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「将棋次の一手」初級者でも分かる!藤井聡太棋王の一手

2025年2月2日 第50期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第1局
主催:共同通信社、高知新聞社など観戦記掲載の21の新聞社、日本将棋連盟
特別協賛:コナミホールディングス
協賛:Calorie Mate
先手 藤井聡太棋王
後手 増田康宏八段

 下図は、増田八段が△8七歩と歩を垂らした局面です。
 同金だと、守りの要の金が玉から遠のくことによって先手陣が弱体化、取らなければ、この垂れ歩が先手陣への攻撃の拠点(足場)として残り、(現状は歩で止められていますが)3三の角が敵陣を睨んでいることも相まって、後に厳しい攻めが生じそうな非常に嫌味な垂れ歩です。
 しかし、この垂れ歩を後悔させる急所の一撃がありました。

<次の一手問題>
 
先手、藤井棋王の次の一手を当ててください。

問題図 難易度は7冠

***

では解答です。

正解
「▲3九飛車」

解答図

 現状2九の飛車が遊んでいます。この飛車を活用させる「▲3九飛車」がその後の展開を見極める好判断。たった1つ飛車を寄っただけですが、後手陣の弱い所(急所)を睨む飛車寄りによって、戦況を大きく打開していきました。
 以下、△3四銀と3筋に厚みを築いていきましたが、▲1七角(下図)と引いた手が、出たばかりの3四の銀を飛車で狙う柔らかい一手で

△3五桂(下図)と銀を守りにいきましたが(歩があれば△3五歩と打ちたいところ、桂ではいかにも苦しい)

以下、▲同角△同銀▲同飛車(下図)といよいよ飛車が参戦し

さらに△4四飛車▲4五歩△4二飛車▲4四桂(下図)と、ここまで進んでみれば後手陣は3筋4筋が攻略され、かつ3三の角の敵陣への睨みも桂で封鎖され、ここからは藤井棋王のペース、いっきに後手玉を寄せ切るかたちとなりました。

 本譜△8七歩(問題図)では、代えて△4四飛車(下図)が有力だったようです。

変化図

 以下、▲同角△同角(下図)で4四の角が敵陣を9九の地点まで睨み

変化図

形よく▲7七桂と受けても△6五桂打(下図)の継ぎ桂(跳ねるのではなく打つ)が強烈で

変化図


▲同桂△同桂(下図)となれば後手の攻めが先手陣の急所に迫り、後手をもって十分戦える展開です。

変化図

 本譜は先手が「▲3九飛車」(下図の解答図)と回る余裕ができたことで

解答図

3九の飛車が3筋を睨むことによって後手陣にプレッシャーを与え、△8七歩を活かした展開にならなかったと思います。
 △8七歩は、むしろ次の一手に選ばれるような手筋中の手筋といった手ですが、流れとして緩手になり得たことで将棋の奥深さを感じました。

 増田八段はこの「▲3九飛」を軽視していたようで、思いのほか差が広がらないことに動揺し、その後にミスが続いたようです。
 「▲3九飛」は局面の急所であり、戦いの急所でもありました。

 棋譜は下記参照(無料)。

 棋王戦公式ブログから、本記事で参考にした、終局直後インタビュー記事の引用です。

(引用始め)

(増田康宏八段へのインタビュー)
――午後に入って桂得になった。中盤戦はどのように感じていたか。
増田「桂得になりましたが、こちらは壁金の悪形ですし、先手陣の厚みもありますので、模様の取り方が難しかったです。ただ、△5二銀(72手目)は感触がよかったのでよくなった気がしましたが、△8七歩に▲3九飛(下図75手目)を軽視していました。そこで差が思ったように広がらず、動揺してミスが続いたように感じます。」

解答図

(引用終わり)

(了)

 棋譜利用について、以下の棋王戦の棋譜利用ガイドライン
「営利を目的とする「棋譜の利用」については、第6項記載の要領でお申し込みください。
Q)「営利を目的とする」とは。
A)閲覧への課金や広告掲載を行うなど、棋譜利用により直接または間接に収益化を図ることは「営利を目的とする」ものとみなされます。」
を参考にしました。
 「閲覧への課金」(有料記事にする)や「広告掲載」など、この記事による営利を目的としない形で記事にしています。

(追記)
 本記事の投稿後に知ったのですが、「対局後」の棋譜利用に関して、知財高裁の判決(事実上囲碁・将棋チャンネルの敗訴)が出たようです。この前出た大阪高裁の判決(囲碁・将棋チャンネルの勝訴)では
・リアルタイム盤面有り放送は違法
・対局後の棋譜利用に関しては不明?
今回の知財高裁の判決では
・対局後の棋譜利用は合法?(棋譜利用ガイドラインはどうなるの?)

 今回(と前回)の棋譜の記事を書くにあたって、「棋譜利用ガイドライン」と「大阪高裁の判決文」を初めて読みました。とりあえず続報を待ちます。


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