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【2022年版】アメリカの陸上中長距離プロチームまとめ。
(トップ写真:Googleより引用)
実業団という日本の中心的なチーム形態をカウントせずに、日本における「中長距離のプロチーム」を挙げるとすれば、TWO LAPS TCやブルックスがサポートする阿見ACのプロチーム(4名)が挙がるだろう。
このプロチームという響きは日本において、プロランナーよりも馴染みがないかもしれないが、ことアメリカにおいては各スポーツブランドがプロランナーで構成されたプロチームを運営している。
以下に、それらのチームをスポーツブランドごとに紹介する。
ナイキ:BTC / UAC / OTC(全てオレゴン州)
・Bowerman TC(HP / Instagram / 拠点:オレゴン州ポートランド)
東京五輪で男子5000mでモー・アーメドが銀メダル、男子10000mでグラント・フィッシャーが5位、女子3000mSCでコートニー・フレリクスが銀メダルを獲得。また、2022年世界室内選手権男子3000mでマーク・スコットが銅メダルを獲得と、所属選手たちの世界大会での強さは今も健在。
今季はリオ五輪金メダリストのセントロウィッツが故障のため全休。5月末に開催された全米選手権10000mでは男女合わせて3名の選手がユージン世界選手権への全米代表の権利を得た。現在は全体的に1500 / 5000mというよりかは男女ともに5000 / 10000mのチームという感じ。
BTCはヘッドコーチのジェリー・シューマッカー、アシスタントコーチのパスカル・ドバート、シャーレーン・フラナガン(2019年〜)の3人が指導陣として現場を支えている。
また、BTCにはプロチームをトップとして、BTC Eliteという社会人チームの下部組織もある(BTCにはユースやマスターズのチームもある)
【BTC関連記事】
・Union Athletics Club(HP / Instagram / 拠点:オレゴン州ポートランド)
アルベルト・サラザールのドーピングスキャンダル(売買目的のテストステロン保持など)での資格停止に伴って解体されてしまったナイキ・オレゴンプロジェクト。
そのNOPのアシスタントコーチだった、ピート・ジュリアンは当時から指導していた選手を現在、UACと名を改めたトレーニンググループにおいて指導している。
現役復帰を果たした大迫傑は現在日本でトレーニングを行なっている。
また、ドーハ世界選手権男子800m金メダリストのD.ブレイジャー、同大会女子5000m銅メダリストのK. クロスタハルフェン、東京五輪女子800m銅メダリストのR. ロジャースを筆頭に現在は男女ともに800 / 1500m中心のトレーニンググループとなっている。女子1500mではJ.ハルとS.ジョンソンの2人の3分台ランナーが所属。
また、マラソンで2:20.57の記録を持つJ.ハセイも所属。アシスタントコーチは世界選手権女子5000m金メダリストのS.オサリバン。
・Oregon TC Elite(HP / Instagram / 拠点:オレゴン州ユージン)
ポートランド(ナイキ本社のあるビーバートン)に拠点を置くBTCやUACとは違って、オレゴンTCはオレゴン州ユージンに拠点を置いている(オレゴン大と同じく)。
このチームもBTCと同じくユースやマスターズのチームを持っているが、OTC Eliteとして知られるプロチームはヘッドコーチのマーク・ローランドが指揮する。
このほか、ナイキがサポートしている中長距離のトレーニンググループにはコロラド州コロラドスプリングを拠点とするUS Army /
American Distance Projectが挙がる。
アディダス:Tinman Elite(コロラド州) / B.A.A(マサチューセッツ州)/ Atlanta TC(ジョージア州)
・Tinman Elite(HP / Instagram / 拠点:コロラド州ボルダー)
専属の動画クリエイターやフォトグラファーを雇って、YouTubeチャンネルやInstagramで独自のプロモーションを展開する、というプロチームのプロモーション方法を2019年頃から確立したのがこのティンマンエリート。今ではTwo Laps TCがそうであるように、YouTubeチャンネルを持ったりフォトグラファーやビデオグラファーと契約するチームは多いが、陸上のプロチームではティンマンエリートが先駆けの存在。
ヘッドコーチはティンマンことトム・シュワルツから、このチームの創設者のドリュー・ハンターの母親であるジョアン・ハンター(元高校チームでの指導経験者)が務めている。
・B.A.A(HP / Instagram / 拠点:マサチューセッツ州ボストン)
ボストンマラソンや、ボストンハーフ、ボストン10kなどのロードレースを開催しているBoston Athletic AssociationことB.A.Aのプロチーム。イエローカラーにアディダスのユニフォームということで北アリゾナ大と被る。
B.A.Aは東海岸のボストンのチームであるが、西海岸のBTCやOTCと同じように市民ランナー層の会員を多く持っている。
・Atlanta TC(HP / Instagram / 拠点:ジョージア州アトランタ)
