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初めてきみとしゃべった


推しメンと初めてしゃべった日のこと



家に引きこもっていた毎日の中で
インターネットは世界との貴重な繋がりに感じてた。

ニコニコ動画やYouTubeで動画を見て
ツイッターでみんなのリアルタイムを覗き
いろんなことを知った気になった。


お気に入りは推しメンのブログだった。

かなり昔に書いたものも読み漁り
更新も嬉しかった。

昔の彼が書いたものに
今の自分が励まされることは
タイムマシンみたいでおもしろかった。

彼の世界は楽しそうでうらやましかったけれど
そこで起きているすべては
自分とは関係ないことばかりだった。

その非現実感が、現実から目を背けたかった
わたしにはすごくよかったのかもしれない。



彼は、いつも画面の中にいた。




その冬、ちょこぼのツアーが始まった。

「着いてきてくれない?」と姉を誘った。


ライブの入場と同時に
物販の整理番号券がランダムで配られた。


「お姉ちゃん、見て!」

1番だった。


特典会に参加してみたい気持ちはあったけど
ひとに囲まれた場所で列に並ぶ長い待ち時間には
心が耐えられないだろうとあきらめていた。

突然それが、現実味を帯びた。

「せっかくだから行ったら?並ばなくていいし!
お金出してあげるから行きな!」
姉の言葉がグサグサ刺さった。いろんな意味で。


ちゃんとおしゃべりできるかな?
2000円高くない?もったいないかな
だけど手紙を直接渡せるチャンスだ…
(プレボに入れるつもりだった)


画面の向こうのその人と、
ステージの上のアイドルと、お話できるかも

ライブを見ながらずっと迷ってドキドキしてた。




結局行った。(でしょうね)


当然 前に並んでる人がいないので
何をどうしたらいいのかわからず、
一層ドギマギしながら突っ立ってた。

物販が始まり会場に入ると、すでにちょこぼが
それぞれの位置に座ってるのが見えた。

ギャーーーちょこぼ!と内心叫びながら
平静を装い真顔で券を買った。

差し出された券を握りしめて
促されるまま
ちょこぼの前に押し出される。

おい、おいおいおまおい、おいちょっと

まって怖、怖い怖い怖い


ひとりびびりまくるわたしをよそに
メンバー同士でめっちゃくちゃ喋ってて
わ〜〜!喋ってる〜〜〜!ちょこぼ喋ってる〜〜!
といちいち感動した。

どこを見ればいいのかわからず
だけど誰とも目が合わないように
モジモジソワソワした。

ライブの特典会は
メンバーごとに仕切りで囲われていないから
会場すべてに丸見えなのもどきどきした。
(当然 その頃は透明パーテーションもない)


うしろに数人並んだところで
撮影スタッフさんに声をかけられた。

「これもう始めちゃっていいんですかねー?
いつもどうしてますか?」

初めてなので分かんないです!!!(叫)


「券お預かりします!撮影方法どうしますか?」

「さつえいほうほう?」

すでに緊張のピークにいたわたしは
理解ができずポカンとしてしまった。

「チェキとスマホ、どっちにしますか?」

「ああ!スマホで、スマホで!すいません…」

「わたしが撮りますか?
メンバーさんの自撮りにします?」

「お姉さんで!お願いします!」


どうぞー、とスタッフのお姉さんが道を開けた。





彼はそこに足を組んで座って、
わたしを見上げていた。


目が合うと
わたしに笑いかけた。



すごい。

「本当に生きてるんですね!!!」


わたしの第一声はこれだったと思う。
我ながらヤバい。


『どういうこと?!生きてるわ!』


そりゃそう。


となりに座ると、『ポーズは?』と聞いてくれた。

当時 接触ポーズにはルールが出来て
この一覧表が置いてあった。気がする。↓
(画像ひっぱってくるのダメだったら削除します)

