見出し画像

【小説】コンビニポリス

4 それ行け!受動喫煙防止
 
「健康増進法が改正されたな」
 不機嫌な警ら部長。
「それがどうかしましたか」
「第一種施設なんだ、行政機関は」
 一向に興味を示さない部下にますますイラつく部長。
「禁煙だ、禁煙」
「いいことですね」
「そうじゃない、敷地内禁煙なんだ、第一種施設」
「はあ」
「吸えないだよ、どこでも」
「じゃあ、やっぱり禁煙ですよね」
「そんな簡単にやめられるか」
「今日び、病院で禁煙できるらしいですよ」
「煙草は病気じゃねえ」
「病気なんじゃないですか。ニコチンの中毒」
「人をヤク中みたいに言うな」
「健康管理センターに相談されたらどうですか。あそこのモモザキ女史、何人も禁煙させたらしいですよ」
「冗談じゃない、あんなところ行けるか、どんな目にあわされるか」
「部長にも苦手はあるんですね」
「ああ、いくらでもあるぞ。俺は繊細なんだ」
 警ら部長の怖いもの。お医者、女房、末娘……。
 繊細なのか……確かに警ら部長には隠れファンがいるらしい。ギャップ萌えというやつか。
 
「失礼します。こちらの交番から煙草のにおいがするという通報があったんですけど」
 受動喫煙防止推進員が、町中の施設を一件たりとも漏らさずに、しらみつぶしに訪問する。もちろん例外はない。それが、たとえ交番であっても。
「いやあ、煙草なんて吸ってませんよ、なあ」
「もちろん。勤務中ですから」
「奥にお部屋がありますけど。休憩室ですか」
「いえ、倉庫です」
 コンビニ用倉庫。
「そこでは?」
「吸ってないよな」
「もちろんです。火気厳禁」
「コンビニはもちろん、交番も第一種施設ですので禁煙です。訪れる方にも喫煙をご遠慮願うよう、この禁煙ステッカーを外から見えるところに掲示してください」
「掲示物については、許可を得ないと」
「では、お預けしていきますので、掲示についてよろしくお願いします」
 そう事務的に言い残して去っていく推進員。
 その後ろ姿を見送りながら
「おいおい、なんだあれ。取り締まりかよ、俺たちを」
「えらい時代になったもんですね」
 憤懣やるかたない交番所長。
 
 昼下がり。昼食時。
「喫煙室作るんだって?」
「順法よ、順法」
「喫茶店も大変だね」
「憩いの場がなくなっちゃって、ごめんね」
「まあ、これを機に禁煙でもするか」
「できもしないくせに」
「カレーでいいの?」
「うん、時間ないんで」
「大変ね」
 交番をワンオペで回すには、末端にしわ寄せが。
 働き方改革恐るべし。 
 
 夕暮れ時の所轄署の裏庭。
「部長、電子タバコですか」
「いろいろうるさいからな、世間が」
「けむり出ないんすね」
「まあ、そういう触れ込みだ。味気ないが」
「そういうもんすかね」
「さあ行くぞ」
 颯爽と……自転車にまたがる二人。
 管理職自らパトロールに出動。
 働き方改革は管理職に厳しい。
 
 それぞれの一日が過ぎていく。

いいなと思ったら応援しよう!