3話_誰にでもある原体験のはなし
きっと誰にでも、あれはなんだったのか?という記憶があるのではないだろうかー。
私は大人になっても、ふっと浮かぶ幼少期の記憶ある。ある日常の記憶なのだが、私にとっては小さい自分以外の、何か未知のものに繋がっているような、不思議な感覚が残っている。
4歳の頃の記憶だ。地平線が広がる広場に、大きなくっきりした虹がかかった。一緒に遊んでいた子供達は、歓喜の声をあげ集まった。
私は虹を見ながら、湧き上がる思いを口にせずにはいられなくなった。
「世界中の人がみんな一緒に生きられますように。どうぞお守りください。」と何度も声に出して祈った。隣の少し年上の女の子が怪訝そうに私を覗き込んでいた。そんなことどうでもよかった。私はひたすら祈った。とても切羽詰まった思いだった。
なぜ世界平和、共生という概念をもって、心の底から祈ったのか分からない。もしかしたら、どこかで聞き齧ったものがあったのかもしれない。しかしあの突き動かされるような、小さい子供の視点にはないところで祈っていた感覚、私であるけれど私以外の何者かがあった感覚は、私の中に強く残っている。
もう1つは、私が6歳くらいの記憶だ。家の窓からは、すぐ手が届くところに庭があった。たんぽぽや雑草が生え、小さい虫や蝶々がいる、小さい世界が広がっていた。学校から帰って誰もいない家の窓から、いつもの通り何気なく小さな庭を眺めていた。
突然、雑草や蝶々の光景が、ピカピカ光って見えたのだ。今で言うエフェクトでキラキラをたくさんつけたような、雑草の緑や蝶々の羽が光り出したのだ。それは太陽光線とは違い、本体自体が光を放っていた。一瞬、自分がどこか別な世界に行ってしまったのかと思ったくらいだ。
ただそれだけなのだが、おそらく、物質的にも全く違うものを見ていたと思う。今の言葉で例えるなら、パラレルワールドに存在する別次元の光景を、この三次元の中に同時にあるのを捉えた感覚だった。
私の経験自体は誰にも理解できないけれど、自分の中で起きた感覚は、原体験として未知と繋がっている。
誰にも話していない不思議な記憶を、誰しも持っているのではないかと思っている。