユーザーの五感に訴え、「美味しそう!」「今すぐ食べたい!」というコメントが殺到。投稿保存数も多く、結果的にプロモーションとして大成功しました。ポイントはInstagramらしい高品質なクリエイティブと遊び心ある情報提供を両立させたことです。従来、企業公式がユーザー風投稿をしても埋もれるリスクがありましたが、シャトレーゼは企業ならではのプロ品質の写真と、親しみやすいコピーライティングで差別化しました。「詳しくは画像をチェックしてね」という誘導文も功を奏し、ユーザーがスワイプして複数画像を見る行動を促せたこともエンゲージメント向上につながりました。
● アサヒ飲料のレシピ動画:三ツ矢サイダー×グミ
飲料メーカーのアサヒ飲料は2024年、若者に人気のお菓子「グミ」と自社飲料を組み合わせた意外なレシピ動画をInstagramに投稿し話題になりました。これは炭酸飲料「三ツ矢サイダー」の公式アカウントが企画したもので、グミを使ったオリジナルドリンクレシピを紹介するショート動画です。三ツ矢サイダーの透明なグラスにカラフルなグミを沈めてアレンジドリンクを作る様子は見た目に楽しく、音を立ててグミがはじけるようすなどASMR的要素も含まれていました。当初は「なんでグミ?」と思われたこの組み合わせですが、投稿文で「グミ好き社員が開発しました!」とユーモラスに触れたことで親近感が増し、結果的にグミ好きコミュニティと三ツ矢サイダーファン双方の関心を引くことに成功。コメント欄には「こんな発想なかった」「今度やってみます」と肯定的反応が多く寄せられ、実際に真似して作った写真を投稿するユーザーも現れました。企業公式がユーザーの視点で「こんな楽しみ方もあるよ」と提案するスタイルが受け入れられた例と言えます。商品そのものを押し出すのではなく、ユーザー目線の驚きと実利(新しい飲み方)を提供したことで、シェアもされバズにつながりました.
● 味の素「鍋キューブ」縦型ドラマCM
食品メーカーの味の素は、Instagramで「続きが気になる」ショートドラマ形式の動画広告を展開し成功を収めました。鍋の素「鍋キューブ」をPRするために制作したもので、俳優の阿部サダヲさん主演の縦型ミニドラマCMです。一見すると普通の家族ドラマの一場面のように始まり、家族団欒の食卓で鍋を囲む様子がリアルに描かれます。ストーリーの中でさりげなく鍋キューブの商品特徴が活かされており、視聴者には違和感なく製品情報が刷り込まれる仕掛けです。この動画がInstagramに投稿されると、「これ何のドラマ?続きが気になる!」とユーザーがコメントし、それに対して「実は味の素のCMなんです」と種明かしするやり取りが生まれるなど、ちょっとした驚きを提供する形になりました。結果的に広告であるにも関わらず視聴完了率が高く、コメント数も通常の広告投稿に比べ格段に多かったとされています。成功のポイントは、エンタメコンテンツに広告を溶け込ませたことです。プロの俳優と脚本で作り込んだ短編動画はユーザーに最後まで見てもらえるクオリティがあり、「広告を見せられた」感が薄かったため受容されました。Instagram利用者はおしゃれな動画や感動的な動画を好む傾向があるため、その文脈に合わせたアプローチがハマった形です.
● ディズニー映画のSNS特化プロモ
エンタメ業界からは、ディズニー・スタジオの新作映画「インサイド・ヘッド2」(アニメ映画の続編)のプロモーションがSNSで巧みに行われた例があります。通常、映画宣伝と言えばトレーラー映像やポスター画像を投稿するのが定番ですが、この作品ではInstagram向けにオリジナル短編コンテンツを複数制作しました。映画のキャラクター達がSNS風の画面でやり取りするミニ映像や、視聴者に問いかけるインタラクティブな投稿(「あなたの頭の中の感情は今何色?」と投票企画する等)を行い、フォロワーの参加を促しました。これが功を奏し、通常の映画告知以上にエンゲージメントが伸び、「公開が待ち遠しい!」とファンの興奮を高めることに成功しました。つまりプラットフォームに最適化した宣伝をしたことがポイントです。映画のシーンをそのまま載せるのではなく、SNSでユーザーが関与できる形に噛み砕いて提供したことで、プロモーション投稿自体がバズ要素を帯びました。コメントでファン同士の考察が盛り上がったり、他のディズニー作品アカウントがコラボ的に反応したりと、SNSならではの展開も見られました。大手エンタメ企業ほど、そのブランド力ゆえに受動的な宣伝になりがちですが、この例はファン参加型にシフトして成功を収めた好例です。
4-2. 海外企業のバズキャンペーン事例
● Little Caesar’s:「Burn the Burns」キャンペーン
アメリカのピザチェーンリトルシーザーズは2024年、ネガティブな評価を逆手に取った斬新なキャンペーンを展開しました。その名も「Burn the Burns(悪口を燃やせ)」。このブランドは安価なピザゆえに味を揶揄されるネットミームがありましたが、それを自虐的に活用する戦略です。リトルシーザーズは、有名なネットミームである“災害ガール”(燃える建物を背に微笑む女の子の写真で知られる)が大人になった本人を起用し、TikTok上でネガティブコメントを書いた紙を燃やしていく動画を投稿しました。「リトルシーザーズなんて行く気しない」といった批判的コメントを燃やし尽くし、「価格が安いからって品質も低いと思うな」というメッセージを伝えるのです。この皮肉の効いた動画は大きな話題を呼びました。ネット民は「まさかあのミームの本人を使うとは!」と驚きつつ、そのユーモアに喝采。TikTok上でバズっただけでなく、多くのニュースメディアも取り上げ、結果的に「安いけど美味しいピザ」というイメージ訴求につながりました。自社への批判を逆手にとって笑いに変えるという高度な手法ですが、うまくはまればこれほどのインパクトを生む例と言えます。企業としての自己パロディは、SNS時代には親しみを感じてもらう上で効果的であることを証明しました。
● Dove(ダヴ):「The Face of 10」キャンペーン
