量子力学、多自然主義、イノベーションにみる主客の転換
こんにちは、Sustainable Innovation Lab 事務局の服部可奈です。今回、レポーターとしてSustainable Innovation Labが毎月開催している勉強会「Xゼミ」の第7回の模様の一部をレポートします。今回は第2回のXゼミでもレクチャーしていただいた大室先生を再度お招きしてお話を伺いました。
日本郵政の社会実装プロジェクトの現在地
大室先生からのお話の前に、日本郵政の小林さやかさんから社会実装プロジェクトの進捗について共有いただきました。法律でユニバーサルサービスの維持を義務づけられている日本郵政にとって、地域の急激な衰退は経営課題そのもの。
そんな状況を打開し「地域」をフィールドにローカルベンチャーと共創施策を生み出すとともに、チャレンジしたい人材がチャレンジできる環境をつくることを目的としているのが「ローカル共創イニシアチブ」というプロジェクトです。
郵便局の信頼を基盤とした潜在的なコーディネート機能や、物流網・金融機能等の事業リソースをLocal Coopのサービス実装に活用可能なのでは?という仮説のもとプロジェクトを進めており、現在はプロジェクトに加入するメンバーの人選を行っているそうです。
何と言っても特徴的なのは郵便局の数とその配置!郵便局は小学校よりも多く存在し、しかもそれぞれに社員がいるという場です。そしてコンビニとは異なり、集落からの距離や不便になってしまう人がいないかなどを考慮した配置になっているそうです。毛細血管的に全国に広がる郵便局。どのような取り組みが進んでいくのか楽しみです。
量子力学と多自然主義とイノベーション
ここからはいよいよ大室先生のレクチャーやそれに伴う議論について触れていきたいと思います。今回は、唐突に量子力学の話からスタート!「どこに着地するんだろう…」とお話を伺っていると、イノベーションへのヒントにしっかりつながっていました。
客観性やデータの重要性についてはよく語られます。これらは「観察する側」と「観察される側」があって成り立つ概念。ごく簡単に述べると、量子の世界では「観察するもの」と「観察されるもの」の区分がないのだそうです。
このような主客の区分がない量子力学の考え方を経営学に応用しようという動きも出てきているそうです。経営学では、これまで企業側と消費者側とを分けることが前提でしたが、もはやその「分ける」べきかどうかを疑わねばならなくなっているのだと大室先生は語ります。
これに関連して出てきたのが、多自然主義のお話。多自然主義とは、自然をひとつのもの、揺るがない不変のものとして単純に捉えることはできず、自然そのものの在り方も多様なものと捉える文化人類学の考え方のことです。
多自然主義の立場で考えると、自然と人間の関係も主客が固定されておらず、逆転しうるものだとわかります。人間中心的ではなく、こういった多自然主義的な考え方に基づいて、SDGsや環境問題について考えていく必要があると大室先生は話します。
この話から転じて、野中郁次郎氏が提唱する「戦略の人間化」「ヒューマナイジング・ストラテジー」などの考え方も紹介されました。人間の主観がもっと戦略に入っていかないといけないという、モノに留まらず戦略すらも人間化していこうとするのがこの考え方です。
こうした考え方が登場しているなかで、大室先生は「リードユーザーイノベーション」のような考え方に注目していると語ります。大企業は、消費者やユーザーの生み出す新しい使い方やプロダクトを徹底的にウォッチして、量産化の役割を担う。イノベーションを起こす主体は企業ではなく、市民や消費者になっていくと大室先生はいいます。
これもモノを生み出す企業とそれを単に消費する消費者という構造からの脱却、主客の転換ですね。主体と客体を分けない、あるいはそこを逆転させる、人間中心の考え方から離れるといったモノの見方が発想を豊かにし、イノベーションにつながっていくのだと思います。
自分のこれまでの思考回路を変えてみる
大室先生の話はかなりのボリュームだったので、一部を抜粋してお伝えしました。今回の講義で、普段の思考や従来の考え方から離れるということがイノベーションには重要なのだと感じました。
主体と客体という立場を転換させてみる、モノを擬人化させてみる。自分のいままでの思考回路と異なる考え方をしてみると新たな発見や気づきにつながり、クリエイティビティが高まりそうです。
SIL導入説明会開催中
Suatainable Innovation Labでは、随時参画企業や自治体を募集しています。よろしければぜひ導入説明会にご参加ください。
この記事を書いた人
Writer:服部可奈 / SIL事務局
Editer:モリジュンヤ / 株式会社インクワイア