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男子1500mにおける好記録と世界との比較

4/10の金栗記念男子1500mでトラックシーズンの序盤にして好記録が続出した。

優勝した河村は3:38.83の日本歴代9位、4位の佐藤は高校生ながらPMの横田コーチについていき1:55台後半で800mを通過。最後は3人に抜かれたものの高校歴代2位の3:40.36の好記録をマークした。

その他、1,2,3組でも全体的に3分40秒台の好記録が目立った。

中長距離種目はこの1-2年で比較的記録水準が向上している。

こと、1500mでもニュースパイクの登場で「1500mで2秒は速くなる」と19年連続1マイルサブ4を達成したニック・ウィリスは話している。

金栗記念の1500mの出場選手の多くがナイキのドラゴンフライを着用していた。

日本における1500m以上の中長距離種目のトップレベルのレースではもはや、メーカーとの契約選手を除けば、ロードでもトラックでも9割以上がナイキのシューズを履いている状況であり、そのシューズが記録水準の向上にプラスの影響を与えているのはいうまでもない。

そこで、金栗記念で記録された3分30秒台の記録が、今世界でどれぐらいの位置にあるか、ということと、5-6年前との比較、という2点を以下にみていき、近年の記録水準の向上について考察する。

世界の男子1500m:'20-'21記録順

2020年1月1日から2021年4月18日までのレースでマークされた記録を以下にエリアと国ごとにみていく。

🌍 世界TOP8
屋外(サブ3:30 3名)

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室内

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※ コロナ禍ということでアフリカ勢のランクインが少ない。


アフリカ

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サブ3:30 1名 / サブ3:35 6名
COVID-19の影響で海外渡航できる(平地の試合に出れる)選手が限定的で参考にしづらい。記録水準が明らかに例年より低い。

参考:15-16年の同時期の記録

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サブ3:30 4名 / サブ3:35 14名
この中には後にドーピング違反で資格停止になる選手が3名含まれているが、全体的にレベルは高い。


★ アジア
🇶🇦 カタール
M.Adam 3:32.41 #6
(※20年1月から21年4月にかけて世界で6番目の記録という意味)
D.Hamza 3:37.15 #65

M.Adamは2019年アジア選手権銅メダル。そこから2年で3:42.31 → 3:32.41にまで10秒も記録を更新。


🇯🇵 日本
河村一輝 3:38.83 #101 🇯🇵 日本歴代#9
森田佳祐 3:39.37 #116
(日本記録の3:37.42で#71)

河村が出した3:38.83の記録はこの16ヶ月間では世界で101位の記録である。日本歴代9位といえば華やかに聞こえるかもしれないが、世界大会に出ることを意識するなら101位という順位は知っておいて損ではない。

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なお、日本記録の3:37.42相当の記録でも71位である。この春からもっと世界中で記録が出ることを考えると、東京五輪に出場しようとしたら3:35.00の参加標準記録突破が1番スタンダードな目標になってくる。

記録水準が上がっているので、世界ランキングでの東京五輪出場というのはたとえ出場できたとしても五輪本番では厳しい戦いがそこに待っていることだろう。

【男子1500m:記録順世界ランキング101-200位】
https://www.worldathletics.org/records/all-time-toplists/middle-long/1500-metres/outdoor/men/senior?regionType=world&page=2&bestResultsOnly=true&firstDay=2020-01-01&lastDay=2021-04-18


北米
🇨🇦 カナダ
M.Ahmed 3:34.89 #21
W.Paulson 3:35.59 #32
J.Knight 室内3:36.13 #14
Sub3:40 5名

アーメドは5000 / 10000mの2種目での出場を選択するだろう。特に5000mはドーハ世界選手権で銅メダルを獲得。10000mも6位だった。ナイトは2017 / 2019年世界選手権で2大会連続で5000mの決勝に残っている。


🇺🇸 アメリカ
C.Engels 3:35.42 #30
D.Brazier 3:35.85 #34
J.Gregorek 3:36.11 #42
Sub3:40 33名(室内含む)

室内
J.Thompson 3:34.77 #7

室内1マイル
C.Teare 3:50.39 #1
C.Hocker 3:50.55 #2

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今回の全米選考会は混戦となるだろう。前回のリオ五輪覇者のセントロが昨年の故障の影響で出遅れており、不動の地位を保つほどの勢いはない。逆にオレゴン大の後輩にあたる大学4年のティアが室内1マイルで3:50.39の今季世界1位の記録をマーク。

ティアの後輩でオレゴン大2年のホッカーも3:50.55でそれに続いた。ホッカーは3月の全米学生室内選手権2日目に1マイルと3000mの同日2冠を達成しており、全米選考会での代表入りがティアとともに期待される。

BTCのトンプソンも現在ではチームメイトのセントロよりも勢いがあり勝負強い1人ではあるが、記録のインパクトでは先ほどの2名にはやや劣る。

ピート・ジュリアンのトレーニンググループではエンゲルスが2019年に全米選手権を制しているが、3:30台前半といった突出した記録は持っていない。また、3:35.85の記録を持つブレイジャーは800mが本職であり、4×400mRとの2種目での五輪出場を狙っている(1500mでは狙わない)。