化粧品メーカーのDoveはこれまでも社会派キャンペーンで知られますが、2024年には若年層に向けた「10歳の素顔」キャンペーンを展開しました。SNSや美容業界で10代前半の少女にまで過度な美のプレッシャーが及んでいることに警鐘を鳴らす企画で、10歳の女の子たちをモデルとして登場させ「アンチエイジング製品なんて必要ない。彼女たちの肌はそのままで輝いている」というメッセージを発信しました。InstagramやYouTubeで公開された映像は、無邪気に笑う女の子の姿とナレーションで構成されており、見る人に「美しさに年齢制限も規定もない」と訴えかける内容です。この動画がSNS上で共感を呼び、多くの母親や若い女性ユーザーがシェアしました。「自分の娘にもこうあってほしい」「10歳の頃の自分に見せたい」といった声が上がり、ハッシュタグ#FaceOf10が広がりました。Doveは以前からリアルビューティーキャンペーンで女性のありのままの美を支持してきましたが、今回も社会課題と自社理念を結びつけたストーリーテリングでバズを生み、ブランドイメージ向上に成功しました。単に商品を売り込むのでなく、価値観を提示して消費者との強いエモーショナルなつながりを作った好例です。
● Liquid Death:「Marketing Spoof(マーケティングあるあるパロディ)」
アメリカのミネラルウォーターブランドLiquid Deathは、奇抜なマーケティングで知られる新興企業ですが、2024年もユーモア全開のキャンペーンを実施しました。大手炭酸飲料メーカーがしばしば行う「イケてるモデルが新商品を宣伝するCM」を皮肉ったフェイクCMオーディション動画を制作し、SNSで公開したのです。映像では架空の超糖分入り炭酸飲料「Sugary Drink X」のCMオーディションが行われており、モデルたちが「この飲み物であなたもセクシーに!」と必死に売り込もうとします。しかし最後に実はその飲料は砂糖まみれで不健康極まりないと暴露され、Liquid Death(水)が「だから水が一番」というメッセージを添えて締めるという内容でした。このパロディ動画はYouTubeやInstagramで大きな反響を呼び、「笑えるけど考えさせられる」「大企業に喧嘩を売る姿勢が痛快」と注目を集めました。Liquid Deathは元々型破りなプロモーションでファンを増やしており、このキャンペーンでも風刺と商品の価値提案を両立させています。SNSでは真面目なトーンの広告よりも、こうしたエッジの効いたコンテンツの方がシェアされやすく、特に若年層に訴求しました。結果としてLiquid Deathの売上や認知度も着実に向上しており、低予算でもアイデア次第で巨額広告に対抗できることを示す例となりました.
● McDonald’s:「As Featured In」懐かしコラボ企画
マクドナルドは2024年に「As Featured In」(〇〇に登場したあのメニュー)というキャンペーンを展開しました。これはマクドナルドの商品が過去に登場した映画・ドラマ・アニメなどの作中シーンを掘り起こし、その作品名と共にメニューを再フィーチャーするという試みです。例えば映画『リッチー・リッチ』ではマクドナルドが屋敷に出張するシーンがあり、そこに映ったチーズバーガーを取り上げて「リッチー・リッチにも出たあの味!」と宣伝する、という具合です。懐かしのポップカルチャーを引用することで、30代以上にはノスタルジーを刺激し、若年層には「そんなところにマックが?」という新鮮さを提供しました。さらにこのキャンペーンの一環で、Marvelのドラマ『ロキ』とのコラボソースを期間限定提供し、パッケージのQRコードをスキャンすると限定ARコンテンツ(マーベル関連の隠し映像)が見られる仕掛けも導入しました。これには映画ファン・アメコミファンが熱狂し、ソース欲しさに店舗に行列ができるほどでした。McDonald’sのAs Featured Inキャンペーンは、エンタメとの融合とテクノロジー活用で成功した例です。幅広い世代にリーチするため、過去の人気作品から最新のAR企画まで盛り込んだ総合エンターテイメントとして提供したことが、バズにつながりました.
● Tinder:「It Starts with a Swipe」ストーリー拡散
デーティングアプリのTinderは、2024年にブランドイメージ刷新を狙った「出会いはスワイプから」キャンペーンを打ち出しました。どうしても「遊び目的」の印象が強いTinderを、真面目な出会いもある場だと示すべく、実際にTinderで知り合って結婚・長続きしているカップルのストーリーを集めて発信したのです。公式ハッシュタグ「#ItStartsWithASwipe」を掲げ、ユーザー自身にも「私たちカップルのストーリー」を投稿するよう促しました。その結果、世界中から「Tinderで出会ったおかげで今のパートナーと◯周年です」「最初は気軽な出会いだったけど今は家族です」といった心温まる投稿が数多く共有されました。Tinder公式もそうした投稿をリポストし、良い循環を演出。これにより、Tinder=一時的ではなく将来に繋がる出会いもあるという認識が広がり、利用者層の拡大に繋がりました。マーケティング的にはUGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用した巧みな手法です。企業が自分で美談を語るより、実際のユーザーの体験談ほど説得力のあるものはありません。Tinderはハッシュタグを軸にその体験談を可視化・拡散する場を提供し、自然発生的なバズを作り出しました。SNS時代の恋愛観にもマッチし、多くの共感を得た成功例でしょう。
● Tuvalu(ツバル):「The First Digital Nation」国を挙げたキャンペーン