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え〜〜〜頭よしよししてほしいけど初対面でいきなりキモイかなー!でもせっかく来たし次いつチャンスがあるか分かんないし、いや、ここは普通にピースとかで、初心者だし、うん

「頭よしよししてください」


やるんかい


アー!やっぱりキショ!て思われたかなー!!!
と一瞬 後悔しかけたけど
彼は『はーい』と明るく返事をして
わたしの頭に手を置いた。


画面の中の推しメンは
ただひたすらに可愛いと思っていたけど

目の前にいる推しメンは
人間サイズで、自分より大きくて

すごく変な感じだった。

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全然女の子じゃない…!と思った。

そりゃそう。


スタッフのお姉さんからスマホを受け取って
推しメンと向かい合う。

手が震えたし
なんなら体も脚も全身震えてた。

画面の向こうじゃない…
僕の目の前で、君は生きてる………


『ありがとう、初めて来たの?』

「初めて来ました! アッ、手紙書いてきました!」

『初めて来たのに?!』


正論である。



「あの、わたし絵描いてて、ツイッターで…」

『えー、何の絵?』

「ゆじまるくん」


いやゆじまるくんて 爆笑 (ゆじまるくん)



「よかったら今度見てください」

『どんなアイコン?』

「クマ!ピンクのクマ」

『あ〜、見たことあるかも』

?!?!?!

『ハロウィンとかも描いてた?』

「えー!描いてた!!!」


スタッフのお姉さん「まもなくお時間でーす」


手紙、読んでください!と言いながら
慌てて立ち上がったわたしに推しメンが言う。


『また描いてほしい〜かわいかったから』


わたしはうん、うん、とうなずきながら
彼が(券買ってくれて)ありがとうと言う声を聞いた。


会場を出るまで何度も彼の姿を振り返った。

わたしが渡した手紙はそっと床に置かれ
次に並んでた人と話し始めていて、
列もどんどん長くなっていた。


たった今、見て聞いて感じてきたもの

すべてが頭の中をぐるぐるまわって

ごちゃまぜの感情を抱えながら


わたしは階段を駆け降りた。





「かわいかった!!生きてた!ゆじまる生きてた!!
わたしのこと知ってた〜!!!(?)」

姉「どういうこと?!」



外に出て、電車に乗って、ライブ見て、
アイドルとお話して いろんなことが出来た!

嬉しかった。なにもかもが。


彼は生きていた。

わたしの目の前で。


撮ってもらった たった一枚
何度も何度も見て元気が出た。
家に帰ってから、家族みんなに見せて回った。(笑)

ずっと家で泣いて
仕事にもまともに行けなかったわたしが、
笑って帰ってきて楽しくはしゃぐ姿を
家族はどんな気持ちで見てくれていたんだろう。



この日はまちがいなくわたしの人生の
おおきな分岐点だった。
最初の一歩。


推しメンとの最初の1ページって
オタク誰しもに必ずあって
アイドルからすると「初めて来た人」でしかなくても

そこにたどり着くまでに
背景には人生があり
それぞれのドラマの先で、推しメンと出会ってる。

新しいお友だちと出会うたびにそれを感じます。

お互いのこの人生の中で、
ここで出会えたことは本当に嬉しい。

みんないつもありがとう〜〜。


そして推しメン!

この日のことはもちろん、それ以降の今まで、
わたしとの会話など何も記憶にないかもしれない。

てかなさそう。絶対なさそうすぎ。わかるわ。


だって未だに券をたくさん買うわけでもなく
全肯定とは程遠く
イベントへ行けば文句を言う

わたしはちいさなオタクのひとりだけど

邪険にされたことは一度もないし
会いに行けば思い出してくれて
どんなに疲れていても
お願いしたポーズは文句も言わずに取ってくれるし
笑った顔も怒った顔もいつもサイコーに可愛い。



あの日抱えたあこがれは、いつのまにか愛になった。

会いに行くたびすきになる。


ずっとありがとう。