パリ五輪の標準記録と室内陸上の記録水準向上
先日、パリ五輪の陸上競技の参加標準記録が発表さて、その記録水準の高さが話題になった。
そのほとんどが、日本記録を超える高水準の記録であるが、マラソンの記録を見るとそうでもないのは、日本のマラソンが男女ともに層が厚いということを象徴している。
1500mの記録は1マイルの記録でも突破可能で、5000mや10000mはその距離のロードレースでも突破が可能である。また、室内の記録も有効であるが、近年では特に室内5000mでの参加標準突破者が多い。
この標準記録はかなりの高水準の記録であるが、ターゲットナンバー(出場予定者数)の半分が標準突破者で、残り半分が世界ランキングで出場資格を得るように設定されている。例えば、10000mの27:00.00の記録も2023年以降に13-14人は突破するであろうと見込まれている。要するに、少し前と比べてそもそもの記録水準が全体的に上がっている。
2023年室内シーズン開幕
10000mやマラソンはすでにパリ五輪の参加標準記録への有効期間に突入しているが、その他のトラック種目は2023年7月1日から2024年6月末までが有効期間となる。
2023年の室内シーズンが開幕し、特に5000mに出場するトップレベルの選手はブダペスト世界選手権の標準を突破する選手が何人か出てくるだろう。
1/27 John Thomas Terrier Classic(米国・ボストン大)
ボストン大の室内トラックは“超”高速トラックとして知られている。通常の室内トラックは1周200mの左右対称のトラックであり、油圧式バンクの傾斜のついているトラックである。あまり詳しくないがベニヤ板?の上にタータンがひかれていて、それぞれ剛性が異なるらしい。
屋外のトラックでもタータンの硬さが微妙に違うように、室内トラックでもその違いがある。それと、ボストン大の室内トラックは左右が非対称であり、18°の急勾配のコーナーがある。これがポイントで、工学的、物理的にはこの左右非対称トラックというのは記録が出るそうだ。
(室内トラックの歴史の勉強と物理的、工学的視点を学べる記事)
ボストン大での室内レースはとにかく記録が出ることで知られている。そもそも室内での5000mのレースが少ないのであるが、それでも2020年以降の室内5000mTOP 20のうちの19の記録がこのボストン大で記録されたというのは凄まじいことである。
昨年、BTCのエースのグラント・フィッシャーがボストン大でマークした12:53.73の記録を2023年1月27日に更新したのがウッディ・キンケイドである。
John Thomas Terrier Classic
男子5000m
・男子3000m
レースはクレッカーの完勝かと思われたが、キンケイドが最終ラップで26.70の鬼脚を使って逆転。4800mまでは全て1周30-31秒台のラップを刻んでからの26.70であることを考えるとなかなか強い。しかし、これはタイムトライアル方式のレースであり、選手権では予選レースや、決勝ではペース変化や位置取りがあるので、またレースの性質が変わってくる。
これで、キンケイドとクレッカーが2023年ブダペスト世界選手権の参加標準記録(13:07.00)をあっさりと突破したが、2023年の室内開幕戦でこれだけの記録を出せるのは、このボストン大が高速トラックであるから、1月に記録を出しておけば残りの世界選手権までの期間を存分に調整期間に使える(もしくは10000mへも記録挑戦の機会に集中できる)ということだろう。
そのための準備をオフ期間(初秋)後から、じっくりと構築していく。それが彼らのやり方である。正直なところ、トラック競技に集中しようとしたら3000mSCや10000mを除いてトップレベルの選手は室内レースに出るのが王道である(オセアニアの選手は南半球なので今の時期に夏なので室内シーズンはない)。
今回のレースで4位のディラン・ジェイコブ(テネシー大)は昨年の全米学生選手権10000mの優勝者であるが、13:11.01の記録は全米の学生の中でも今後コンスタントに記録されていくラインだと思う。
現在の全米学生記録は昨年、アブディハミド・ヌアがマークした13:06.32であるが、彼はその後プロに転向した。現在、そのヌア(世界選手権11位)と世界選手権4位のルイス・グリハルバのトレーニンググループでトレーニングしているのが今日12:51.61をマークしたキンケイドである。彼は今はBTCではトレーニングをしていない。
5000mの12分台が今後増えると、10000mの26分台も同様に増えていくだろう。パリ五輪の標準記録向上はあくまで記録水準向上を反映した結果であるといえる。
John Thomas Terrier Classic
男子3000m
ヤレード・ヌグースが7:28.24の世界歴代9位!
ヤレード・ヌグースといえば、そのヌグースという名前からもGoose Goose Nuguse(グース、グース、ヌグース)と呼ばれたりする。グースの意味はガチョウで、語呂が良いので彼はグースの愛称で知られている。2年前はオレゴン大だった2人、クーパー・ティア、コール・ホッカーとのライバル関係にあったので、DUCK、DUCK、GOOSEと呼ばれていたりもした。オレゴン大のスポーツチームの名称はダックス。グースはガチョウ。
そんなヌグースは全米学生選手権1500mでの優勝だけでなく、1500mと3000mで全米学生記録の更新。東京五輪選考会では1500mでホッカー、セントロに次いで3位に入り全米代表となったエリート選手。
故障や体調不良も多く東京五輪は欠場したが、OACに加入してから1年目にすでにエースクラスに。OACといえば、1500mで世界選手権4位のマリオ・ガルシアや1マイルで3:47.48のオセアニ記録をもつオリー・ホアがいるが、以下のワークアウト動画ではヌグースが先頭でフィニッシュしている。
そもそも高地のボルダーでのワークアウトで1マイル3:57からの閾値走はなかなかインパクトがあるが、ここにいる全員がかなりのハイレベルにあることがすぐわかる。
ということで、OACのエースはヌグースである。3000mで7:28で走れるということは5000m12分台は堅いだろう。しかし、ヌグースはマイラーなので、まずはサブ3:30と世界選手権の表彰台を狙いにいくだろう。3000mはマイラーや5000mの選手の力を知るにはちょうど良い距離のレースである。
ちなみに、今回の3000mで2位だったサム・アトキンは去年まで大学のコーチをしながら競技をしている選手だったが、3000m 7:31.97はなかなかのインパクトである。しかもその後の5000mでペーサーを務めていた。拍手。
1/27 Washington Indoor Invitational(米国・シアトル)
男子1マイル
室内レースは今週いくつか開催されたが、もう1つ印象的なレースを紹介。現在のワシントン大学を率いるのは名将アンディ・パウエルコーチ。オレゴン 大時代の実績はかなり凄いので… 気になる人はググってください。。
ワシントン大には昨年の全米選手権1500m優勝のジョー・ワスコムや、アイルランドの天才と呼ばれるブライアン・フェイなどが在籍しているが↑のレースではフェイがラスト引っ張っているところをワスコムが差し切る1マイルレース。
印象的なのはワスコムの記録が3:51.90の全米学生歴代3位の記録であることと、ワシントン大の学生は8名サブ4を達成したことである。これを見ても、このスーパースパイク時代の記録水準というものは凄まじく、中学も高校も大学もシニアも記録ラッシュというわけである。そのような結果が、パリ五輪の参加標準記録にも見て取れるし、日本の陸上界もさらに記録ラッシュに沸いて欲しいですね。
室内陸上ではないですが、
1500mサブ3:30
5000mサブ13:00
10000mサブ27:00
あたりの記録は今後もっと増えるかな、と思います。
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