国家規模のバズ企画も紹介します。南太平洋の小国ツバルは、地球温暖化による海面上昇で国土水没の危機に瀕しています。2024年、ツバル政府は「世界初のデジタル国家」構想を発表し、そのPRキャンペーンをSNSで展開しました。これは、将来現実の領土が失われても国民のアイデンティティと文化をデジタル空間(メタバース等)に保存し、オンライン上にツバルという国を存続させようという試みです。この斬新かつ悲壮感もある計画を動画や特設サイトで紹介し、ハッシュタグ#FirstDigitalNationで賛同を募りました。すると多くのユーザーがこの話題を共有し、「地球の危機に対する創意ある訴え」として注目が集まりました。SNS上で話題になっただけでなく、このキャンペーンは2024年のWebby Awards(ネット業界の賞)ソーシャルインパクト部門で受賞も果たし、さらに報道される流れとなりました。ツバルの例は、営利企業とは異なりますが、社会問題の啓発と共感喚起という点で示唆に富みます。自国の存亡をかけた切実さと未来志向のアイデアをかけ合わせたことで、世界中のSNSユーザーの心を動かし、単なるニュース以上の広がり方をしました。目的は国際世論の喚起でしたが、バズ企画として成功したことで気候変動問題への関心喚起にもつながっています。
● Heinz:「Ketchup Insurance」ユーモアとサービス精神
大手調味料メーカーのハインツは2024年、ユニークなカスタマーサービスキャンペーンをSNSで展開しました。その名も「ケチャップ保険」。同社の調査で「約半数の人がケチャップで服を汚した経験がある」という事実に注目し、ケチャップのシミを補償する架空の保険を打ち出したのです。具体的には、UAE地域限定で、ハインツケチャップによる服の汚れ事故が起きた場合、クリーニング代や一時的なサポート(場合によってはクリーニング中のスパ利用!)を提供するというもの。SNSでは「ケチャップ保険はじめました!」とコミカルに告知し、ハッシュタグ#KetchupInsuranceでエピソード募集を行いました。「お気に入りの白シャツが犠牲に…」などユーザーが体験談を投稿すると、ハインツ公式がコメントで保険金(サービス)の申請方法を案内するといった具合で大いに盛り上がりました。もちろん実際にはマーケティングの一環ですが、この遊び心あるサービスはユーザーに受け、「そこまでするかハインツ!」と笑いと好感をもって拡散されました。SNSキャンペーンとしても、単なるプレゼント企画ではなく参加型のユーモアだったことがバズの要因です。人々は自虐エピソードを競って投稿し、保険の結果報告(クリーニングされて戻ってきたシャツ写真など)もシェアするなど、物語性のある広がりを見せました。
● CeraVe:「Michael CeraVe」予想外のコラボ
アメリカのスキンケアブランドCeraVeは2024年のNFLスーパーボウル(全米最大のTVイベント)で話題のCMを放ちました。俳優のマイケル・セラを起用し、彼とCeraVeの名前の響きをかけた「Michael Cera-Ve」キャンペーンです。マイケル・セラはどちらかというと地味でオタクっぽい役柄で知られる俳優ですが、その彼が真面目な顔でCeraVeの製品をPRするCMはシュールで、しかしどこか愛嬌がありました。彼がドラッグストアでCeraVeのボトルにサインをするイベントも行われ、その様子がSNSで拡散されました。ファンからは「語呂が良すぎるw」「こういうの待ってた」と大反響。スーパーボウルCM自体もTwitterのトレンドに上がり、多くのSNSユーザーが「今年一番笑ったCM」と称賛しました。CeraVeにとっては高額なTV広告でしたが、SNSでの話題化まで含めると費用対効果の高いキャンペーンになったようです。ここでの成功ポイントは、キャスティングの妙と言葉遊びです。ブランド名と有名人の名前がたまたま似ていることを逃さず企画に仕立て、さらにその俳優のキャラクター性(ちょっと気弱で真面目)とスキンケアブランドのイメージが絶妙にマッチして笑いを誘いました。スーパーボウルCMは放映後のSNS反響まで含めて勝負なので、クリエイティブが瞬時にネタとして理解され共有されることが重要です。この場合、「CeraVeにCeraがいる!」という一発ネタで視聴者の心を掴み、SNS上での称賛やミーム化まで巻き起こした点で大成功でした.
● Fireball:「Fireball Friday」若者カルチャーの取り込み
アメリカのウイスキーブランドFireballは、若者へのリーチ拡大を図るべく2024年に「Fireball Friday」キャンペーンを実施しました。Fireballはシナモン風味のリキュールウイスキーで、手頃な価格から大学生などに人気ですが、その消費を週末にさらに盛り上げようという試みです。SNS上で金曜日になると「今夜はFireballで乾杯!」と若者がミニボトルを手に写真を投稿する動きを作り出しました。Fireball社は卒業パーティーシーズンに合わせ、このミニボトルを大量に配布する企画を行い、卒業生たちが学帽とFireballのボトルを持って撮った集合写真を競うコンテストを催しました。これがInstagramやTikTokで大流行し、#FireballFriday の投稿が溢れる状態に。優勝者には豪華景品を用意しつつ、それ以上に「卒業生=Fireballで乾杯」が新たな定番儀式のように若者文化へ浸透するというマーケティング効果を得ました。SNSキャンペーンの狙い通り、一般ユーザーによるプロモーションの拡散が起こったのです。成功要因はターゲット層の日常イベントにブランドをうまく結び付けたことです。投稿写真も「楽しい思い出の一コマ」として自発的に共有されるため、広告臭がほぼありません。このように、消費者のライフスタイルにブランドを溶け込ませるキャンペーンは継続的なバズ(習慣化されたバズ)を生み、長期的なファン獲得にもつながります。
● 「Talk Away the Dark」:社会課題への呼びかけ
最後にもう一つ社会性の高いキャンペーン事例として、イギリスで行われたメンタルヘルス啓発キャンペーン「Talk Away the Dark」を紹介します。これは自殺防止支援団体が展開したもので、「心の闇を対話で追い払おう」という趣旨です。2024年、Webby Awardsのソーシャル部門でも表彰されたほど反響が大きかったキャンペーンで、ハッシュタグ#TalkAwayTheDarkを掲げて「自殺について話すことをタブー視しないで」と呼びかけました。印象的な一文を画像化したSNS投稿(例:「闇に飲まれそうなとき、声に出して助けを求めていい」)や、有名人による賛同コメントなども相まって、TwitterやInstagramで多くシェアされました。特にイギリスでは若者の自殺が社会問題化していたこともあり、このムーブメントは多くの人の心に響き、キャンペーン期間中に相談窓口へのアクセス数が増加する効果もあったと報告されています。バズという言葉は軽く聞こえるかもしれませんが、このように人命や健康に関わる重大なテーマでもSNS上で大きな関心を集め、行動変容につなげることができることを示す例です。成功のポイントは、簡潔で共有しやすいキャッチフレーズと、誰もが参加(自分の考えを発信)しやすい雰囲気づくりでした。
