「モノ憑き天介でんでこでん」昔書いたもの
大正ロマンです。10代の時の作品ですね。その後、何度も書き直して何件か新人賞に応募しました。
16歳、火ノ車天介は、仏具屋の子で、何の特徴もないいじめられてるといえばいじめられてるし、そうでもないといえばそうでもないクラスに必ずいる目立たない子。旧制中学の2年生、クラスのマドンナに憧れるも、どうにもできない上にひそかな思いがバレて、告白しないうちに失恋するという憂き目にあう。
ある日、実家から送られてきた仕送り荷物の中に紛れていた線香を、盆の時期なので焚いてみたら、それは由緒正しい反魂香で、修業を積んだものが使えば魂を傀儡に呼び戻せるもの。それを焚いてしまったため、天介には先日近くで内務省の特務警察に追い詰められ、命を落とした武道家であり修験者、仙蔵の霊をぎりぎりのところでこの世に呼び戻し、自分に憑りつかせてしまう。
内務省、特務警察総監、横沼白九郎は、来る世界戦争に備え、日本の鬼道の女王を呼び出そうとしていた。女王卑弥呼の墓を特定し、その魂を生身の人間に宿らせる計画を進めていた、仙蔵は先祖代々卑弥呼の墓を守る、というか、封印を見守る役目についていたため、横沼の部下に殺されたのだ。
その、卑弥呼の依り代に選ばれた少女がさらわれるところを見てしまった天介、変な老人の幽霊に憑りつかれたが、それによって、仙蔵の収めた体術、気仙道を使えるようになる。
気仙道が使える天介と、横沼率いる内務省特務警察のバトル。
この話を書くにあたって、書きたかったシーンがあって、急ぐ天介の足が限界で速く走れない上に、少女を抱えている。
そこで、道端の大八車に天介を少女を乗せ、幽霊の仙蔵が引っ張る。傍目には誰も引いてない大八車が猛スピードで大正の街を走り抜けていくように見える。
依り代の少女の争奪戦、最終決戦は天介と横沼。
実は横沼もまた気仙道を修めており、さらに暗黒大陸のブードゥーも使いこなす怪人だった。
横沼は天介の力の源を理解し、仙蔵を引き離す。天介は気仙道の力を失い、横沼の、曰く「生きることを体があきらめるまでの攻撃」を受け、気を失う。
が、そのとき天介が気を失いながらも、凶暴な力で横沼に応戦しはじめる。
横沼が視ると、天介には何か別の鬼のようなものが憑いている。憑いているというか、血=DNAに刻み込まれている。横沼は、天介の血筋に、自分が立ち会って負けた鬼と呼ばれた武道家火ノ車天兵衛の技だと確信する。天兵衛の技はとにかく相手に無数の傷をつけ血を流させる、立ち合いのあとは必ず血まみれの死体と天兵衛、それに加えて、閉じ込めていた仙蔵の魂も解放され、天兵衛と仙蔵の波状攻撃で横沼はついに倒れる。
が、卑弥呼を呼び出す儀式は大詰めである。ぎりぎり依り代の少女は救えたが、正しい依り代を見失い、地面を揺らして吠え始める卑弥呼、その咆哮がおさまるまで地震は続いた。
関東を未曽有の大震災を襲った。震源は不明。だが、内務省の建物が真っ先に倒壊したという話ではある。
そして、復興に忙しい街に、泥だらけで作業にいそしむ天介がいる。
その天介を、旧制中学の同級生やマドンナが汚いものを見るような目で目ている。でも、今の天介にそんなことどうでもいい。誰の力も借りずに自分のできることを自分の力でやる。流れる鬼の血はまた顔を出したらなんとか抑える。炊き出しの手伝いをする天介。それを少し離れて見守る依り代に選ばれた少女。終わり。
という、どうにもこうにも菊池秀幸風謎武術と、帝都物語を混ぜて巨神兵まで出てくる、誰が読んでも「おまえそれあれだろう」と言われても何も言えない作品。
だがこれ、同郷の漫画家でアニメ業界にも長く関わっている西中康弘さんがキャラを描いてくれて、それがまた物語を上回る説得力のある絵で、非常にありがたかったです。
ちなみにこの話、英訳してアメリカのジュブナイル新人賞に応募しました。
自動翻訳などない時代だったんで、もう二度とやらないと誓いました、