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統合報告書を分析【モメンタム・キーワード大賞 2025】3位「社外取締役」、2位「人的資本」、1位は…!?

2024年は、規制対応の厳格化と、ESG要素を財務戦略に統合する動きが目立った一年となりました。CSRDやISSB基準の適用、SSBJ公開草案の公表、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示義務化を通じて、日本企業は透明性と説明責任を強化し、東証が求める資本コストを意識した経営を推進する必要に迫られました。

企業価値向上や投資家の信頼獲得のため、これらの変化に対応し、戦略的なサステナビリティ経営を推進することが求められるなか、企業はどのようなコミュニケーションを試みたのでしょうか?

今回、サステナブル・ラボでは2024年に発行された統合報告書のデータ分析を通じて、「モメンタム・キーワード大賞 2025」の結果を取りまとめました。

モメンタム・キーワード大賞 について

「モメンタム・キーワード大賞 2025」では、企業がステークホルダーとのコミュニケーションに用いる統合報告書において使用されたワード(言葉)を分析。次の2部門から構成されます。

1)Now 頻出!もはや定番ワード部門 🎊
前年度に比べ、出現回数が最も増加したワードをランキング

2)Next 急上昇中!トレンドワード部門 🎊
前年度に比べ、使用する社数が最も増加したワードをランキング

市場を通じて、発行体企業が「どのようなキーワードを用いて、メッセージを発信しようとしているか?」、国内のサステナビリティ経営の大局的なトレンドを掴むヒントとなることを期待しています。

【 データ分析概要 】
調査対象企業:時価総額上位500社の日本企業のうち、2023・2024両年の統合報告書発行が2024年末時点で確認できた315社
調査機関:自社調査
調査方法:
2024年12月30日大納会終値による時価総額ランキングを作成
時価総額上位500社を抽出し、2023・2024両年の統合報告書を発行している企業を抽出
抽出した315社について2023・2024両年の統合報告書PDFファイルからテキストを抽出し解析
2023年と比較し、2024年に①出現する回数が増えたワード、②使用する社数が増えたワードを集計
なお、ワードには2語からなるフレーズも含む

それでは、発表いたします!

🎊 Now 頻出!もはや定番ワード部門 🎊

1位「価値創造」ほか関連ワード「企業価値」「価値向上」が頻出

同一企業群の2023・2024両年の統合報告書のテキストを分析し、出現した回数が増えたワードのランキングを作成した結果、大賞は約4,000回増加した「価値創造」となりました。「企業価値」「価値向上」といったワードまで含めると計10,000回以上増加しました。

2位「人的資本」開示の重要性と向き合い方

2位の「人的資本」は、有価証券報告書における人的資本開示の義務化の影響が色濃く反映された結果でしょう。
9位には「DE&I」も入っており、人的資本という文脈においては組織の多様性が重視されている傾向が観察されました。一方で、「ダイバーシティ」や「インクルージョン」は大幅に減少しており、総称としての「DE&I」が浸透した結果として、説明が不要になったという面がありそうです。

直近ではウォルマート、マクドナルドやメタといったアメリカ企業が多様性に関する方針を修正・廃止する動きも見られ、国内企業の今後の多様性への向き合い方は注目すべき点だと言えるでしょう。

4位「資本コスト」、8位「ROE」がランクイン

これは統合報告書において、ファイナンスという経営者・投資家との共通言語が使われ始めていることを示していると考えられます。また、コーポレートガバナンス・コード(2021年6月改訂)や伊藤レポート3.0(2022年8月)、東京証券取引所による『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』要請(2023年3月)といった流れを受けて、財務と非財務のコネクティビティを意識した企業の取り組みが顕在化していると言えるでしょう。

上記に付随して、3位に「社外取締役」、6位に「監査[等]委員」といったワードが入ってきており、企業がより経営の透明性を向上させ、ガバナンス体制を強化していることも伺えます。