以上、企業(および組織)が仕掛けたバズ企画の成功事例を見てきました。いずれも創意工夫に富んだアプローチで、ユーザーの心を動かし大量のシェアやエンゲージメントを獲得しています。次章では、これまで成功事例や前章の個人事例から浮かび上がったバズ成功の要因を整理・分析します。さらに対照的に、バズを狙いながら失敗してしまったケースについても掘り下げ、何がいけなかったのかを考えてみます。
第5章:バズを狙って失敗した事例とその要因
成功事例がある一方で、バズを起こそうと試みながら期待通りにいかなかった、あるいは逆効果になってしまったケースも存在します。ここでは、2024~2025年に見られたバズ企画の失敗事例をいくつか取り上げ、なぜそれが拡散しなかったのか、あるいは炎上的な広がり方をしてしまったのか、その要因を分析します。成功から学ぶことと同様に、失敗からも貴重な教訓が得られます。
5-1. 個人クリエイターの失敗事例
● 「やり過ぎ」て引かれてしまったチャレンジ
個人がバズを狙うあまり暴走してしまうケースがあります。2024年、とある若手YouTuberが行った「〇〇100本食べるまで帰れません」企画は、まさにやり過ぎの失敗例でした。彼はバズっている大食い企画に便乗しようと、激辛カップ麺100個完食に挑戦するライブ配信を計画。過激さで注目を集めようとしました。しかし途中で体調を崩し嘔吐してしまい、配信は中断。視聴者からは「無理するな」「見ていて不快」といったコメントが相次ぎ、一気に低評価が増えてしまいました。当初は刺激に惹かれて集まった視聴者も、リアルに苦しむ様子を目にしてドン引きし、拡散どころか批判の的となったのです。このクリエイターは結局謝罪動画を出す羽目になり、しばらく活動を休止しました。過度な身体張り企画の危険性と、それが視聴者の不快感につながると一転してバズどころか炎上になるという典型例です。企画段階で安全性や視聴者が本当に楽しめるラインを見誤ったことが失敗要因でした。バズ=過激と短絡的に考えるのは危険だという教訓です。
● 便乗ハッシュタグで空振り
Twitter(X)ではトレンドハッシュタグに乗っかる投稿がよく見られますが、安易な便乗は滑ってしまうことも。2024年、あるインフルエンサーが起きた話です。#NewProfilePic(新しいプロフィール写真を公開するタグ)が流行していた際、彼は自分もトレンドに乗ろうとしました。しかしその投稿は単に自身の宣伝写真を貼り付け「どう?かっこいいでしょ?」と書いただけだったため、フォロワーからは「タグ関係ない」「宣伝乙」と冷めた反応を受けました。リツイート狙いだったのでしょうがほとんど拡散されず、逆に一部で「必死すぎて痛い」と晒されてしまう結果に。つまり、トレンドとの文脈不一致が失敗要因です。本来#NewProfilePicは皆が楽しく近況の姿を見せ合う遊びだったのに、そこに自己顕示欲まる出しの宣伝を持ち込めば興ざめします。ハッシュタグの趣旨を読み違えた便乗はユーザーに見抜かれます。このインフルエンサーはその後トレンド参加を控えるようになったといいますが、SNSでは空気を読むことの大切さを痛感させる例でした。
● フェイクを暴露され信頼失墜
個人クリエイターの中には注目欲しさに虚偽の内容を発信し、後で発覚して非難されるケースもあります。2024年海外であった例として、あるTikTokerが「実は宝くじに当選した」と嘘をつきその反応動画を投稿した件があります。彼女は宝くじ高額当選者を装い、涙ながらに喜ぶ動画をアップ。最初は「おめでとう!」と祝福が集まりましたが、すぐに事実ではないと特定されました(宝くじ主催団体から公式発表がなかったなどで判明)。一転して「嘘で注目集めとか最低」「信じて損した」と批判コメントが殺到、フォロワーも激減しました。炎上後に本人は「社会実験だった」などと釈明しましたが受け入れられず、結局アカウントを閉鎖するに至りました。バズ欲しさの嘘は短期的には話題になっても、必ず信用を失い長期的にはマイナスであることが改めて示された事件でした。SNSユーザーは情報に敏感で、検証の目も厳しいため、作り話はリスキーです。信用がクリエイター活動の資本とも言われます。一度偽ってしまうと、その後どんなに面白い企画をしても「どうせまた嘘でしょ」と見向きもされなくなる可能性があります。この失敗例は、バズは信頼の上に成り立つという基本を思い出させます。
5-2. 企業キャンペーンの失敗事例
● 文化的無理解による炎上:Manyavarの広告
企業がバズを狙って外したケースで顕著なのは、文化や社会的感情への配慮不足です。インドの民族衣装ブランドManyavar(マニヤヴァル)は2024年、女優アーリア・バットを起用した結婚式関連の広告を公開しました。広告では、インドの伝統「カンヤダーン」(花嫁の父親が娘を花婿に託す儀式)を現代的に問い直す内容で、「古い慣習にとらわれず娘も大事にしよう」とのメッセージを発しました。本来は女性の尊厳を強調した良い意図でしたが、保守的な層から「伝統への侮辱だ」と猛反発を受けてしまいます。#BoycottManyavarのハッシュタグが拡散し、不買運動にまで発展しました。SNSでの議論は炎上状態となり、結局ブランドは広告を取り下げ謝罪する羽目になりました。意図としては進歩的でSNSバズも狙えそうなテーマでしたが、文化的センシティビティを誤ったためにバズではなく炎上になってしまった例です。価値観のアップデートはセンシティブな課題であり、一歩間違えると「我々の伝統を攻撃する企業」という烙印を押されかねません。Manyavarの件から、企業は特に社会文化的背景のリサーチとステークホルダーへの配慮が不可欠だとわかります。バズを狙うあまり急進的な表現をすると逆効果になり得るという教訓です.