アトランタTCは2020年にアトランタ開催の東京五輪マラソン全米選考会をホストし、会員数はユースやマスターズ(市民ランナー)を含めて40,000人ほどなので「アトランタ陸協」的な存在であるのだろう。
短距離、中距離、長距離選手が所属しているので、日本でいうところの富士通陸上部みたいな感じかもしれない。
オン:OAC(コロラド州)
・On Athletics Club(HP / 拠点:コロラド州ボルダー)
2020年にコロラド州ボルダーを拠点としたオンのプロチームが発足。男女の中長距離チームを率いるのは、コロラド大卒の「リッツ」ことディサン・リッツェインハイン(五輪3回出場、5000m12分台、世界ハーフ銅メダリスト)
そして、OACのエースはかつてのコロラド大のエースだったジョー・クレッカー(東京五輪+ユージン世界選手権男子10000m全米代表)とボルダーにゆかりのある人物がこのチームの主要人物となっている。
なお、オンのスポーツマーケティング部に所属するアンディ・ウィーティング(五輪2回出場、1500m: 3:30.90)と、ブルックスの元スポーツマーケティング責任者であり、Brooks Beastsのテコ入れを行っていたスティーブ・デコーカーらがOACの設立に尽力した。
【OAC:関連記事】
リーボック:Reebok Boston TC(バージニア州)
・Reebok Boston TC(Instagram / 拠点:バージニア州シャーロッツヴィル)
リーボックボストンTCの名前には「ボストン」と入っているが、リーボックの本社はボストン。現在のチームの拠点はアメリカ東部のバージニア州シャーロッツヴィルで、RBTC Eliteとも呼ばれるこのチームの設立は2018年と新しい。
2015年の全米学生クロカン選手権で当時、シラキュース大の男子を総合優勝に導いた名将のクリス・フォックスがヘッドコーチを率いる。そして、2018年にこのプロチームが発足する時、フォックスは全米学生クロカンの優勝メンバーの4人をこのリーボックボストンTCの選手に引き連れてきた。
チームのエースはシラキュース大から引き続きフォックスの指導を受けるジャスティン・ナイト(世界大会3大会連続5000mカナダ代表)。
ニューバランス: Team New Balance Boston(マサチューセッツ州)
・Team New Balance Boston(Instagram / 拠点マサチューセッツ州ボストン)
ヘッドコーチのマーク・クーガン(アトランタ五輪男子マラソン全米代表)が指揮をとる中距離チーム。女子1500m東京五輪全米代表のエル・ピュリアー(左)は室内の1マイルと2マイルで北米記録を持っており、ヘザー・マクリーン(右)も女子1500m東京五輪全米代表。
ニューバランスの本社があるボストンに拠点を置き、選手はブランドのプロモーション活動にも参加する。本社の近くに拠点を置くプロチームは、ナイキ、ブルックス、ニューバランスが挙がる。
ホカ:NAZ Elite(アリゾナ州)
・NAZ Elite(HP / Instagram / 拠点アリゾナ州フラッグスタッフ)
2022年からチームユニフォームのデザインやチームロゴを刷新。レインボーカラーが象徴するのはダイバーシティ。2021-2022年にかけてケニア出身の選手2名とサインし、チームが変革を遂げた。
2022年の春から創設者のベン・ロザリオがヘッドコーチからチームディレクターになり、ヘッドコーチにはアラン・カルペッパー(写真左)が就任。東京五輪女子マラソン全米代表のアリフィン・トゥリアムクなど男女ともに長距離選手が中心のチームだったが、2022年以降は中距離選手にも投資するという。
ブルックス:Brooks Beasts(ワシントン州) / Hansons-Brooks ODP(ミシガン州)/ ACE(カリフォルニア州)
・Brooks Beasts TC(HP / Instagram / 拠点:ワシントン州シアトル)
ブルックスの本社があるシアトルに拠点を置くブルックスビースツは中距離専門(概ね800-5000m)のプロチームである。このチームには東京五輪男子1500m銅メダリストのジョッシュ・カーが所属している。
・Hansons-Brooks ODP(HP / Instagram / 拠点ミシガン州)
2000年にキースとケビンのハンソン兄弟がミシガン州に発足させた長距離チームは2003年からブルックスのサポートを受けるようになった。
ブルックスにとっては、中距離チームと長距離チームが違う拠点でそれぞれプロチームとして存在していることは大きな意味を持つことである。
・Angel City Elite(ACE:HP / Instagram / 拠点:カリフォルニア州ロサンゼルス)
2021年3月に正式に始動。2021年はプーマに次いで今度はブルックスが西海岸のLAに女子長距離プロチーム創設。
Angel City Elite(ACE)は陸上を通じてBIPOC(アメリカ先住民、黒人、有色人種)間の格差のギャップを埋め、LAとその周辺のコミュニティとのパートナーシップを確立することを目指す。
社会的に意義を見出すであろうプロチームの創設に尽力したブルックスには賞賛を贈りたい。
アンダーアーマー:Mission Run Dark Sky Distance(アリゾナ州) / Mission Run Baltimore 800m(メリーランド州)
