「変身ヒーロー誕生」昔書いたもの
主人公は40歳手前の中年男性。世間を騒がす怪人と、その怪人を作り出す「やつ」と戦うため、体術を鍛え、防御用のスーツを作り、武器を持たずに怪人と戦うお話。
話は最終決戦前、廃校になった小学校を「やつ」のもとに向かって進む主人公、そこに登場するのが、今まで戦った怪人たちの劣化コピー。ヒーローものの最終回直前でよくある展開。そして、怪人と戦いながら今までの戦いを思い出していくことで話が進んでいく。
まず、「やつ」が作る怪人だが、銃で撃ったり刃物で傷つけると広範囲に影響があるくらいの爆発をする。怪人を倒すには、体に傷をつけずに動きを止めるしかない。主人公はあらゆる柔術、柔術系の古武術を研究し、師事し、関節を外すことに特化した体術を身に着ける。
怪人は、爪や牙などを持っている場合が多く、そのため、分厚い生地のスーツが必要となる。主人公は、パラシュートに使う生地でスーツを作り、ヘルメットをかぶり、毒ガス対応のマスクをつけて武器を持たずに怪人に対峙する。
その中の話で俺が一番好き、というか思い入れが強いのが、子供の怪人の話。
ある男のもとに、別れた妻のもとにいるはずの子供が訪ねてくる。男はすぐにおかしいと思う。なぜなら十年前に別れたときの年齢のままの子供の姿だったから。3歳の姿の娘を、男は家に招き入れ、一緒に暮らし始める。
しかし、その子供は、夜な夜な外に出かけ、返り血を浴びて帰ってくる。
ある日男が家を出る子供のあとをつけてみると、人気のない路地裏に通行人を引きずり込み、手から生えた長い爪で切り裂いている。子供はキャッキャと喜んでいる。子供が返り血まみれになって振り返って笑う。男は「楽しかったかい?帰ろうか?」と子供を抱きかかえ、家に帰る。お風呂に入れて血を洗い流す。寝かしつけると、子供は気持ちよさそうに寝息をたてる。男は幸せを感じた。
そんな生活も長くは続かなかった、ある日、男の家に主人公が忍び込んできた。ぴっちりしたスーツにガスマスクとヘルメットをかぶった男。主人公は、寝ている子供の右腕の関節をはずした、子供は飛び起きて、左手の爪を伸ばし戦い始めるが、両手両足の関節を外され、動けなくなってしまう。「パパ・・いたいよ」と泣く子供、男は包丁を持って主人公に挑むが、包丁を取られ、しばりあげられてしまう。
この話は、俺自身が子供が三歳くらいの時に離婚して、寂しい思いをしたことが体験となっていて、すごく思い入れがあって、この章を書いてしばらく筆が止まってしまった。怪人と戦うヒーローも見方を変えたら単なる変態んしか見えないし、暴力に暴力で対抗していることは間違いない。主人公が話の中でよくつぶやく言葉に「やつは趣味が悪い」というのがあって、基本的にこういう趣味の良くない怪人が登場する話になっている。
ちなみに、最後のオチを書くと、「やつ」は、主人公の息子。息子が怪人を使ったテロをはじめたことを知った主人公は責任感から怪人を倒しはじめる。最後の最後で、「やつ」=主人公の息子は自ら怪人となるが、その姿はまるで正義のヒーローのような姿に変身する。変身ヒーローと変態男の最終決戦がクライマックスになる。
人生で一番色々あった時期に書いたものなんで、すごく心に残っている。