国際フレームワークの影響力を示す「生物多様性」「自然資本」

5位に「生物多様性」、7位に「自然資本」
2021年に発足したTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)のアーリーアダプターは日本企業が最多であったことも、国内勢の関心の高さを示唆しています。
また、「○○資本」というワードが2つランクインしている点は、IIRC(国際統合報告フレームワーク)に則った記述や開示が増加していることを示していそうです。

最後に、ワースト3(最も減少したワード)を独占したのは「新型コロナウイルス」関連でした。これは、統合報告書が外部環境や時勢を捉えたコミュニケーション媒体であることの証左であると考えています。

🎊 Next 急上昇中!トレンドワード部門 🎊

本部門では、使用した企業の数が増えたワードのランキングを作成しました(1社が何度同じワードを使用しても1とカウント)。

1位「生成AI」、7位「コロナ」等、時流を反映

1位は「生成AI」。FY2023には11%(37 / 315社)でしたが、FY2024には48%(152 / 315社)と約4倍、およそ半数の企業が言及しました。明確に経営戦略・事業戦略に紐づけた取り組みとして記述しているものと、時勢や新しいテクノロジーの具体例として記述しているものが混在している印象です。

定番ワード部門ではワースト3を独占した「コロナ」でしたが、トレンドワード部門では7位にランクイン。出現数こそ大幅に減少したものの、「コロナ禍を抜け~」や「コロナ前の水準に~」といった前向きな表現として用いる企業が増加しました。

2位「資本コスト」、6位「PER」、8位「PBR」にコーポレートファイナンス関連、5位に「DE&I」といった人的資本関連のワードがランクインしており、定番ワード部門と同様の傾向が観察されました。
また、3位「TNFD」、4位「自然資本」、9位「生物多様性」、10位「ネイチャーポジティブ」といった生物多様性に関連するワードがTop10の半分程度を占め、言及する企業が2024年に急増したことが伺えます。

注目ワード「ENCORE」「中東」

ランク外で特筆すべきことは2点です。
1つは2024年に新たに40社が言及した、自然関連の依存・影響・リスクの分析ツール「ENCORE」。2023年10月に環境省が推奨したことも後押しとなり、急速に普及した感があります。
今後は、連結子会社やサプライチェーンなど、サステナビリティ関連情報の収集・開示が多岐にわたることが想定され、企業が効率的かつ正確にデータを収集するために、このようなツール・サービスのニーズがますます高まっていくでしょう。

2つ目は、「ロシア・ウクライナ情勢」に関する記述が著しく減少した一方で、新たに40社が「中東」に言及した点です。これは、外部環境としての気候変動や経済情勢に加え、地政学や外交といった要因も潜在的なリスクとして企業が考慮しているためだと考えられます。

✏️ まとめ ✏️

今回の統合報告書のテキスト分析を通じて、各企業が社会情勢や外部環境を反映させた言葉を選び、財務と非財務のコネクティビティを意識したコミュニケーションを試みていることがデータから明らかになりました。また、時流を象徴するワードのみならず、E・S・Gの各関連キーワードが満遍なくランクインしており、バランスを重視したサステナビリティ経営の姿勢も見てとることができました。

昨今、統合報告書のページ数を削減する動きが見られる一方で、今回の分析対象企業の統合報告書においては、1冊あたりの記述量が前年から約7,000字増加したことも分かりました。
企業がサステナビリティ情報開示や投資家への説明責任を重視していると捉えることもできますが、ボリュームが増えると投資家をはじめとするステークホルダーに負担をかける恐れもあるでしょう。

今後は、「どのステークホルダーに、どのような情報を届けるべきか?」という視点に立ち、開示においても「選択と集中」が重要になってくるのではないでしょうか。また、図表やデータファイルの提供等、人間・AI双方にとって読みやすいかたちでの開示が求められていくでしょう。

2025年2月5日(水)12時より解説ウェビナーを開催します。

本キーワード大賞の発表に伴って、当社のメンバーによる解説ウェビナーを無料で開催予定です。11位以下のキーワード等も公表・解説いたしますので、ご興味のある方は是非ご参加ください。申し込みページは近日中に公開します。


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