聴いたよ新譜2021 vol.10
お世話になっております。
前回の更新から珍しく間髪いれずに翌週発売の新譜ですが…
アニメも今期は少しだけ見られました。Odd Taxiとメガロボクス2 NOMADだけ観ましたがどちらも素晴らしかった…観てよかったです。
そして新譜ですが今週たまたまなのか自分の趣味に合う作品が多すぎて未だに興奮冷めやらぬ状況です。この1週間だけでも10枚に絞れないレベルでした…いやなんでこんなに…
ありすぎる
この6枚もレビューしたかったんですが、ちょっと書ききれないのでサムネイルにある10枚について感想を語らせていただけたらなあと思います。もう6月も終わりで上半期ベスト的なのもやりたいなあなんて思ってる最中こんなに好きな感じのアルバムがたくさん来たので正直驚いております…
とにかく今回はサムネにある10枚!
01. Hiatus Kaiyote - Mood Valiant
6年ぶりのアルバム。2年前にフジロックに来日してのライブも記憶に新しく、フライングロータス主宰のブレインフィーダーに移籍してのリリースというのもあり高い注目度でした。フロントマンのナオミ・ネイパーム・ザールフェルトが乳がんの闘病を終え、生きることへのより強い価値観により製作された意味深い作品だと思います。
より軽快で斬新なグルーヴの乱れ打ち
先行で配信されていた楽曲の時点から間違いなくHiatus Kaiyoteそのものといえるトリッキーな展開と、コシがありつつキレッキレの歌声が乗っかって唯一無二のグルーヴを感じることができ、アルバムを聴けば聴くほど彼らのつけにつけた助走とフルパワーのエネルギーを感じることができます。ジャジーでプログレッシブでテクニカルなセンスという印象だったこれまでから、さらに多国籍な要素が混ざって唯一無二さに磨きがかかった気がします。
僕としてはやはりArthur Verocaiが参加しリオデジャネイロにて製作されたというGet Sunがとても好きでした。Hiatus Kaiyoteのパワーとグルーヴ、さらに幅の広がった表現を強く感じます。
改めてライブが観たいバンドです。
02. Modest Mouse - The Golden Casket
Modest Mouseはどんな作品になろうが毎作楽しみにしてしまう魔力のあるバンドだと思っておりまして、そんな中でも前作は比較的落ち着いた印象もあって個人的にそこまでピンときていなかったということもあり、楽しみにしつつも今回はどんな感じなのか…?と蓋を開けてみたところはあります。
まず最初の驚きはジャケアートが動いていることですね。「Modest Mouseのジャケが動いとる!」と…これは実は結構驚きでした。そして早速聴いていくわけですが、6年ぶりのアルバムの1曲目のタイトルが「F××k Your Acid Trip」ですよ…45歳ですよ…最高じゃないですか
変態メロディとリフの中毒性はあの頃のままで、そこに感動すら覚えました
サウンドとしては前作以上にシンセも際立ち、よりアーバンで今風に寄ってポップな仕上がりではあるのですが前作以上にキレッキレな印象を受けました。ずっと変でずっと胡散臭いのにカッコいい。
あのヘロヘロサウンドで
Dance, dance, dance, go crazy
Dance, dance, dance, go crazy
と歌っていた頃から、
よりエッジィなサウンドに変わっていきジョニーマーも加入した頃から、
変わり果てたようで一貫してバカで、一貫して変で、そんなアイザックの持つ突き抜けた部分をまた感じることができた素晴らしいアルバムだと思います。
Japanese Treesとか本当最高ですよね…なんだろうあのバカさというか。本当最高なんですよ。
そしてラストのBack to the Middleでの轟音パートなんてもう最高でしたね…このポップとクールの往来こそがモデストマウスだと思い出させてくれました。
03. Sault - NINE
ロンドンの正体不明バンドSault、昨年リリースした2枚のアルバムは強いメッセージと革新性、最高に憧れるクールな黒さを持った「ベイスメントテープ感」溢れる名盤で昨年1の衝撃だったのですが、そんな彼らがもう新譜?しかも99日間限定配信?その時点で脳汁が出ました。
これこそ現代のベイスメントテープ。汗臭さとクールさを内包したブート感すらあるアングラへのワクワクに満ちている
