東証プライム企業の自然資本スコアランキングと考察
サステナブル・ラボは2023年12月号のForbes JAPAN巻頭特集『新しい「いい会社」100』の企業ランキングを担当した。今回はその中で紹介した「自然資本ランキング」をマクロ的な目線で解説していく。(参考:Forbes JAPAN 2023年 12月号 Kindle版)
全体の自然資本スコアは低値だがTNFD開示で今後高まる可能性
図1:業界別 平均自然資本スコアおよび各業界の自然資本トップ企業のスコア(東証プライム)
自然資本スコアの全体平均は29.80とそれほど高くないが、その中で60以上の高スコアとなった企業は各業界における自然資本の情報開示のリーディングカンパニーと言えるだろう。現状TNFDに基づく情報開示を行っている企業は限定的であるが、2023年9月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言が公開されたことに伴い、今後は自然資本関連の情報開示を進める企業が増える可能性があり、その流れで全体の自然資本スコアが上がっていくかもしれない。
自然資本スコア業界平均TOPは42.21の公益事業で、電力・ガス事業などが分類される。扱う商品・サービスそのものが自然由来物で、人々の生活に不可欠なモノを供給する事業の特色があり、GHG排出量レベル、環境に配慮したオペレーションなどの指標が高く評価されている傾向にある。
自然資本スコアの業界平均最低値は21.85のメディア・娯楽。主事業と自然資本との結びつきが薄い業界の特徴が業界平均スコアに反映されている。
自然資本スコア 上位100社の業界占有率
図2:自然資本スコア 上位100社の産業部グループ割合
自然資本スコア上位100社の産業グループ割合を円グラフで見てみると、素材が最も多く19.0%、次いで資本財17.0%となった。素材、資本財などの産業は自然資本のうえに事業が成り立っているのと同時に、事業が環境へ及ぼす影響度が高い。そのことを認識している企業は将来にわたる生態系の維持に積極的で、ビジネスの発展と共に自然資本関連の対応にも責任感を持って応じているものと考察できるだろう。
自然資本スコアトップ企業ランキング
図3:自然資本スコアトップ企業ランキング 上位20社(東証プライム)
自然資本スコア企業ランキングの最高値は73.46の伊藤忠商事で、上位20位以内に商社が3社ランクインしている。グローバル市場ではTNFD対応が重要視されるため、グローバルビジネスを行う商社ならではのハイレベルな自然関連対応が高スコアに反映されたものと捉えられる。
一方、原料調達から廃棄に至るまで自然資本への影響度が高いアパレルは、今回のランキングで上位に顕出しなかった。一部のアパレル企業ではオーガニックコットンや再生繊維の開発・使用、衣料品の回収リサイクルなどに取り組んでいるが、自然資本スコアへの反映が見られない。今後、自然資本関連の情報開示の充実を含めたさらなる対応の深化が期待される。
最後に自然資本スコアランキング上位20位のうち、注目企業の取り組みを照らして紹介する。
9位:ヤクルト本社(食品・飲料・タバコ)
水を主原料とする飲料を扱うヤクルトグループは「人も地球も健康に」をコーポレートスローガンに掲げている。国内外の工場で年間約600万m3の水を使用し、2024年度末までに国内の乳製品工場での水使用量(生産量原単位)を2018年度比3%削減する目標を掲げる。設備の更新や作業方法の見直し等による水使用量削減の取り組みですでに13.9%の削減を達成。
また「2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロ」の目標を定め、スコープ1・2の排出量把握と削減に努めるほか、原料調達から生産、物流、販売までのバリューチェーン全体のCO₂削減の取り組みを推進中である。
日本のみならず中国、フィリピン、メキシコ、ヨーロッパでの植樹活動を進めており、生物多様性保全に貢献している。(参考資料:ヤクルトグループ|Sustainability Report 2023 P.30-48)
10位:大阪瓦斯(公益事業)
大阪瓦斯のDaigasグループは、製造所がある地域本来の生物多様性を守り高い生態系機能を備えた緑地をつくることを目的に緑地管理計画を策定し、構内の緑地育成に取り組んでいる。定期的な生物多様性モニタリングを実施し効果検証をするとともに、専門家のアドバイス・指導を受けて緑地育成に注力する。
輸送に関わる生物多様性への配慮も行っている。LNGタンカーによる輸送時のバラスト水(大型船舶が航行時のバランスをとるために船内に貯留する海水)は、日本で積み込み外洋で入れ替てから産ガス国の港で排出するなど、生態系への影響の軽減に努めている。(参考資料|Daigasグループ Sustainability report 2023「資源循環社会への貢献」、「生物多様性」)
13位:ベネッセ(消費者サービス)
教育事業を中心に行うベネッセは、子どもの発達段階に応じた環境教育コンテンツを提供する。幼児期には自分で種から植物を栽培するキットによる栽培体験を通じて興味付けを促す。その他にも昆虫や動物などの生き物観察プログラム、小学校高学年向けの環境・経済に関するニュースファイル、高校生環境小論文コンクールなど、子どもとの接点を多く持つ同社ならではの環境教育を展開する。
2023年11月には「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」に賛同し、「TNFDフォーラム」へ参画することを発表した。 ますますの自然資本関連の取り組みが加速されることが期待される。(参考資料:PR times|ベネッセHD「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム」に参画 、ベネッセHD|環境教育)
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