高知県香美市【署名運動の経過報告+議会傍聴メモ】
6月7日に地元の保護者有志ではじめた署名運動。市内から、高知県内から、全国から、たくさんの方々に応援していただき、本当にありがとうございます。
「高知県香美市の教育問題」という、いかにも限定的なトピックで、当初はこわごわ、「さすがに100人くらいは行くはずだけど…」という心細さでした。が、予想以上の反響をいただき、既に700人を突破(+紙での署名運動も展開中)。まったく予期しなかった「寄付金」も、匿名含む12名もの方々から合計1万2千円が寄せられるという展開に心強さと感謝の気持ちでいっぱいです。
※寄付金はこちらの収入になるわけではなく、金額に応じて署名サイト上での表示回数が増えるというシステムで、お金自体は署名サイトの運営資金となるようです
署名期間はあと10日ほど続きます。何とか1000人の大台に乗るか!? どうぞさらなるご支援をよろしくお願いいたします。
https://chng.it/CJyyVDqhpf
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今回、単なる「一介の保護者」である自分がひょんな成り行きから署名運動に加わる中で、本当にいろいろなことを考えました。今週は「議会の傍聴」もしました(リアル&ライブ配信~もちろん教育に関するごく一部のみです。仕事の傍ら、すごく大変…)。
議会の傍聴なんて、今までほとんどまったくしたことなかったけれど、いやはや本当に気づきが多いです。耳を疑うような内容&市長答弁が次々に出てきて、一介の市民としては「これってありなの!?」と、ビックリの連続…。メンバーたちもそれぞれリアルやライブで傍聴し、「これは仕事休んでも聞いていたいくらいおもしろいね」という声さえ聞かれたほどでした。
以下、素朴な感想です。
↓長文ですが、「4」の部分が、署名サイトにも書かなかった「なぜ僕がこんな署名運動などしているのか?」の根幹の部分となる、いちばん強い思いとなります。
1.改めて浮き掘りになった市長の準備不足&調整不足
西村たけじ議員の精緻な質問群がすべてを言い当てていました。たとえば・・・
「教育長の任期が本年5月までであることは周知の事実であった。市長就任以来十分な時間(=2年間)があったのにもかかわらず、任期切れわずか4日前に交代人事案を出す今回の市長の判断は、議会による否決の可能性と、その後の教育行政への影響を考えればありえない判断だったと思う。もっと早く提案する機会は充分あったのだが行わなかった理由は?」
「市長は昨年度中の「教育大綱」策定を宣言していたがまだ完成していない。また、市長が当選当初から最重要政策とする「学園都市構想」もいまだに具体的なビジョンが示されていないままである。それぞれが進まない理由と、現在の進捗状況は?」
「「教育大綱」策定、「学園都市構想」の具体化を進めるためには、市長部局、教育委員会が綿密に連携し意思疎通を深める必要がある。そのために市長が招集できる「総合教育会議」を積極的に開催すべきだと考えるが、これまで1度しか招集されていない。開催を呼びかけないのはなぜか?」
これらのどれに対しても、市長から「なるほど」と思わせてもらえるような説得力ある答えは出てこなかったという記憶です(詳しくは録画を見返す必要がありますが)。どれも「言い逃れの余地なし」な印象。
本当に、「なぜ、これほど強引に教育長交代を押し進めようとしているにも関わらず、これほど準備不足・調整不足なのか?」というチグハグさがすべての不信感を生んでいる気がします。準備がもっと周到で、かつ、市長が示そうとする「学園都市構想」や「教育大綱」が雄弁かつ魅力ある具体像としてみんなに示されていたら、当然、受け止められ方は大きく違ったであろうなと。逆に言えば、それらの「中身」を示すこともできないで(あるいは外には公表できないような中身なのか?)、「どうしても教育長を変えたい! 公約実現のために」とだけ言われても…。(そもそも「公約」の中身がない…)
市長が教育長に推す濱田久美子氏についても、市長は「すばらしい人材です」「必要な人材です」と繰り返すばかりで、具体的に「なぜ緊急に交代しなければならないほど必要な人材なのか?」が説明されない。しかも、そんなすばらしい人材が昨年4月から教育推進官として教育委員会内に勤務しながら、なぜ教育大綱も完成しなければ、学園都市構想も具体化しないのだろう? そして、その資質や働きぶりを間近で見ていたはずの教育委員会や議会は、なぜ彼女の教育長就任を歓迎しないのだろう? 謎は深まるばかりです…。(←内部事情を知りえぬ市民の純粋な疑問です)