● オーバーハイプの空振り:Zomatoの10分配達
インドのフードデリバリー大手Zomato(ゾマト)は2024年、「料理を10分でお届け」という業界革新サービスを発表し話題をさらおうとしました。しかし、これは人々の期待より不安を煽ってしまう結果となりました。SNS上では「そんな無茶な、交通ルール無視するのか」「配達員の安全は?」と批判や懸念の声が続出し、称賛ではなく疑念の拡散となったのです。ZomatoはTwitterでユーモラスに「ご心配なく、魔法で届けます!」的なノリで返答したものの、火消しには至りませんでした。結局このサービスは十分に展開されないままトーンダウン。過度な約束はかえってブランド信用を損ねるという教訓になりました。当初狙いは「Zomatoすごい!」とバズることだったでしょうが、蓋を開ければ「無謀だ」「安全軽視だ」とネガティブな印象が広まっただけでした。企業キャンペーンにおいて、実現性の低い公約や過剰なハイプ(煽り宣伝)は失敗リスクが高いことを示しています。消費者は宣伝文句の裏側まで考える賢さがありますから、誇大なことを言えばすぐに突っ込みが入ります。Zomatoの例では、少なくともサービス内容の説明不足も原因でした。どうやって10分配達するのか、配達員の待遇は?といった疑問にちゃんと答えないままニュースだけ出したため、不信感を招いたとも言えます。
● ブランドイメージのミスマッチ:Bud Light炎上
米国で2023年に起きたBud Light(バドライト)ビールの炎上は2024年にも尾を引いたケースですが、企業マーケティングの失敗例として非常に大きな影響を持ちました。Bud Lightは有名トランスジェンダーのTikToker、ディラン・マルバニーさんと提携し、彼女の顔を描いた記念缶を制作して宣伝に起用しました。多様性を支持するキャンペーンとしてSNSでも展開されたのですが、これに対し一部の保守的消費者層が猛反発。「伝統的価値観への侮辱」と捉えた彼らは#BoycottBudLightを叫び、店頭でビールを撃ち抜く動画をSNSに上げるなど過激な抗議活動をしました。結果、Bud Lightの売上は急落し、市場シェア1位から陥落という大打撃を受けました。このケースは極端ですが、企業がコア顧客の嗜好とキャンペーン内容のミスマッチによって大失敗した例です。社会正義とブランド戦略のバランス、既存顧客と新規顧客のバランスを慎重に考える必要があります。一度負のバズ(炎上)が起これば、その拡散力はポジティブバズ以上に破壊的になり得るのです。
● クリエイティブが響かなかった:Coca-Cola空振りCM
広告クリエイティブの出来次第でバズるかスルーされるかが決まる例もあります。2024年末、Coca-Cola(コカコーラ)が公開したホリデーシーズンCMは大々的に制作されたにも関わらず、SNS上ではほとんど話題にならず失敗に終わりました。このCMは凝ったCGでサンタクロースが未来都市を旅するという壮大なものでしたが、視聴者には「で、何?」「感動しないし商品も目立たない」と不評。YouTubeでの再生回数も期待以下、Twitterでも誰も語らないという寂しい結果でした。原因として指摘されたのは、メッセージの不明瞭さと視聴者の共感ポイント欠如です。クリスマスのコークと言えばハッピートーンが定番なのに、近未来風ファンタジーで抽象的すぎて心に響かなかったのです。いわゆる「外したCM」ですが、バズマーケティングの観点では巨額を投じてもコンテンツが人々を動かさねばバズらないことを示す例です。逆に言えば、どんなに小規模でも共感を呼ぶストーリーならバズる可能性があるとも解釈できます。Coca-Colaは翌年に向け、よりシンプルで心温まる方向にクリエイティブを修正しました。大企業ほど多くの人のチェックが入り無難になりがちですが、無難すぎると記憶にも残りません。
● リブランディングの失策:Jaguarのロゴ変更
2024年、英国の自動車メーカーJaguar(ジャガー)はブランドロゴの刷新を発表しました。しかしそのデザインがあまりに斬新(従来の跳ねるジャガーのロゴから抽象的な幾何学模様への変更)だったため、SNSで「ダサい」「もはやジャガー感ゼロ」と酷評されてしまいました。会社としては近代化と若返りを図ったつもりでしたが、長年親しまれた象徴を捨て去ったことにブランドファンは落胆。Twitterでは旧ロゴとの比較画像が出回り「Why, Jaguar?(なぜだジャガー)」と嘆く声が話題になりました。これはバズというより批判の拡散ですが、マーケティング戦略上の失敗と言えます。ブランド資産の理解不足と顧客との対話欠如が招いた結果でしょう。リブランディングはしばしば議論を呼びますが、うまくやればポジティブに注目され、下手をすると愛着喪失を招きます。Jaguarは後に微修正を示唆するなど軌道修正に追われました。教訓として、企業の大胆な変革は事前のファンの声分析や小出しのテストが必要だということです。SNS時代では、ロゴ一つ変えるだけでも瞬時に世界中の反応が返ってきます。せっかく注目を集めても賛同より批判が上回れば失策となります。
以上、個人および企業の失敗事例を通じて見えてきたのは、バズ狙いの企画は諸刃の剣であるということです。簡潔にまとめれば、受け手の共感・信用を得られない企画は失敗するということに尽きます。逆に言えば、受け手視点に立ち、適切なユニークさや参加性を盛り込み、タイミング良く誠実に発信すれば成功の確率は上がるでしょう。それでは最後に、それらを踏まえて実際にバズ企画を実践する際のポイントをアドバイス形式で整理します。
第6章:バズ企画成功の要因と失敗の要因分析
前章までで数多くの事例を見てきました。それらを踏まえ、ここではバズ企画が成功するための共通要因と、失敗に陥る典型的な要因を整理します。これにより、読者がSNSで企画を立案・実行する際に何を意識し、何を避けるべきかが明確になるでしょう。
6-1. バズ企画成功の主な要因
①共感・感情を動かすコンテンツ