衝撃の前作にあった密度と完成度から考えると粗さは感じざるをえませんが、より好き勝手やってる感というか…スタジオセッションのブート版を勝手に聴いているような(もちろんそのような底クオリティではないが)そんなドキドキ感すら感じる地下感がたまらなくカッコいい。そして楽曲はというと最初のLondon Gangsから前作以上に攻撃的なベースのブリブリ感がたまらない。そこからの流れも熱くてジワリと汗ばんでくるほどなのですが、後半のBitter StreetsやAlcohol、9などのメロウな楽曲への変遷も気持ち良く
最終的に夏の夜のようにチルして感慨深くなってしまうアルバムでした。
個人的には前作とはまた違う位置付けですが、既に今年のベスト10には入りそうなくらい好きでした
04. Matthew Dear - Preacher's Sigh & Potion: Lost Album
エレクトロニカ好きなら誰もが知っているレーベル、Ghostly Internationalの立ち上げメンバーにして界隈の重鎮でもあるMatthew Dearの新譜(といっても10年前に録り溜めた作品をこのタイミングでリリースしたものらしいが…)
実は僕の不勉強ながらMatthew Dearの作品を聴いたことがなく、今回初めてこのアルバムで出会い衝撃を受けたので過去作や名盤として名高いBlack Cityもこの機会に聴かせてもらいましたが、本当に多種のアプローチをこれまで行ってきたことに驚きでした。そしてこれまでの作品にもあったダークさに短期間に惚れ込んでいきました。
で、この作品から知ったニワカな僕が言うのもアレなんですがこの今回10年の時を超えて発売されたアルバム「PREACHER'S SIGH & POTION: LOST ALBUM」がとてつもなく刺さりました…
カントリー調のミニマルなフォークトロニカサウンドのループにトーキングブルース感のあるダークな声が最高に気持ち良い…最高にクールで没入しがいのある作りに終始のめり込んでしまいました。
05. Faye Webster - I Know I'm Funny haha
タイトルがまず最高なFaye Websterの新譜。前回発表のアルバムも残業中にアホほど聴いた僕の心を落ち着けつつ前に進ませてくれる作品だったので、今作をとても楽しみにしていました。
今作も最高ですね…現在では各国に乱立するインディフォーク系SSWですが、僕はとしてはこのジャンルである程度のライン以上で拡散力が試される場合、そこで求められるのはやはり「座りの良さ」と「アイドル性」だと思っていて、Faye Websterに関してはこのビジュアルから聴いてみて聞こえてくるイントロから「お、これは気持ちよくなりそうだな」とガッチリ掴んでくれるというのはかなりデカいと思います。容姿や年齢のことを言うのはアレなんですけど、少なくとも第一印象としてこのビジュアルの若い女性SSWがとびきりチルで気持ちいいインディフォークを鳴らしてたら「おっ…」となるのはやっぱしあるんですよ。
今作はというとその説得力がより安定して感じられる印象でした。前作から激しい変革はないにしろ縦のビートを感じられるダウンテンポなフォークサウンドで前作以上に落ち着きつつエアリーな空気感で気持ちのいいインディフォークを聴かせてくれました。
かけ流して読書したいやつです。
06. The Marías - CINEMA
ちょくちょく名前だけは見かけていましたが今回初アルバムなんですね…内容は正直驚きました。
ベッドルーム感も持ちつつネオソウル、サイケの気持ちいい低音のビートがトレンドも抑えつつ新しさもあって最高だったんですが、何よりボーカルのアイドル性と存在感がすごいです
スペイン語と英語の混ざったプエルトリコイズム漂う独特の歌い回しと、可愛さと妖艶さが両方ある歌声…圧倒的に強い
サウンドの広がりもミニマルに傾倒しすぎずしっかりアングラ感もあってビルボード系リスナーにもインディリスナーにもハマる絶妙なラインを攻めていて、才能とセンスの塊やん…と思いました。
07. 呂布カルマ - Be Kenja
ここ3年小出しにリリースされてきた単発曲含め新曲も収録されたニューアルバム。
呂布カルマというとMCバトル、Twitterでの過激な発言、最近ではYouTubeチャンネル開設などと本職以外での露出が多いMCだと思うし日本語ラップへの偏見などもあってなんとも伝わりづらさもあるMCだと思うんですが、とにかくビート選びとスタンスが個人的に大好きです。
元来日本語ラップに外側から思う、アメリカ憧れと模倣感。不良自慢感…そこにはロック好きと相容れない「カッコいい」「ダサい」の線引きがある。最近はMCバトルの影響もあってまた世間の価値観も変わりつつもトレンドはケンドリックなどを筆頭にしたトラップの波、日本としては渋谷系の再燃もあり今そのピークにあると思います。
