絵本は、おとなが子どもに読んであげる本です
福音館書店のフリーペーパー「絵本の与えかた」に載っていた松居直さんの言葉に勇気づけられた。
「絵本は、おとなが子どもに読んであげる本です」
子どもが苦手だった。
というより、どう扱っていいかわからない未知の存在だった。
高校の卒業文集で「子沢山になりそうな人ランキング」で2位に輝いたわたしは、見た目や雰囲気と中身のギャップがここまであるものかと驚いた記憶がある。
自分が親になった当初、子どもは「お世話をする対象」ではあっても「遊ぶ対象」ではなかった。遊び方が分からなかったのだ。
そんなわたしにとって絵本は救世主だった。
おっぱいを飲んで、寝て、泣くを繰り返す小さい人は、おむつを替えて、抱っこして、あやして‥のお世話の段階から、起きている時間が増え、周りへの興味が増してくると、お互いを見つめ合うだけのやりとりだけでは間がもたなくなってくる。
一緒にお散歩をしたり、おもちゃで遊んだりするのだけど、どうしても
"危ないよ" "これは口に入れちゃダメよ" "そっちは行かないで"
といった制御をかけてしまう。
でも、絵本を読んでいるあいだは平穏だった。
同じモノを共に認識している時間が妙に居心地が良く、まだ言葉を交わし合うことができない息子と一緒にいながらも一人の時間を楽しんでいるような、そんな不思議な時間だった。
幼児にとって、絵本は自分で読むための本ではありません。おとなーー母親、父親、保育者、図書館員などーーに読んでもらって、”耳で聞く本”です。
”絵本は、子どもに読ませる本ではなく、おとなが子どもに読んであげる本”だということが、絵本を考えるときの大前提です。また、おとなが読んでやるからこそ、絵本は幼児の成長にかけがえのない、大切なかかわりを持ち、重要な役割をはたすのです。
”絵本は読んであげるもの”
ずっと心の中にあったこの言葉が後押しとなって、息子が小学1年生になったタイミングで、小学校で図書ボランティアを始めた。毎月1回、朝の10分間に地域のボランティアさんが絵本を読み聞かせる。たったそれだけなのだけど、子どもたちは楽しみにしているらしい。
ボランティアを申し込んだら、すぐに司書の先生から手書きのお手紙が息子の連絡袋を通じて届けられた。ボランティアを引き受けてくれたお礼と選書のアドバイスなどが、書写のお手本にしたいくらいの丁寧な字で書かれていた。
ボランティア当日は、玄関で待っていてくださり、文通相手にようやく会えた気持ちで、なんだか感激してしまった。
他のボランティアの方々も人当たりの良い、優しいベテランさんばかり。今回からお世話になりますと挨拶をしたら、まるで初めて立った赤ん坊を目撃したかのごとく喜ばれてしまい、恐縮してしまった。それだけやる人が少ないらしい。
「少しお休みも挟んだわよ〜」と照れくさそうにしながらも、自身の子どもの時から数えて20年続けているおばさまもいた。こういう地域の人に支えられてるんだなぁとジーンとしてしまった。
2年生の教室で読んだのは「おうさまのこどもたち」だ。
おうさまの子どもだからといって、王さまや女王さまになりたいわけではない。
興味関心によってなりたいものも違う。
男の子だって花屋や保育士になりたいし
女の子だって寿司屋やメカニックを選びたい。
選択肢は広い。だから自分で選ぼう。
そんなメッセージを込めて読んでみた。
子どもたちの前に立ったら、もっと緊張するかと思ったけどそうでもなかった。
マスク越しなので、いつもよりお腹と姿勢を意識して教室の後ろまで届くように声は出す。剣道2段は伊達じゃない。
隣の1年生のクラスでは歓声が上がっていた。
どうやら紙芝居のおじさんがいるらしい。
読み聞かせが無事に終わり、教室を出て廊下の窓から1年生の教室の中を見ると、紙芝居はまだ続いていた。ちょうど息子と目が合って手を振る。
マスクの下でも彼が笑顔で楽しんでいる様子が分かって、嬉しかった。
*
小学生は幼児ではないけれど、それでも絵本を読み聞かせる意義は充分あると思う。
絵本は、作家や詩人といった言葉を生業とする人たちや、科学者や研究者といった専門的な知識を持った人たちが、選び抜き、絞り出した、美しい言葉が並んでいる。まさに豊かなことばの宝庫。一冊一冊、作者もテーマも違うし、描かれているものも違う。
絵本を自分で読むことももちろんできるけれど、紙の上を目でなぞるのと、声を出して音の響きを感じるのとではまた違ってくる。それが他者の声なら感じることも変わる。絵本は作者のものであるけれど、読み手が違えば、語り手が異なれば、伝わり方も変わってくると思う。
そこが読み聞かせの意義なんじゃないかとわたしは理解している。
*
ソファに腰をおろした途端、待ってましたとばかりに「これよんでー!」とかけ寄ってくる6歳の息子と3歳の娘。
ちょっと休憩しようと思っただけなのに‥と心の中でつぶやくも、待ちきれない様子で絵本を開く娘と、恐竜の絵本を抱える息子を見たら、自然と笑みがこぼれてしまう。
まぁいいさ。
いつか彼らが一人で本の世界に潜れるように、もういいよと言われるまで母は読んであげよう。
さて、今日は何を読むのかな。
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