バズの核となるのは、受け手の共感や感情を強く喚起する要素です。笑い・驚き・感動・憤りなど、何らかの感情インパクトがあるコンテンツは人が人に伝えたくなります。例えば個人の成功物語や心温まるエピソード、ユーモアたっぷりの動画、驚異的な挑戦企画などは「ねえ見て!」とシェアされやすいです。平成フラミンゴやなこなこカップルの事例では、友情や愛といったポジティブな感情を共有できる内容が支持を集めました。企業の事例でもDoveのように社会的メッセージで感動や勇気を与えるもの、Little Caesar’sのように笑いを誘うものが成功しています。要は人々の心に刺さる軸があるかどうかです。技術的に洗練されていても心が動かされなければ拡散は生まれません。
②ユニークさ・意外性
数多の投稿が流れるSNSで目を留めてもらうには、やはり他と違う光るアイデアが重要です。フーフー飯店の真上撮影動画や、Gen Zマーケ脚本、Liquid DeathのフェイクCMなど、「そんな発想があったか!」という意外性が人々の興味を引き付けました。大量の情報に囲まれる現代人は、新鮮なものに飢えています。バズ企画はそのニーズに応えるものでなければなりません。ただし奇抜さだけを狙いすぎると先述する失敗例のように裏目に出ることもあるので、後述する適切さとのバランスが必要です。成功事例を見ると、意外だけど受け入れやすい絶妙な線を突いています。
③参加型・インタラクティブ要素
人は自分も関わったコンテンツほど積極的に広めます。そのため、視聴者参加型の仕掛けはバズを加速させる強力な要因です。TikTokのチャレンジ系トレンド(cucumber saladなど)はまさにユーザーが真似することで広がりました。TinderのItStartsWithASwipeやFireball Fridayのように、ユーザー投稿を促すハッシュタグキャンペーンは多くのUGCを生み、二次拡散を誘発します。参加型でなくてもインタラクティブ性(例:インスタで投票企画やコメントで物語を決める等)を持たせると、受け手が能動的になり熱中度が増します。企業なら、ユーザーに投稿してもらえるお題やコンテスト形式、またコラボレーション(例:ゲーム参加、作品募集)など工夫次第で様々な関与を引き出せます。成功事例の多くには、受け手を巻き込む仕掛けが存在しました。それによって人々は他人事ではなく自分事として受け止め、友人にも薦めやすくなるのです。
④プラットフォーム適応とタイミング
どんなに良い企画でも、それを載せるプラットフォームに合致していなかったり、時期を外してしまうとバズりません。成功事例では、TikTokなら縦型短尺映え、Instagramなら美しいビジュアル、Twitterなら短文インパクト、LinkedInなら専門ストーリーといったフォーマット・文脈への最適化が共通しています。味の素の縦型ドラマCMはInstagram環境に合わせ、マクドナルドのAs Featured InはARやノスタルジーで若年層・ネット文化に合わせました。さらにタイミングも重要な要素です。社会全体の流行や季節行事に合わせた企画は乗りやすい波を利用できます。SpotifyのWrappedが毎年年末にバズるように、年中行事に絡めると人々が話題にしやすいです。今回紹介した事例でも、卒業シーズン、クリスマス、新年など節目に合わせたキャンペーンが効果を上げています。また、突発的なトレンドにすかさず乗る機敏さもSNSでは有効(ただし安易な便乗には注意が必要ですが)。「何をどこでいつ発信するか」の戦略を練ることが、企画の威力を最大化します。
⑤継続性・シリーズ展開
単発の話題もありますが、バズを持続させより大きくするにはシリーズ化や継続性が効果的です。Ryan Trahanのように毎日1セント企画を30日続けたり、ナタチャ・ベディングフィールドの曲トレンドが映画公開に合わせ何週間も続くなど、エピソードを重ねることでファンが成長し布教してくれるケースも多いです。中町綾さんのアサイーボウル店オープンも、準備段階からオープン、その後とストーリーを追わせ続けたことで長期的な盛り上がりを作りました。企業でも、「◯◯チャレンジ第1弾、第2弾…」と段階的にリリースしたり、段階を追って情報解禁する(マクドナルドのAs Featured Inはコラボ相手を順次発表して興味を繋ぎました)などテクニックがあります。バズ企画の連載化は、熱心なフォロワーを獲得しやすく、毎回SNSに注目してもらえるため安定した拡散力を確保できます。ただしマンネリには注意で、毎回少しずつ新展開やサプライズを混ぜつつ維持することが大切です。
⑥コラボレーション・拡散ネットワークの活用
バズ成功にはインフルエンサーや他ブランドとのコラボも大きな助けになります。Kai×Speedコラボのように双方のファン層を融合させて一挙に注目度を上げる方法です。ヒカキン×浜田雅功など異業種コラボも互いのメディア露出を強化しました。企業は人気キャラやミーム起用(Little Caesar’sのミーム採用、CeraVeのマイケル・セラ起用)で成功しています。こうしたコラボはお互いにウィンウィンで、新規層へのリーチを広げる効果が抜群です。また、バズ拡大にはシェアしてくれる協力者の存在も重要です。最初のうちは友人知人や社員、コアファンに情報拡散を促し、それが二次拡散を呼ぶという形でバズが加速します。例えば特定ジャンルの有名インフルエンサーに早期に触れてもらえれば、その人が火種となって一気に広がることもあります(実際、日本のZ世代トレンドランキングでも、人気者たちがそれぞれ自分のフォロワーに紹介したことがトレンド確立に寄与しています)。ネットワーク効果を意識して、誰を巻き込めばドミノ倒し的に広がるか戦略を立てるのは有効です。
⑦誠実さ・信用
派手さとは異なる軸ですが、長い目で見てバズ成功には信用が土台として必要です。例えば、まいひめおじさんのトマトジュースが売れたのは彼の実直な人柄と商品への信頼感が動画からにじみ出ていたからでしょう。逆に言えば、明らかにやらせ臭いものや嘘くさい演出はユーザーに見抜かれ、拡散されません。共感を呼ぶにしても、嘘の感動話ではなく本当の物語だからこそ人は心を動かされるのです。企業キャンペーンでも、Bud Lightのように信頼を損ねると炎上し、逆にHeinzのKetchup Insuranceのように顧客本位の取り組みは「さすが」と称賛されました。SNSでバズを起こす際、一時の注目だけを追わず自分(自社)の信頼と引き換えになっていないかをチェックすることが大切です。信用に立脚したバズは持続性も高く、ファン化につながります.
