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雨の記憶 page5 section 2−1

 7月中旬になった。
 あれからも何度か深川さんは店に来た。
 相変わらず、大した話はできてないが、ちょくちょく注文をもらって、届けては少し勉強を教え、マスターも気を使ってなのか頻繁に休憩をくれるようになり、少し距離が縮まったと思っていた。
 それが1週間ほど、日程で言うとテスト最終日の前日まで続いた。
 そんな日々を過ごして、ある晩に家で疑問が頭に浮かんだ。
 それまで浮かばなかったのも不思議なくらいだが、なぜ深川さんは雨の日にしか店に来ないのか。
 何か雨の日じゃなきゃいけない理由があるのだろうか。
 次来た時、聞いてみようかと思った。
 しかし、それから深川さんは2週間、今日も店に来なくなった。
 マスターに聞いても、俺がシフトに入っていない日も含め、あれから一度も来ていないそうだ。
 何か嫌なことをしてしまったのだろうか。
 嫌なことを言ってしまったのだろうか。
 距離感を間違えたのか。
 そんな考えで頭の中が圧迫されていた。
 同時に深川さんに寄せていた好意の大きさに気付かされ、そして失恋をしたということも悟った。
 それからというもの、バイト中のミスが増えた。
 食器を滑らせり、コーヒー豆を使いすぎたり、コーヒー豆の袋を落として豆をこぼしてしまったり。
 俺は昔から、感情、健康状態、精神状態などがすぐ表情や行動に出てしまう癖がある。
 今回のたくさんのミスも言うまでもなく深川さんのショックによるものだろう。
 それを見兼ねたマスターは、俺に2週間の休暇を命じた。
 欠勤分の給料は、日頃の恩返しも兼ねて有給扱いにしてくれるという。
 言ってしまえば、謹慎処分だろう。
 しかし、このまま出ても迷惑をかけるだけだろう、賢明な判断かつ寛大な措置だと思う。
 マスターには、本当に感謝している。
 この影響は、バイトだけにとどまることなく、学校生活でも出てきていた。
 一刻も早く、立ち直らなければならないが、一体どうしたら。 

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