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【企業価値向上の鍵】取締役のスキル多様性を通じたコーポレート・ガバナンスの強化

Reported by Ingo Tietböehl(Director of ESG Research and Solutions)and Yukinori Toda(Data Scientist)


前提:国内の上場企業は、コーポレート・ガバナンスと長期的な財務パフォーマンスを向上するために多様な取締役のスキルと経験が重要であることを認識しはじめている。

下記の図表は、日本の東証プライム上場企業の取締役が、より多様なスキルを持つポートフォリオへ徐々にシフトしていることを示している。
規制改革、戦略的な取締役会の構成、独立性に重点を置くことにより、日本企業は意思決定プロセスを強化し、変化する事業環境に適応し、企業価値を高める努力を強化している。

図表1:日本の取締役会のスキルは「業界知識」から、財務、法務・リスク管理、グローバル経験、サステナビリティなどのより専門的なスキルにシフトしている
図表2:FY2022における役員の保有スキル(FY2019比)

【図表1・2ともに】(出所)TERRAST(注)JPXプライム市場上場企業1,800社以上、役員20,000名以上のデータを分析(元データは有価証券報告書、コーポレートガバナンスレポートレポート等)

日本企業は、コーポレート・ガバナンスと長期的な財務パフォーマンスの向上を目指し、多様なスキルセットの観点から取締役会を改善するための変革を進めている。日本で2014年に策定されたスチュワードシップ・コードと2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードは、幅広い専門知識を持つ多様で独立した取締役の重要性を強調し、取締役会のメンバーのスキルと経験の多様化を牽引。

コーポレート・ガバナンスと長期的な財務パフォーマンスを向上させるため、日本企業は取締役会メンバーのスキル、経験、資格を開示し、選任プロセスの透明性を確保することが奨励されている。コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会メンバーの業界知識、国際経験、財務リテラシー、リスク管理の専門知識の価値を強調している。さらにスチュワードシップ・コードでは、機関投資家が企業のガバナンス慣行や長期的な価値創造の可能性を評価する際に、多様なスキルや経験を含む取締役会の構成を考慮する必要性を強調している。

日本には、合意形成と長期関係に基づく意思決定がまだ多く、多様な考え方や財務目標の優先順位が限定的である場合もまだ多くある。これを緩和するために、日本の取締役会は業界固有のスキルと幅広いビジネス感覚とのバランスを取る必要がある。多様な経歴や業種の人材を取り込むことで、取締役会は、リスクを評価し、機会を特定し、急速に変化するビジネス環境に適応する強固な意思決定プロセスを育成することができる。独立した思考、建設的な挑戦、新しい視点への開放性を奨励することは、効果的なガバナンスに不可欠である。

国内では業界知識や経験が高く評価される一方で、そのスキルセットへの過度の依存は意思決定を妨げ、新たなトレンドやリスクを見落とす可能性がある。この問題に対処するため、企業は取締役会メンバーのスキルや経験を、各社固有の課題や機会と整合させる必要がある。適切なスキルと経験を持つ取締役会メンバーを特定し、選出するための戦略には、強固な指名・評価プロセス、エグゼクティブ・サーチ会社の関与、多様な候補者プールの検討などが含まれる。さらに、効果的なオンボーディング、能力開発、継続的な教育を行うことで、在任期間を通じて役員のスキルと経験を高めることができる。

複数の日本企業が、多様な取締役会メンバーのスキルや経験が企業価値にプラスの影響を与えることを実証している。

例1)日立製作所
技術、エンジニアリング、財務の各分野の取締役が持つ専門性を戦略的に活用し、デジタルソリューションや持続可能なインフラを通じて企業価値を高めている。

例2)ソニー
テクノロジー、エンタテインメント、ファイナンスなど多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成され、イノベーションと戦略的買収を促進し、同社の競争力強化に貢献している。

例3)ブリヂストン
エンジニアリング、製造、マーケティング、財務など、多様なスキルと経験を持つ役員を重視することで、サステナビリティやデジタルトランスフォーメーションといった業界のトレンドへの効果的な対応を可能にしている。

日本ではコーポレート・ガバナンスの改善が進んでいる。データで測定することが難しいなか、投資家は、取締役会を多様化すべく企業が改善に日々努めている点を注視し続ける必要がある。これには、企業が独立した考えを持つ文化を醸成し、従来の規範に挑戦しているかどうかも含まれる。指名・評価プロセスの有効性は極めて重要であり、投資家は、企業が多様なスキルや経験を持つ取締役を選任するための透明性のある手続きを有しているかどうかを評価すべきである。さらに、建設的な議論や多様な視点を含む取締役会のダイナミクスをモニタリングすることも、進捗状況を評価する上で重要である。これらの要素を積極的にモニタリングすることで、投資家は、企業の取締役会の改善が長期的な財務業績に与える影響を評価することができる。

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