6-2. バズ企画失敗の主な要因
成功要因の裏返しでもありますが、失敗しがちな点を改めて整理します。
①共感欠如・不快感喚起
最も避けるべきは、見る人に共感どころか不快感や嫌悪感を与えてしまうことです。個人の無謀すぎる挑戦(大食い嘔吐など)は見ている方が引いてしまいましたし、企業でもZomatoの10分配達は安全無視と捉えられ不信を招きました。人が不安に思うこと、嫌がることはたとえ注目を集めても支持にはつながりません。薄いと感じたら企画を練り直しましょう。
②やり過ぎ・背伸びし過ぎ
奇をてらおうとしてやり過ぎると、炎上や拒絶反応につながります。嘘松(作り話)や過激動画の炎上例は典型です。また企業が急にスタイルを変えすぎるとBud Lightのような反発を招きます。多様性重視や風刺など攻めた企画も、受け手の許容範囲を超えると逆効果です。挑戦は一歩ずつ、段階的に行わないと驚きがショックに変わります。Jaguarのロゴ変更も大胆すぎてファンがついていけませんでしたし、Manyavarの伝統批判も踏み込みが急でした。要は、エッジの効かせ方を間違えると、バズではなく炎上やスルーに転じるのです。攻めたい気持ちは大事ですが、リスクシナリオを想定してブレーキをかける視点も必要です。
③自己中心・顧客軽視
ユーザーや顧客を軽んじるような内容は悉く失敗します。企業なら顧客層との乖離(Bud Light)、文化軽視(Manyavar)など、個人なら視聴者を無視した自己満足コンテンツ(例えば長すぎる自慢話や内輪ネタ)は響きません。SNSは双方向メディアですから、一方通行の押し付けは嫌われます。Z世代トレンドグランプリでの事例からも、受け手は敏感にそれを感じ取ります。双方向コミュニケーションの姿勢がないと、せっかく投稿しても広がりません。
④戦略・市場リサーチ不足
企画倒れになる背景には、事前のリサーチや戦略詰めの甘さがあることも多いです。特に企業キャンペーンで、ターゲット分析のミス(Bud Light)、文化圏のリサーチ不足(Manyavar)、SNS受けするクリエイティブ研究不足(Coca-Cola空振り)などは、いずれも準備段階で回避できた可能性があります。また個人でも、便乗するハッシュタグの意味をわかっていなかったとか、既に飽きられたネタに今更乗っかったなどは、情報収集不足です。SNSの流行移り変わりは早いため、常にアンテナを張って企画の旬を見極めないと「それもう古いよ」となりかねません。適切な戦略・リサーチなく思いつきで動くと、バズどころか無風に終わるか、最悪炎上します。
⑤信頼毀損
信頼の重要性は成功要因にも挙げましたが、逆に言えば信頼を損ねる行為はバズの大敵です。例えば、フェイク系の炎上やBud Lightの不買に見られるように、「あなたを信じてたのに」が怒りや失望に繋がると、その感情は強いバズ(ネガティブバズ)になります。しかしそれは建設的ではなくブランドやクリエイターに深いダメージを残します。前述の通り、一度失った信用を取り戻すのは非常に困難です。したがって、バズを狙う際にも自分の誠実さ・ブランド理念から逸脱しないことが肝心です。信用が損なわれると、その後の企画全てが疑われ、広がりにくくなる悪循環に陥ります。
以上が主な失敗要因です。簡潔にまとめれば、受け手の共感・信用を得られない企画は失敗するということに尽きます。逆に言えば、受け手視点に立ち、適切なユニークさや参加性を盛り込み、タイミング良く誠実に発信すれば成功の確率は上がるでしょう。それでは最後に、それらを踏まえて実際にバズ企画を実践する際のポイントをアドバイス形式で整理します。
第7章:SNSバズ企画を実践するためのポイントとアドバイス
本章では、ここまでの分析を踏まえて、読者が自らSNSでバズ企画を実行する際に役立つ具体的なポイントや注意点をまとめます。個人クリエイターであれ企業のSNS担当者であれ、共通して意識すべき事項を成功要因・失敗要因の両面からガイドラインとして提示します。
7-1. バズ企画成功のためのチェックリスト
以下に、企画立案から実行までに確認したい要点をリストアップします。
✓ ターゲットと目的の明確化: 誰に響かせたいのか(Z世代?業界関係者?国民全体?など)、何のためにバズらせたいのか(フォロワー増加?商品購入?認知向上?コミュニティ形成?)を最初に明確にしましょう。これが企画の方向性を決めます。例えば「若い女性にブランド好感度を上げたい」なら共感重視の心温まる内容に、「自社サービス利用者を増やしたい」なら参加型キャンペーンで試用を促す等、目的別の戦略が立ちます。
✓ 共感ポイントはあるか: 企画内容を客観視して、「自分が他人ならシェアしたいと思うか?」を問いましょう。感動・笑い・驚きなど、心が動く要素が盛り込まれているかチェックします。身近なエピソードや人間味、ストーリー性、またはサプライズやギャップなど、何らかのフックが必要です。薄いと感じたら企画を練り直しましょう。
✓ 独自性・話題性の確認: 同じような企画が既に乱発されていないか、あるいは古いネタではないかリサーチします。もし似た例があるなら、どう差別化するか工夫が必要です。二番煎じではバズは難しいです。また現在のトレンドを把握し、絡められるなら絡めます。ただし闇雲な便乗は禁物で、トレンドの文脈に対し自分ならではの切り口が用意できる場合のみです。
✓ プラットフォーム選定と適応: 企画に最適なSNSはどこか考えます。写真映えならInstagram、拡散重視ならTwitter、動画ならTikTok/YouTube、ビジネス系ならLinkedInなど、特性に合わせます。また実行段階では、そのプラットフォームのフォーマットやカルチャーに合わせて表現を調整します(ハッシュタグの付け方、動画の長さ、文体など)。マルチプラットフォーム展開する場合も、それぞれに最適化した形で発信しましょう。