オセアニア
🇦🇺 オーストラリア

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S.Mcsweyn 3:30.51 #5 NR / 豪州選手権2位
J.Edwards 3:33.99 #13 / 豪州選手権優勝
O.Hoare 3:34.63# 18 / ↑不出場(COVID-19の影響)
※室内3:32.35 #2
Sub3:40 13名
↑3名が五輪代表の見込み

4/18に行われたばかりのオーストラリア選手権で3.33.99の大会新で優勝したのが23歳になったばかりのエドワーズ。今年に入ってこれまでのPBを7.3秒も縮める活躍をみせている。

マクスウェインは負けたものの、なお強しの内容。

金栗記念の横田コーチのペーサーが800m1:55だったのを考えると、誰が飛び出すかもわからないオーストラリア選手権の決勝で1人で軽快に飛ばして800mを1:52.3で入って1400mまで先頭を引っ張り(レースの95%を引っ張り)3:34.55でフィニッシュしている。

オーストラリアの五輪代表はまだ決定していないが、このオーストラリア選手権の上位者で参加標準突破者が代表選考で優位。

優勝のエドワーズ、2位のマクスウェインは確定の見込みだが、3番目の椅子は室内で2月に3:32.35をマークしているホアだろう。米国のボルダーを拠点とする彼はCOVID-19の影響なのか、オーストラリア選手権にエントリーしていなかった。

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(ホアは2月に3:32.35の好記録をマーク 出典:Instagram / Oliver Hoare

記録順ではホアがマクスウェインに次いで、オーストラリアの選手としては2番目の場所にいる。


🇳🇿 ニュージーランド
室内
S.Tanner 3:34.72 #6
N.Willis 3:37.53 #30 リオ五輪銅メダル🥉
共に五輪代表内定

五輪の本番では18歳の年の差があるタナーとウィリスが代表入り。ウィリスは2回の五輪メダル獲得経験があるスペシャリスト。また、タナーは今のところ「ウィリスを超えるような逸材」との評価である。

なぜなら、タナーは陸上を本格的に始めるまではサーフィンを本格的に取り組んでおり、陸上歴は浅い。フルタイムの陸上選手となってからの活躍ぶりが凄く、今後も記録を伸ばしてくるだろうと予想できる。米国のワシントン大2年であるが、大学在学時に五輪代表に内定するのだから大物であることは間違いない。

(タナーの在籍するワシントン大はアディダスと契約しているので大学の試合では彼はアディダスのスパイクを使用しているが、大学以外の試合ではナイキのエアズームヴィクトリーを着用している:2月末のワシントン大でのハスキークラシック室内1マイルで3:55.23の好タイムをアディダスのスパイクでマーク)


欧州
🇳🇴 ノルウェー
Jakob 3:28.68 #2 AR(欧州記録)
※室内3:31.80で#1
Filip 3:30.35 #3
Sub 3:40 4名
Henrikは1500m不出場

現在のインゲブリクトセン兄弟のエースといえばヤコブ。今年は欧州室内選手権で1500 / 3000mの2冠。彼女への婚約も成功しており、DLシーズン開幕前にすでに東京五輪でのメダル獲得に向けて王手というところだが、ドーハ世界選手権がそうだったように、まだシニアの世界大会でのメダル獲得はない。

昨年は3:28.68をマークして欧州記録を更新。記録の面ではメダル獲得が現実味を帯びているが、特に1500mという種目において選手権のレースはリオ五輪の時のように実力通りに決まらないことも多いので、今年1年はさらに注目が集まる。

兄のヘンリクは昨年5000mにシフトしているが、五輪イヤーに1500mとの2種目出場を検討しているかは現時点では不明。


🇬🇧 イギリス

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J.Wightman 3:29.47 #3
J.West 3:34.07 #15
J.Kerr 3:34.53 #17
Sub3:37 10名(室内含む)

ワイトマンが英国歴代2位の3:29.47を昨年マーク。800mでも昨年には1:44.18の自己新をマークした。英国選手のサブ3:30は歴代で5人目の快挙であるが、五輪メダリストのS.コーS.クラムという2大レジェンドの記録を超えた。

ワイトマンはドーハ世界選手権でも3:31.87の5位と、ヤコブの真後ろ(0.17秒差)でフィニッシュ。ドーハでは僅差でメダル獲得を逃したが、東京五輪でのメダル獲得を狙える位置にある。

英国勢はそのドーハ世界選手権の決勝で5、6(カー)11位(ゴーリー)と3人が決勝に残っている。そして、2019年に3:30.62をマークしたC.グライスがその年の英国選手権でドーハの代表落ちを経験するぐらいに英国勢のレベルが高く、20-21年でSub3:37が10名と平均的に中距離が強い。今年の英国選考会の結果に注目が集まる。


🇪🇸 スペイン

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J.Gomez 3:33.07 #9
I.Fontes 3:33.72 #11
S.Ordonez 3:34.98 #22
Sub3:37 7名

