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# 69 悩める人間

米国大統領選挙が迫る。大金持ちのトランプ氏は格差社会の解消を掲げ、白人貧困層の支持を繋ぎ止めている。南アフリカのアパルトヘイトも貧困白人層に支持基盤があった。貧富の差が捻れた複雑な社会現象を引き起こしている。その辺を歴史に習って、ざっくりであるが見てみた。

漸進法で進める。

1。格差はどうにかしないとならない。しかし格差社会はますます進んでいるのでは無いだろうか!
2。そうなのだろう、しかし、金持ちはその優越感をそれほどに享受できているのだろうか?
ローレンバフェットのような超大金持ちもコカコーラとハンバーガーで至極、満足している。庶民の食べ物が美味しいのである。落語にも目黒のサンマというのがある、古今東西、庶民の味は侮れない。
3。しかしながら、金はあらゆる分野で差別化に利用され、価値観を誇示して来た。
さらに、封建時代には、金より、家柄や生まれが尊ばれ、親からの遺産で、労せずして富を手に入れることが出来る人々がいた。
格差社会はいつの世にも付き纏っているのだろう。
しかし、封建時代の格差は現在より厳しいものがあったはずだ。例えば、フランスでは国庫の大半を国王と取り巻きの貴族が独占し続けていた。ローマ法王に縁の修道院が所有する土地は膨大であった。
日本においては幕府と大名の領土は半端ないものであった。
5。だが力をつけてきたブルジョワジーはその格差や不労所得を許さなかった。中産階級の台頭をバックに思想的にも大きな変革のうねりが起きていた。
17世紀にはその息吹を感じる。イタリアのガリレオ・ガリレイやルネ・デカルトなどフランスの哲学者達と面識があったと言われるトマス・ホッブスは人間のすみずみまで物質的だと考え、人間は機械だと主張する。
6。意識の主観的で、一人称的な部分をどう説明しているのだ。
7。意識の部分に関して、ファジーな意見しか示さない。加えて、自然状態における生活を「孤独で、悪意に満ち、粗野で、乏しい」と独断している。1649年にイギリス市民革命は終結している。数回にわたる独裁政治に議会は勝利して、国王は飾り物になる。その後に、人間は機械だという考えを発表し、更には、社会契約論の思想を提出して、有名になる。これは、王侯貴族も庶民も皆、機械だという平等感を醸しだした。
8。平等感は重要であるのだが、意識の部分は吟味されなくてはならない。ホッブスより約40年後、ジョン・ロックは生得概念*に真っ向から反対した。人間は生得概念を持って生まれ落ちるという考えに対抗して、生まれたばかりの精神はほぼ白紙状態で、その上に経験が書き込まれてゆくと唱えた。生まれた段階で、人間に差はないという意味ではホッブスと共通であるが、彼は意識の部分に言及している。「どんな人間の知識も経験をこえることはない」と結論している。彼の青春期にはイギリスの産業革命が加速してゆき、ブルジョワジー(中産階級)がますます力をつける。
9。ホッブスにより示された自然状態の自然人は、野蛮な状況を招いた文明社会の責任であるという主張が現れる。
自然権、自然状態*に関する見解の相違は露わになる。ジャン=ジャック・ルソーは「人間は生まれながらにして自由だが、いたるところで鎖に綱がれている」とホッブスの主張に抵抗を示す。さらに展開して、「法の制定する権力を人民に委ねる事で、万人に恩恵がもたらされ、立法過程に参加する自由が不平等と不正を葬り去る」と説いた。
そこから、米国独立宣言や、フランスのモットーである「自由、平等、博愛」へと思想が流れて行く。
アメリカ独立宣言の後にジェレミーベンサムの「最大多数の最大幸福」という功利主義理論が現れる。彼の考えは、人間の活動の全ては苦痛の除去と快楽の追求というモチベーションにより動かされているという確信に基づいている。そんな雰囲気の中、フランス革命の口火が切って落とされるのだ。
10。ベンサムの理論は少数派の幸福を締め出しているという批判が現れる。「自分自身の身体と精神に対しては、誰もが支配者だ」とジョン・シュチュワート・ミルは主張した。教育と世論の共同作業で少数派の幸福も担保できるとした。万人への教育を推奨し、それが全般的な幸福へ繋がると論じた。個人の幸福を目指したヴィクトリア朝の自由主義であり、ロマン主義なのである。民主主義は本来は個人の幸福を追求しているだけでなくて、ロマンチックなのかもしれない。
11。ここに挙げた人々は、社会契約説に影響を与えるか、主張した哲学者である。
社会契約説の粗方は、近代(近世)から自然状態・自然権・自然法の概念と共に論じられ、これらを擁護することを目的として社会契約を結ぶべきであるという構図である。これは、17世紀から現在に至るまで、社会契約説を唱える哲学者に伝統的に継承されている。先に述べたように、それにはホッブスのような、悲観的なものから、ミルのような楽観的でロマンチックなものまで多様性がある。20世紀に入り、ジョン・ローズは目隠しをした自由の女神をイメージする。目隠しをしているからこそ、公平になれる。右手に持っている天秤は平等をイメージしている。左手の剣は罰は等しくを象徴している。目隠し、すなわち無知のベールの背後で正義の原理は選ばれる。まさにバイアスに満ちている世界に光を灯すビーナス。
彼も、社会契約説を継承する哲学者であった。
12。いずれのしても米国憲法、フランス憲法など民主主義に貫かれているものは自然権と社会契約説に裏書きされている。これは日本の平和憲法にも凝縮されている。民主主義国家の基本は17世紀に起源する様で、古くて新しい概念なのである。

ざっくりな印象ですが、自然権と個人の幸福は密接に関係している事がわかりました。格差と自然権のぶつかり合いは、永遠に続くのではないでしょうか?
(終戦記念日に記載)

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*生得概念:プラトンは真の知識は本質的に自分たちの内部に場を持つということ。哲学で、人間が生まれながらにもっている観念。デカルトやライプニッツはこの観念の存在を主張したが、ロックは観念はすべて後天的に得られると説いた。
*自然権人間が、自然状態(政府ができる以前の状態、法律が制定される以前の状態)の段階より、保持している生命・自由・財産・健康に関する不可譲の権利。

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