✓ タイミングと頻度: 投稿する日時や頻度も検討します。ターゲットがアクティブな時間帯・曜日を狙いましょう。季節イベントや社会の動きに絡められるならタイムリーに実行します。シリーズ化するなら、初回から継続前提で計画を立て、フォロワーを飽きさせない投稿スケジュール(例:毎週金曜夜更新、など)を組みます。
✓ 参加ハードルの低さ: 視聴者・フォロワーが参加できる要素を入れる場合、それが簡単かつ楽しいか確認します。複雑な応募手順や高コストな参加条件だと広がりにくいです。可能な限り「見る→面白い→自分もやってみたい/シェアしたい」と直感的に行動に移せる設計を心がけます。ハッシュタグは覚えやすく、一目で趣旨がわかるものにします。
✓ コラボや味方の活用: 影響力のある人物や関連ブランドとのコラボができないか検討します。無理に有名人でなくとも、同ジャンルの仲間のクリエイターと連携してお互いのフォロワーを呼び込むのも効果的です。社内なら別部署のSNSと連動、個人なら友人に拡散協力を依頼するなど、初動拡散のネットワークを準備します。ローンチ時に一定の話題量があるとアルゴリズムに乗りやすいです。
✓ 誠実さ・リスクチェック: 企画内容や表現に嘘や過度な誇張、他者を不当に傷つける要素がないか入念にチェックします。また、特定の文化・属性への配慮は十分か、多様性や倫理的に問題ないかも確認を。炎上リスクが少しでもあるなら、事前に対策を講じるか内容変更を検討します。投稿前に第三者(信頼できる同僚や友人)に見てもらい意見を聞くのも良いでしょう。興奮している時ほど冷静なチェックが必要です。
✓ Plan B(プランB): もし想定外の反応(炎上や全く反応がない等)が起きた場合の対処もあらかじめ考えておきます。炎上ならすぐ謝罪or誤解解消の手を打つ、無反応なら投稿文を変えて再投稿するor別プラットフォームでリトライする等。完璧を期してもSNSは予測不能な面があるので、柔軟に動ける体制を準備しておくと安心です。
7-2. 実行時・運用時のアドバイス
★ファンとのコミュニケーションを大切に: 投稿したら終わりではなく、その後についたコメントやリプライにできる限り反応しましょう。ハートを付けたり返信したり、場合によっては次の投稿で質問に答えるなど。双方向のやり取りが増えるほど投稿の露出も増え、結果的にさらなる拡散につながります。またファンとの信頼関係構築にも役立ち、ロイヤルなフォロワーが増えると自発的に宣伝してくれる存在にもなってくれます。
★勢いが出たら拡張を検討: もし投稿がバズり始めたら、その話題をさらに盛り上げる追加コンテンツを投入できないか考えます。例えば裏話動画、メイキング、続編、関連商品の案内(押し付けにならない範囲で)などをタイミング良く出すと、せっかくのバズを次の展開に繋げられます。トレンド入りした場合は、そのハッシュタグを使って感謝メッセージを投稿するのも良いでしょう(好感度アップとさらなる露出に)。
★データ分析とフィードバック: 投稿後の反応を各種指標(いいね数、シェア数、コメント内容、フォロワー増減、サイト誘導数など)で分析し、目標達成度を評価します。うまくいった点は次回以降も伸ばし、予想外の層から反響があればその層向けに追加発信を検討します。逆に批判が目立つ場合は真摯に受け止め、企画の修正や謝罪も視野に。データと声の両面から学びを得て、PDCAサイクルを回すことが継続的な成功につながります。SNSはトライ&エラーがしやすい場でもあります。
★炎上時の対応: 万一炎上してしまったら、速やかかつ誠実に対応します。放置は厳禁です。自分に非がある場合は謝罪と改善策を表明し、誤解なら冷静に説明します。一度で鎮火しなくとも、継続して説明や対話を試みます。誹謗中傷には乗らずあくまで低姿勢で。場合によっては投稿削除や企画撤回も検討します。炎上対応は精神的にきついですが、ここで誠意を示せばその後復活も可能です。Bud Lightの例のように遅れると被害が拡大するので初動が肝心です。
★健康と倫理の優先: 特に個人クリエイターは、自身や周囲の安全・健康を損なうようなことは絶対にしないでください。無理して怪我や体調不良になっては元も子もありません。また法律や規約に反する行為(危険行為の扇動、差別発言etc)も絶対NGです。たとえ一瞬バズってもアカウント凍結や社会的信用の喪失につながります。自分や周りの大切なものを犠牲にしてまでバズる必要はないことを忘れずに。健全に楽しく取り組む姿勢が長続きのコツです。
★ブランディングとの整合: 企業であれば、自社のブランドコンセプトやミッションステートメントと企画内容が整合しているか、実行中もチェックしましょう。一時の流行に飛びついてブランドらしさを失うのは危険です。個人でも、自分のキャラクターと極端にかけ離れたことをするとフォロワーが困惑するかもしれません。バズとブランドのバランスを取り、「この人/この企業らしい」と納得感のある範囲で創意工夫するのが理想です。
7-3. 心構え
最後に、SNSバズ企画に挑む上での心構えを述べます。
SNSでバズを起こすのは、時に運や偶然の要素も絡みます。頑張って計画したものより、ふと投稿した何気ないものがバズることもあります。逆に全力投入した企画が鳴かず飛ばずに終わることもあるでしょう。そうした不確実性もSNSの醍醐味です。大事なのは、一喜一憂しすぎず、結果を糧にできる柔軟さです。
バズは目的ではなく手段です。何のためにバズらせたいのか、その本質を忘れずにいれば、数字に振り回されることなくブレないコンテンツ作りができます。質の高いコンテンツやブランドへの愛情は必ず誰かに届きます。その結果としてバズが付いてくるのが理想です。
また、SNSは生身の人間同士のコミュニケーションの場だという基本も忘れないでください。画面の向こうには感情を持った人々がいます。だからこそ、相手へのリスペクトと思いやりが、企画を成功に導く最も根源的な鍵となります。人と人をつなぐポジティブなバズを目指してぜひチャレンジしてください。あなたのユニークなアイデアが次の大旋風を巻き起こすかもしれません。健闘を祈ります!