昨年の8月末のスペインでのレースで1500mの好記録が続出。特にフォンテス(U23欧州選手権優勝)とゴメスという2人のサブ3:34達成者はドーハDLにも出場した。特にU23の若手の活躍が目覚ましいので、今年さらに成長しているようであればスペイン勢は注目の的になる。DLシーズンでは彼らの成績に注視したい。

(ゴメスは2020年にDLを4戦してサブ3:35を3回マーク)

ゴメスは2021年欧州室内で銅メダル(2大会連続の銅メダル獲得)も2020年のスペイン選手権では3位に敗れている。フォンテスもそのレースで2位に敗れたが、優勝したのは3:35.98のPBを持つK.ロペス


🇫🇷 フランス

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P.Monrozier 3:35.00 #23
A.Habz 3:35.87 #35
J.Gressier 3:36.04 #41
Sub3:40 9名

フランスの中距離といえば、世界大会でも穴を開けてくる可能性がある。例えば800mではP.ボスがロンドン世界選手権で金メダルを獲得。3000mSCではメキシ・ベナバドがケニア勢に割って入って世界大会で5回のメダル獲得(北京、ロンドン、リオ五輪、大邱、モスクワ世界選手権)。

現在はこの1500mの種目で東京五輪の決勝に残れそうな選手はパッと見当たらないが、中距離で実績のある国だけに、軽視は禁物である。


16'リオ五輪
🥇 M.Centrowitz 🇺🇸  2020年は故障
🥈 T.Makhloufi 🇩🇿 2019年以降試合出場無し
🥉 N.Willis 🇳🇿  東京五輪内定(4/25で38歳)

19'ドーハ世界選手権
🥇 T.Cheruiyot 🇰🇪  2020年3戦3勝(3:28.45 #1)
🥈 T.Makhloufi 🇩🇿 2019年以降試合出場無し
🥉 M.Lewandowski 🇵🇱  2021年欧州室内🥈

以上は記録順にまとめたものであって、3:35.00をクリアしている全員が標準記録を突破しているわけではない(2020年は4月から12月1日までの記録は標準突破にカウントされない)。


2015年との比較:水準はどれだけ上がっているか?

2020年1月-2021年4月に出た記録は、前回のオリンピックに向けての標準突破の機会であった2015年1月-2016年4月に出た記録よりも記録水準が高いと感じている。その理由の1つには当然シューズの進化によるものも含まれていいる(それだけ良い練習が積めているということだろう)。

ここで、2020年1月-2021年4月に出た記録を見る際に気をつけて見るべき点は以下である。

【COVID-19の影響】
・試合数が例年よりも少ない
・アフリカ勢のランキングへの反映が少ない(海外渡航が制限されている)

★2015-2016年4月:日本

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ホクレンの記録が大半。

★2020-2021年4月:日本

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少ない試合数ながらも秋の試合と春のGP開幕戦で好記録が目立った。サブ3:40が2人。今後もサブ3:40が多く生まれそうな雰囲気。

★2015-2016年4月:世界

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サブ3:30 6名
★ランキングの上位はアフリカ勢が占めている


★2020-2021年4月:世界

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サブ3:30 3名

2015-2016年:1500mの23/100がケニア人でそのうち5人がケニアの試合
2020-2021年:1500mの9/100がケニア人でそのうち4人がケニアの試合

コロナ禍ではケニアの選手が国際大会に出れていないのがよくわかる。また、昨年のDLもメンバーが勢揃いしていない大会も多かった。

その中でも2020-2021年のランキングを見ると非アフリカ系選手の相対的な順位が上がっており、やはり彼らは1-3秒程度記録を伸ばしている。ケニアなどアフリカ勢の選手のランキングの多くが反映されていないことを考えると、平均的に1500mの記録水準が1-3秒程度上がっていると考えるのが妥当だろう。


ダイアモンドリーグ開幕は5/23のゲーツヘッズ

今年のDL開幕戦だったラバトDLの開催が難しくなり、英国のゲーツヘッズでの開幕が5/23に予定されている。これ以降、COVID-19の状況が悪化しない限りは1500mの好記録が続出するだろう。

しかし、アフリカ勢は引き続きCOVD-19の影響で欧州への渡航が制限される可能性も考えられる。そうなると、欧州勢の底上げというところが見どころになるだろうか。

米国では五輪選考会に向けて中距離のレースも徐々に行われていく。1500mではまだ飛び抜けて記録が出ていないが、オレゴン大の2名の選手を含めたトップレベルの選手が時期に良い記録を出してくるだろう。

今回私がこの記事を書いたのは、金栗記念で2選手が出した3分30秒台後半の記録が、今世界でどれぐらいの位置にあるのか、を知りたかったからだ。そして、私は陸上の種目では1500mのレースを見ることを楽しんでいる。

東京五輪がもし開催されるとしたら、決勝のレースではどんなレースが展開されるだろうか。そして、世界大会の1500mで一番面白いのは準決勝での駆け引き、という人もいるぐらいなので、それを私が住んでいる東京の地で見れることを楽しみにしている。

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