2.市長から前教育長へのパワハラ(?)疑惑
メディアを入れた教育委員と市長の懇談の場で(5月)、教育委員が敢えて言及したという事案。何人もの議員さんが追及を行っていました。
センシティブな問題で、みなさん言葉を選ばれるため、詳細な全体像は見えて来ず(聞いた中では濱田百合子議員の質問がいちばん具体的な内容や文言に踏み込んでいたと思います)、事実関係の精査が待たれますが、市長は「そんなつもりはなかったが、反省し、ご本人に直接謝罪する機会を持ちたい」という雰囲気の答弁を繰り返していました。「恥ずかしい」という言葉も出ていたかと思います。(教育委員さんは、3つの具体的な日付まで挙げた上でハラスメントの所在を指摘したということで、相当な覚悟が感じられます)
部外者にはハラスメントの有無や程度については判断のしようがないけれど、その前提で思ったことは2つ。
1. もし仮に、思い通りに動いてくれない教育長をハラスメント的な圧力をかけた挙句に追い出そうとしたのだとすれば、問題はさらに大きい
2. もし仮に、ハラスメントが発生するような悪化した関係性が教育長交代の隠された動機であるならば、それはあまりに意気消沈する話
3.におわせる責任転嫁
笹岡優議員への答弁の中で、ギョッとするような市長答弁:「まずは教育委員の理解を得てから議員に提案しようと、2月に教育委員に教育長交代の意向を明かしたところ、それを一方的に議員に伝えられ、それが結果的に議会軽視との反発を受けるところとなり、私の説明不足や判断ミスもあって、このような事態を招いたことを反省しております。一方で、教育委員には地方公務員法で定める守秘義務があり、職務上知りえた情報をほかにもらしてはならず、政治活動を行ってもいけないとされています」…(※正確な文言は録画参照)
これには本当に心底驚きました。何に驚いたって、「守秘義務」や「政治活動」というワードの使われ方にも違和感はありましたが、いちばん驚いたのは、なぜ、こんなにも「市長VS教育委員」の溝が埋まらないと新聞報道にまで出ている中で、敢えて火に油を注ぐようなことを言うのだろう…ということ。
どう考えても賢い戦略とは言えないような…。全体的には市長の調整不足・調整の遅れが響いたことが明白な中、そこを今さら指摘しても、分の悪さはそれほど変わらなそうだし…。どちらかと言うと、「漏らしてほしくない情報」をいかにも反発されそうな状態で相手に伝えてしまうという危機管理能力の甘さこそ、心配に思えたりするわけです(もちろん、言うは易しなんですけど…)。
それに、もし市長がにおわせる通り、教育委員さんの根回しによって議員さんの多くが否決に回ったのだとして(そんなことはないようにも聞いていますが)、逆になぜ市長はそれを上回るような雄弁で説得力ある論拠を議員さんたちに示せなかったのか? 全体として暗澹たる気持ちになります。
笹岡議員の質問には、宮地教育長代理(教育委員さん)も答弁に立ち、「市長から他言しないでくれとも言われていないし、そもそも教育委員は市長と上司部下の関係ではない独立した位置づけであるし、特別職である議員に伝えるのと、一般市民に伝えるのとではまったく意味がちがう。守秘義務にもあたらないし、政治活動など行ったことはない」と真っ向から否定されていましたが(これも詳細文言は録画参照)、見ていて辛くなるような図でした。
そして、フラッシュバックするように思い出されてすべてが腑に落ちたように感じたのは、昨夏に保護者有志たちで市長懇談に出向いた際の市長の言葉でした。
4.「子どもが外の世界に目が向いて市外に出ていくと市にとっては失敗」発言
署名サイトの文章にも書かれている通り、奨学金の年度途中での廃止という驚きの事態を受けて、保護者有志で声をかけあって市長懇談に出向いたのは昨年の8月でした。
実は、僕自身は奨学金問題の当事者ですらなく、単に受給している友人たちから話を聞いて、「え~それはひどい。人数が多い方が心強いだろうから、枯れ木も山の賑わいで一緒に市長懇談に行こうか?」という程度の軽いノリで出向いたのでした。
それがなぜ、こんなにもこの問題に深入りすることになってしまったのか? それは、予想だにしない次のような言葉が市長の口から飛び出してきたからです。
「バカロレア教育などで、子どもたちの目が外に向いて、結果的に市外に出て行ってしまうことになると、市にとっては失敗」