現在の呂布カルマのラップはその様々な流れに、絶妙に寄り添いつつ明確に違う独自の位置のサブカル感を持つヒップホップだと思うので、ある種最も間口が広いようにも思えて、そこにとても惹かれてしまう…
今作Be Kenjaは「強く賢くなるためのヒップホップ」という彼の格言に寄り添いつつ「出し切ったあとの虚無感から冷静になった状態」いわば賢者タイムを作り出すテーマを持っている。ひたすらにクールで尖っていた前作「スーパーソルト」から今回はさらに新たなスタイルを多種取り入れており、トラップを取り入れた楽曲があったかと思えば今までになく柔らかくローファイでチルな楽曲もあり個人的には前作以上にビートの良さ、リリックの達観具合、アプローチの多彩さなどが際立った素晴らしいアルバムだと思います。
08. Six Organs of Admittance - The Veiled Sea
00年代初期から様々なアプローチで活動を続けてきたSix Organs of Admittance。初期のフォーク、カントリー色から最近ではドローン、サイケなどを取り入れつつギターサウンドは色濃くフォークトロニカ様々な形に変貌しながら新作をリリースし続けている。
今作は前作以上にIDM、アンビエント色が強く一貫して空虚さを纏っている。しかしギターサウンドというのは忘れ去られることはなく、この空虚なグリッチサウンドをかき消すようにギラギラと歪んだギターが「ジャァァァン」と鳴る瞬間のなんともいえないカタルシスは下品とも言えるし美しくもある。
実は失礼ながらこれは「どこでギターを聴かせるか大喜利」なのでは?と邪推してしまうところもある。
変異を遂げ続けたベンシャスニーが行き着いたこのアルバムは空間造形によるエレクトロニカな世界を魅せる目的ではなく、実は「どこでギターを鳴らすか」の作品なのでは?と思ってしまったりする。それくらいファットでギラギラしたギターサウンドが前面に印象付けられるアルバムで、そのギタリストとしてのある種頑固ともいえる表現に美しさすら感じるアルバムでした。
09. Mabe Fratti - Será Que Ahora Podremos Entendernos
メキシコで活動しているグァテマラ出身のチェロ奏者、Mabe Frattiのセカンドアルバム。
このアルバムはとても素晴らしかったですね…完全に初見のアーティストだったのですがチェロの美しい音色で作られたルーティンにインディ感ある優しい歌声が重なりどこか重くアーティスティックな空間とグルーヴができいく。完全に整ったところにローファイなシンセやグリッチが混ざっていくのですがその異物が取り込まれていくと同時にどんどん脳汁が出てきますね…気持ち良すぎる。
アート感と虚無感、あたたかみ。色んなものが溶けて溶けて最高に刺激的なアルバムになっているんですよ…
ポップスとして消化している楽曲や、はたまた実験的エレクトロニカとして消化し切った楽曲まで様々で、また良いバランスのアルバムだと思いました。
2019年の前作も同時に聴いたのですが、前作の方が前衛エレクトロニカの色合いが強かったですね…これまた最高なのですが、今作の方が歌とチェロが主役になっている楽曲が多くてより良かったと思いますし僕は好きでした。
こういう出会いがあるから本当たまらないんですよね。
10. Lucy Dacus - Home Video
マタドールレコードのインディ系SSWとして2019年にも素晴らしいアルバムを聴かせてくれたLucy Dacus。ジュリアンベイカー、フィービーブリジャーズ、ミツキが参加した作品ということでかなり期待値も高く楽しみにしていました。
作品としてまずフォークに傾倒しすぎない極上インディポップのウォームさに心を奪われました。ウォームで内省的、それはつまり「Home Video」というタイトル通りノスタルジーに繋がる部分だと思います。ただそのサウンドメイキングや質感は厚みを持っていて今現在を感じさせます
ノスタルジーと今現在、そしてインディSSWの集合場所な安心の名作。ずっと聴きたい
素晴らしいアルバムで、誰かが呟いていた「現行女性SSWがネクストステージへと移行したのを感じる」と言っていたのも真実味を感じるところでした。
1曲目のHot & Heavyが持つウォームな内省感、4曲目VBSのラストのローファイな歪みパート、ラスト曲のアウトロなど気持ちいい場面も多く、夜に1人で聴きたいアルバムですね。名作!
もう上半期も終わり
あっという間ではありますがもう半年ですか。素晴らしいアルバムとたくさん出会えて嬉しい限りですが、まさか最後にこんなに豊作な週になるとは思いませんでした…疲れ…いやなんでもないんです幸せでした。
次回はこの上半期聴いてきたアルバム達から20作選んであらためてご紹介できたらと思います。