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有孔虫と浜田省吾

大学で専攻していたのは地球科学。
卒論は地層内にある微化石『有孔虫』の解析。
有孔虫はカタツムリのような殻をもつ微生物。
顕微鏡を覗かないと見えないくらい小さい。
この生物は今でも海に存在するが、海洋環境を図る指標となる微生物。
海洋温度や塩分濃度などで種の分布が異なる。
僕の卒業研究は約400万年前の太平洋の海洋環境を調べるという内容だった。壮大!
卒論は研究室の教授のやっている内容をするのが通例。
なんとなく入った研究室で教授からやれと言われて、やらざるを得なかった。
卒業するための大きな壁。卒論発表ではその他の教授陣に厳しく突っ込まれる。
微化石の有孔虫は近くの山へ1人入り、ハンマーをもって砂岩を採掘。
クリノメーターという地層の走向、傾斜を図る計測器をもって採掘地点の地層を計測。
その部分の砂岩を持ち帰り、薬品で溶かす。細かいざるで水洗いをして残ったものを乾燥機で乾かす。それを顕微鏡で覗くと砂に交じり有孔虫の化石がいる。その一つ一つを細かい筆先で捕まえて、プレパラートに置いていく。なんとも細かい細かい退屈な作業。
全部で何匹の有孔虫を採集しただろう。おそらく統計上、1000匹以上は取ったのではないか。
研究室に籠り、顕微鏡を覗く日々が半年以上続いただろう。
とりあえずピッキングしている間は何も考えず、有孔虫を取っていくだけ。
暇だ・・・
目は顕微鏡の世界だが、耳は自由だ。
そこで、これを機会にしっかり音楽を聴こうと思った。
誰かひとりアーティストを決めてその人を極めようと思った。
その時決めたアーティストが『浜田省吾』さんだった。
当時、既に十分なキャリアがあって、アルバムも十数枚出ていたと思う。
七十年代にデビューして、八十年代、九十年代とキャリアを積み上げてきた人だ。
有孔虫を研究しながら、同時に浜田省吾の研究も始めたようなものだ。
この期間が自分の人生を決めたかもしれない。
彼のソングライティング、時代を見る視点、愛すること、そして歌声、アレンジ。
すべてに魅了された。
デビュー当時の歌は日常のことや、個人的なラブソングが多い。すこしフォークソングの影響も感じる。しかし、時代が進むにつれ、キャリアを積み上げるにつれ、その時の社会問題や新しいサウンドをどんどん取り入れていく。
彼のアルバムを聴いていくと日本の成長、日本人のアイデンティティが見えてくる。
すごい!こんなすごい人がいるんだ!
すっかり魅了され、アルバムを何度も聴いた。
ちょうど僕が大学4年生のときの11月、数年ぶりのオリジナルアルバムがリリースされた。
タイトルが『青空の扉』。ジャケットも青空の色で爽やかだった。
彼はほとんどメディアに出ない。でもそのアルバムがリリースされた当時、プロモーションでFMラジオに出演していた。その時にラジオからかかったアルバムの最後の曲『青空のゆくえ』これを聞いた瞬間、ふわっと未来が開けた気がした。

約400万年前の太平洋の海洋環境を調べるという卒論が青空の扉を開けるきっかけになるなんて・・・人生はホント分からない

最近当時のことを思い出しながら、浜省をよく聴く。
改めて聴き直すと、預言者のようにこの国の未来を言い当ててきた。
時代に対するアンテナの感度がすさまじいのだろう。
特に八十年代はバブルに浮かれる、お金がすべての社会に痛烈なメッセージ残していた。また彼の生まれは広島。戦後、アメリカという存在は特別だったに違いない。
彼の曲の中に頻繁に「アメリカ」という存在が出てくる。アメリカを父、その子、日本という構図で描かれる。そんな曲から戦後の日本、アメリカとの関係に興味を持ったし、日本人のアイデンティティというものが実感できた。そこを踏まえどう変わっていかないといけないのか。
彼はミュージシャンでなかったら、ジャーナリストになりたかったらしい。そういう視点は曲中あらゆるところからみられる。
いちミュージシャンの枠を超えて、物の考え方、視点、問題意識、未来へとたくさんのことを考えるきっかけを作ってくれた、浜省。

令和になってまた、新しい時代の問題に直面している私たち。
彼は何を思い、何を歌ってくれるのか。

そういう自分も当時からすると随分歳を取った。
昭和、平成、令和と時代を何とか生きてきた。
浜省から学んだ、人生観。

これから歌にして、自分の生き方で示していきたい。