・Mission Run Dark Sky Distance(HP / Instagram / 拠点アリゾナ州フラッグスタッフ)
アリゾナ州フラッグスタッフに拠点をプロチームといえば、NAZ Eliteが真っ先に挙がるが、2020年9月に正式発足したこのダークスカイディスタンスは今後注目の中長距離のプロチームである。
このダークスカイディスタンスは、2019年からフラッグスタッフのトレーニンググループとしては存在していたが、アンダーアーマーが本腰を入れて強化したという印象。同じく2020年に発足したOACと同じく、中距離(1500m)から長距離の選手までカバーしている。
・Mission Run Baltimore 800m(HP / Instagram / 拠点ボルティモア)
2016年に創立したDistrict TCが、アンダーアーマーのサポートを受けるようになってから名前を変えてMission Run Baltimore 800mという800m専門のトラックチームに生まれ変わった。
プーマ:Puma Elite(ノースカロライナ州)
・Puma Elite(Instagram / 拠点ノースカロライナ州チャペルヒル)
ウサイン・ボルト(引退)らのジャマイカ勢やアンドレ・ドグラス(リオ五輪男子200m銀メダリスト)といった短距離の世界トップクラスの選手から、サニブラウンにいたるまで短距離界で存在感を発揮してきたプーマが中長距離チームのテコ入れを入っている。
2021年にアリステア・クラッグ(5000mアイルランド記録保持者)がプーマエリートのヘッドコーチに就任し、妻のエイミー・クラッグ(ロンドン世界選手権女子マラソン銅メダリスト)を引き連れてノースカロライナ州に移住。この2名がコーチを務める。
以下からはプロチームではないが、大手のスポーツウェアブランドが中長距離選手をスポンサードしている例を挙げる。
オイセル:女性用のスポーツウェアブランド
ワシントン州シアトルに本社があるオイセルは女性用のスポーツウェアブランドであり、カラ・ガウチャー(大阪世界選手権女子10000m銀メダリスト)などがアンバサダーを務めている。
女性向けのランニングのスポーツブランドとしてはロルナ・キプラガト(世界ハーフ優勝、元ハーフ世界記録保持者)が手掛けるLornah Sportsのようなブランドもあるが、オイセルは他のシューズブランドのように多くのプロランナーやチームをスポンサードをしている。
なお、ウェアの提供になるので、オイセルと契約している選手は好きなブランドのシューズを履くことができる。
ユニクロなどといった日本のアパレルブランドが実業団(女子駅伝)という形式ではなく、錦織圭のように選手単体でランナーとプロ契約を結べばそれはそれでとても面白いことだと思う。
ルルレモン:ブランドアンバサダーに陸上選手を起用
インスタグラム 現在24万フォロワーを持つコリーン・クィグリーがBTCを離れてルルレモンと契約したのが2021年。そして、2022年に彼女は復帰レースを終えて全米選手権の3000mSCに向かう。
ルルレモンはおもにフィットネスジョガー向けのシューズ開発も行っており、ブランドアンバサダーとしてSNSでのプロモーションを上手く行っているクィグリーに白羽の矢を立てた。
また、ルルレモンはカナダで創業した会社であり、東京五輪男子マラソンカナダ代表のベン・プレイスナーとも契約し、ブランドアンバサダーとして起用している。
トラックスミス:アマチュア選手の支援を拡大
トラックスミスはシューズの開発をしていないがランニングギアを販売するブランドである(日本で正規代理店は現在ない)。
シックなデザインと高級な生地感で上質な製品というイメージのトラックスミスはアメリカのアマチュア選手を多く支援しており、その多くが仕事との両立を図り高い競技力を持つ選手たちである。
トラックスミスには現在、ニック・ウィリス(五輪1500mで2回のメダル)とメアリー・ケインの2人の「アマチュアランナー」が雇用されておりブランドの普及に努めている。
ウィリスは大学時代から拠点としているミシガン州でベリーナイストラッククラブに所属している。このチームには他にもアディダス契約の選手が2名(H.クスラー、M.ファーリク)オン契約の選手が1名(B.フラナガン)在籍する。
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以上のように、アメリカにはたくさんのブランドのプロチームが存在し、またシューズメーカー以外のメーカーも選手をサポートしている。
日本ではブルックスが阿見ACの選手をスポンサードしているが、このようなスタイルのプロチームはほとんど少ない。
日本には実業団というシステムが長距離種目のシニア選手の土台となっているが、日本で展開しているシューズメーカーは日本にプロチームを作ってまで投資をするというメリットがあまりないのかもしれない。
日本かアメリカ、どちらがいいかというわけではないが、この記事を見たあなたは様々なブランドがサポートするチームがあることを知ってブランドとのコミュニケーションについて再考する良い機会になるかもしれない。
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