=だから市外進学を後押しするような奨学金は廃止して、学園都市構想で市内の高校への進学を増やす枠組みに改編していきたい=その具体的なビジョンはまだないが、とりあえずは奨学金を廃止した、というニュアンスの発言でしたが、本当に面喰いました。まさか、「バカロレアで世界に目を向ける」はずの香美市が、「視野の広がりは失敗」と来るとは…。
この日、市長を訪ねた仲間にはたまたま市外の中高や短大などに子どもが進学している保護者が多く(市内には高校はひとつしかないので、ごく自然な構図でもありますが)、その旨自己紹介もしていた中で、その価値や思いを面と向かって否定するかのような――子どもを失敗作呼ばわりするかのような――発言に出席者一同大憤慨し、ものすごく険悪なやり取りとなりました。
奨学金の廃止方法に疑問を呈するだけのつもりで市長懇談に赴いたにも関わらず、「こんな短絡的な教育観による教育行政への介入はきわめて危険では?」と一気に問題意識に火が付いた瞬間でした。「行きはよいよい帰りは怖い」じゃないですが、子どもを育てる親として、本当に涙がにじむほどの怒りを感じながら帰路につきました。
これはあくまでも、カジュアルな懇談の場での「ぶっちゃけトーク」ではあったと思うので、この発言が市長の方針の全体性を適切に言い表したものだと決めつけるつもりもありませんし、その発言だけを肥大化させて考えるつもりもありません。言ってみれば、「単なる言葉尻」だったとも言えるでしょう。だからこそ、署名サイト上でもそういった点については触れませんでした。
実際、地域の過疎化は本当に危機的な課題なので、市内の高校の存続と活性化は重要事項です。だからと言って、外に目が向く子どもを市内に囲い込もうとするような鎖国的な方向性が得策だとは思えませんが(どの道、卒業後は仕事がなくて市外に出ていくことになるのに・・・むしろ広く自由に進学できる安心感をPRして移住/定住促進を進めていかないと、市内の子どもの数は先細りの一途なのでは?&市内の高校の魅力をもっと高めて、逆に市外からの流入を増やすべきではないのかな&何より、子どもたちの視野の広がりというかけがえのない成長の価値を否定するかのような鎖国的学園都市のビジョンには断固反対!etc.)――とは言え、これらのポイントを市長がまさかまったく考えていないとも思いません。
「単なる言葉尻」にこだわっても仕方ないから――そう思ってきた10カ月でしたが、今回のハラスメント疑惑であったり、「守秘義務」提起であったり、教育長人事否決に至る対話の不足であったり、一連の顛末を聞いていて思ったのは、あの発言はやはり「単なる言葉尻」どころではなく、むしろ、こうした不用意な対話の連続こそが各所で要らぬ不信や反発を招いてきての今なのではないか?――一市民の単なる個人的な憶測ですが、そんな風に感じました。
つくづく、こんな一介の保護者グループにわざわざ火をつけてしまうような市長の対話力は大いに問題だと思うし、その後、それを払拭できるような希望あふれるビジョンを示せないことも問題です(後者の方がより大きな問題かも)。そんな市長の手で、全国的にも恵まれている香美市の教育が根底から覆されてしまうことの脅威をものすごく感じていたら、案の定、前代未聞の教育長人事のトラブル勃発…というわけです。
署名サイトの文章にもある通り、今回の署名運動は、「市長の退陣」は一切求めていません。求めているのは「対話」であり、「説明責任」です。
市長の「学園都市構想」自体を全否定するつもりなど毛頭ないどころか、むしろ、(まだその具体像はまったく見えてきませんので)希望あふれる未来を描いてくれる学園都市構想になってくれたら…と祈るような気持ちです。各所での反発を踏まえ、溝を深める/牽制するのではなく、「独断的」と評されてしまう問題の本質に立ち返って、状況の打開を進めていただきたい、というのが切なる願いです。
※ここに綴ったことはすべて僕自身の個人的見解で、署名運動を代表するものではありません(僕自身は署名運動の代表ですらない、1メンバーに過ぎません)
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署名運動はあと10日ほど続きます。
7月2日にはほかのメンバーと一緒に市長に直接提出しにいく予定です(メディアによる取材も歓迎です)。これをどう市長が受け止めてくださるのか、あるいは完全スルーなのかも、ひとつの試金石になる気がしています。