#165:スパイスRPG
普段、あまり料理をしない男性の傾向として、無駄なスパイスを収集する癖がある。
ええ、それは私のことである。
料理という躾け
コロナ禍で在宅勤務も増え、出社が妻と交代になると、徐々に私も夕飯を作るようになった。
ただしイクメン的な自慢エピソードではなく、全て妻の手のひらの上で転がされているだけ。
コープデリのキットというほんの少しの一品できる調理セットが毎週届くようになった。それを私に作らせることで小さな成功体験を積ませ最終的にキットなしのイチから料理ができるように躾けたのは、全て妻である。
最近、割とひとりで何でも料理が出来るようになったなーと思っていたが、全部お膳立てされていたことを改めて思い知らされた。
子育ての傍らで、いつの間にか私も育ててられていた。…妻恐るべしである。
スパイス収集癖
とはいえ、40代男子の料理育成は全て順調に進んだ訳ではなかった。妻は色々と耐えたはず。
その最たるものがスパイス収集癖である。
世の中には、カルディという魅惑的な食材屋が至る所にある。料理を少し齧った男性を釘付けにするには、充分なアイテムが揃っている。
冷蔵庫に入りきらない、いつ使うねんスパイスを溜め込む私に苦言は呈するものの、粘り強く必要性の無さを説く妻。
しかしなぜこうスパイスを集めるのだろうか。
改めて考えると、RPGゲームに出てくるアイテムのイメージと重なった。何かと調合すると、特別効果のある薬やアイテムに早変わりするようなワクワク感。
料理も同じく劇的に美味しくなるような錯覚。長く険しいスパイス収集のRPGである。
幻想を打ち砕く
ただ劇的に料理が上手くなるわけはない。
家庭の料理は子供や家族が食べるもの。如何にオーソドックスで確実な美味しいものを手軽に手早く作るか。それはだんだん分かってきた。
しかし、初期の頃は恐らく料理を始めた男性が漏れなく迷う迷路に同じくハマっていた。
よくある話だが、スパイスだけでカレーを作ることにトライしていた。ちょうど当時は世の中も少しスパイスカレーがブームであった。
ターメリック、クミン、コリアンダーのスパイスセットを買って、いざカレーを作る。
比較的簡単に、そして美味しく出来上がった。
妻にも好評。
これはまた作れるぞと思ったら、小5の息子が「このカレー、ヤダ」とひと言。
その瞬間、我が家ではスパイスカレーという料理とともに買ったばかりのスパイスセットもお蔵入りとなり、文字通り奥の棚に収納された。
1年越しのリベンジ
時は変わり、今は2023年GWの谷間。
今日はさすがに仕事が早く切り上げられる。妻は出勤なので、今夜の晩御飯は私の担当。
普段より時間的余裕もあり、玉ねぎや生姜、ニンニクなどスパイスカレーに必要な具材もひと通り揃っている。満を持してリベンジの時。
前とは同じ過ちはしない。
鍋を2つ用意する。玉ねぎは4個みじん切りにして、それぞれ2個分ずつ鍋で炒める。片方には生姜とニンニクのみじん切りも加えて、そちらではスパイスカレーの準備をする。
そう、息子用のカレー(バーモンドカレーのルーの粉で作る)とスパイスカレーの二刀流だ。
奥の棚から久しぶりに取り出したスパイスセットも使い、両方の鍋をそれぞれ仕上げる。
まさに万全の体制である。
妻の帰宅とともに夕食開始。
息子には当然バーモンドカレーをかける。
そして、妻に「どっちのルーかける?両方で合いがけも出来るよ」と問うと、「バーモンド」と即答。
!?
え、そうなの?
前は美味しいって食べたのに…。
ただここで深追いは禁物である。
今回は自分の皿にだけスパイスカレーをかけて黙々と食べた。
…
果たして、いつかスパイスセットが奥の棚という定位置から、常にキッチンで見える場所に移籍する日はやって来るだろうか。RPGで言えば復活の呪文(古い?)を唱える時が来るか。
もう少し粘り強くトライしてみようと思う。
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