Woman in the Mirror
■『女の鏡』
○1 お妃様の部屋。
ある日の夜です。お妃様は魔法の鏡の前に居ます。お妃様は日課の質問を魔法の鏡にします。
以下、A…お妃様、B…鏡
A:鏡よ、鏡。この国でいちばん美しい女は誰なのか答えなさい。
B:はい、お妃様。それは、 白雪姫でございます。
A:…!!
B:……
A: そうなの?!
B:はい。お妃様。
A:え、いつから?
B:はい、今日からでございます。お妃様。
A:そうよね、だって昨日はあたしだったし。その前だってずっと。
B:はい、お妃様でございました。
A:白雪姫なんだ?
B:はい。お妃様。
A:びっくりした。
B: ……
A:へぇ~。
B:……
A:どこが良いの?
B:はい、どこが良いかと言いますと。
A:あ~、いい、いい。言わなくても。だいたいわかるから。
B:はい、お妃様。
A:ふ~ん、そうなんだ。
B:はい。お妃様。
A:…はっ。でもどこが良いの?
B:はい、どこが良いかと言いますと。
A:あ~、いいの、 いいの。答えなくて。独り言だから。
B:はい、お妃様。
A:ふ~ん…
B:……
A:まあ、いいや。
B:……
沈黙。
A:うん…ちょっと待って居なさい鏡。
B: はい、お妃様。
お妃様は何かひらめいたご様子で部屋を出て行きます。暫くして、お妃様は胸元の大きく開いた、セクシーでゴージャスなドレスに着替えて戻ってきました。お妃様は左手を腰のくびれた部分に力強くあて、右手の人差し指を魔法の鏡にかっこよくさして言います。
A:どお?
B:はい、とてもお綺麗でございます。お妃様。
A: ふっ。なんか、さっきのはちょっと、あれだったでしょ?
B:はい、お妃様。
A:それでは、鏡よ、鏡。この国でいちばん美しい女は誰なのか答えなさい。
B:はい、お妃様。それは、白雪姫でございます。
A:そうなの?!
B:はい。お妃様。
A:え、性格とか?
B:はい。お妃様。
A:あの娘、性格良いんだ?そうは見えないけどね。全然。
B:はい。お妃様。
A:あ~、そう。
B:はい、お妃様。
A: ま、いいか。
B:……
沈黙。
A:うん…ちょっと待っててね鏡。
B:はい、お妃様。
お妃様は、また何かひらめいたご様子で部屋を出て行きます。暫くして、お妃様はお化粧と髪型を変えて戻ってきました。お妃様は左手にとてもきれいな銀の手鏡を持っています。そして魔法の鏡に背を向けると、かっこよく振り向いて言います。
A:どお?
B:はい、お妃様。とてもチャーミングでございます。
A:あはっ。さっきのメイクあれはちょっとね?
B:はい、お妃様。
A:それでは、鏡よ、鏡、鏡さん。この国でいちばん美しい女が誰なのか答えなさいよ。
B:はい、お妃様。それは、白雪姫でございます。
A:あっはっはっ。
B:……
A:あ~。可笑しい。
B:……
A: まったく、どおなってんだこの国は?
B:はい、お妃様。
A:黙れ。
B:…え?
お妃様は、銀の手鏡で自分の顔を眺めます。そして、口をアヒルの口のような形にしてみたり、かわいく微笑んでみたりします。
A:ばかみたい。
すぐに飽きると、銀の手鏡を机に置いて、窓際の大きなカーテンを開けました。夜空には真っ赤なお月さまが見えます。お妃様は細長い煙草を一本取り出して、金色のライターで火を点けます。
A:ふ~。
紫色の煙と、真っ赤なお月さまの光りがお妃様の顔を蒼く照らします。
A:むかつくな。
魔法の鏡には、静かに煙草を吸う美しい女が映っています。徐々に暗転。曲。
■『浄玻璃の鏡』
○2 閻魔様の部屋。
浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)仏語。地獄の庁にあって、死者の生前の善悪の行為を映し出すという鏡。(Yahoo!辞書)
鏡の前に、閻魔様と元お妃様だった女が居ます。二人は鏡を覗いています。
以下、A…閻魔様、B …元お妃様だった女
A:……
B:……
鏡には、元お妃様だった女が、鏡の前で何かやっている様子が映し出されています。
A:何してんの、これ?
B:…これは、老人って言うか、魔女風のメイクをしているところです。
A:……
B:……
A:これは?
B:林檎に、毒、盛ってるところっすかね?
A: ……
B:す、すいません。
A:……
鏡の中で、魔女に変装した女が嬉しそうに笑っています。徐々に暗転。 曲。
■『男の鏡』
○3 王様の部屋。
ある日の夜です。王様は魔法の鏡の前に居ます。王様は魔法の鏡に質問します。
以下、A…王様、B…鏡
A:鏡よ、鏡。この世界で最もかっこいい男は誰なのか答えなさい。
B:はい、王様。それは、リンゴ・スターです。
A:リンゴ・スター?
B:はい、王様。
A: ビートルズの?
B:はい、王様。ビートルズです。
A:ドラムの?
B:はい、王様。ドラマーです。
A:そうだったのか。
B:はい。王様。
曲。暗転。
おしまい。