自作IoTシステムの構築 基礎編7:「LTE-M対応通信モジュール」をどう選ぶか?
『自作IoTシステムの構築 基礎編』では、私自身の経験をもとに、IoTデバイスを自作するために必要な知識の全体像と、各要素の選択肢や選び方を整理して解説しています。
今回は、LTE-Mに対応した通信モジュールの選び方をまとめます。自作IoTに利用しやすいモジュールを取り上げています。通信方式として「LTE-M」を選んだ際は、本記事をご参考ください。
■ LTE-M対応通信モジュールの選択肢
まずは、LTE-M対応通信モジュールの全体像を把握すべく、販売終了になった商品も含め整理します。
◎ Wio LTE M1/NB1(BG96) ※販売終了
これは、LTE-M対応のIoTデバイス開発において、私が初めて利用した通信モジュールです。マイコン機能、Groveシールド機能、通信モジュール機能がこれ1つで実現でき、大変使いやすいボードでした。しかし、すでに販売終了しています。
◎ LTE-M Shield for Arduino ※販売終了
Wio LTE M1/NB1(BG96)の販売終了と近いタイミングで、このLTE-M Shield for Arduinoが発売開始されたため、これに乗り換えました。Arduinoマイコンの丈夫に重ねることができ、これも使いやすいボードでした。しかし、これも販売終了になってしまいました。
◎ M5Stamp SIM7080G搭載 CAT-Mモジュール
もM5Stack社製の通信モジュールです。小型であり組み込み用途に適しています。M5Stack系マイコンとの組み合わせの他、Seeed Studio XIAO系マイコン等とも組み合わせることもできます。XIAOシリーズには、XIAO ESP32C6など省電力性能に優れたマイコンがあるため、これと組み合わせることで、省電力なシステムを構築できます。ただ、Grove端子等が無いため、マイコンと接続方法には少し工夫する必要があります。また、SIMのサイズがmicro SIMサイズであることに注意です。スイッチサイエンスで購入できます。
◎ SIM7080G CAT-M/NB-IOT UNIT
こちらもM5Stack社製の通信モジュールです。Grove端子で接続できるため、M5Stack系マイコンとの相性がいいです。なぜかスイッチサイエンスでは販売されていないのですが、マルツで購入できます。ただし、記事執筆時点では本家サイトで在庫切れとなっており、入手性に課題がありそうです。
◎ M5Stack用 SIM7080G搭載 CAT-M/NB-IoT+GNSSユニット
こちらもM5Stack社製の通信モジュールです。これは使ったことが無いのですが、仕様書見る限りDC9-24V入力であり、電池駆動での長期運用は厳しそうです。GNSSの機能を利用したい方向けでしょうか。スイッチサイエンスで購入できます。
◎ Lilygo T-SIM7080G-S3
Lilygo社が出しているESP32S3とSIM7080G等を1枚にまとめた開発ボードです。リチウムイオンバッテリーホルダーもついており、これ一つでIoTを実現できます。これは最近知りました。電池駆動を前提とした場合、deepsleep時の待機時電流が気になりますが、公式サイトでは記載が見つかりませんでした。
◎ SONY Spresense LTE拡張ボード
SONYのSpresenseに対応したLTE拡張ボードです。Spresenseマイコンと組み合わせて使うことで、LTE-M通信を実現できます。Spresenseを使ったことがないため、詳細はわかっていません。待機時電流の公式な記載を見つけられませんでしたが、試験された方のブログでは、PSMを用いて平均待機時電流4.3mAのようです。電池駆動での長期運用は少し厳しいですね。
◎ Wio BG770A
Seeed社のWio BG770Aです。これ一つで、マイコンと通信モジュールとGrove端子が1ボードとなっており、省電力モードにも対応しているので、電池駆動が可能です。「Wio BG770Aの研究」のマガジンにまとめていますので、ご興味あればご覧ください。
■ 比較検討の評価基準
ここまで紹介した通信モジュールを、次の5つの評価基準で比較します。
1.マイコンとの接続性
通信モジュールとマイコンの接続が容易であることが望ましいです。重ねるだけであったり、Groveケーブル1本で接続できると開発が楽です。
2.センサーとの接続性
Grove端子付きですと、センサーとの接続が容易なので、私は基本的にはGrove端子付きのボードを選んでいます。
3.省電力性能
電池駆動型IoTデバイスでは、省電力性能が重要です。省電力性能が足りない場合、別途電源制御モジュール(例.Wio Extension – RTC)を使用することをお勧めします。
4.入手性
入手性の良さも重要な要素です。国内の電子部品通販サイトで購入できたり、在庫が安定しているとベストです。
5.価格
必要な性能と価格のバランスを考え、選定していきます。
これら以外にも、マイコン自体の処理性能等の評価基準もありますが、今回は、ガンガンにエッジ側で処理するようなデバイスを想定しておらず、省略しています。
また、各通信モジュールがどのキャリアに繋がるかや、相互接続性試験(IOT)の合格有無なども評価基準となりますが、これに関しては次回書く予定のSIMの選び方の記事でまとめます。
■ LTE-M対応通信モジュールの比較表
前述した通信モジュールのうち、入手可能で、電池駆動可能な通信モジュールに着目し、特徴をざっくりと比較表にまとめました。総合評価は、あくまでも、電池駆動・高負荷処理なしを前提とした場合の、個人的な評価です。
電池駆動型IoTデバイス開発においては、5つの評価基準の中で最も重要視したい項目は省電力性能です。電池駆動に耐えうる省電力性能を有すると確認できたのはWio BG770AとM5Stamp CAT-M モジュールです。
Wio BG770AはPowerSavingMode(PSM)と呼ばれるLTE-Mの省電力モードを使え、待機時電流を平均75μAまで下げることができます。サンプルコードも豊富です。価格はやや高いですが、その他の評価項目の評価も高く、使い勝手が良いと感じています。
M5Stamp CAT-M モジュールは、Seeed Studio XIAO系マイコンを用いるなど省電力性能に優れたマイコンを用い、かつ通信モジュールへの電源供給を工夫すれば、電池駆動が可能です。相対的に安価であるものの、マイコンやセンサーの接続性は高くなく、基板設計などひと手間必要です。中級者以上向けかもしれません。
その他3つ通信モジュールで電池駆動を実現させるためには、おそらくWio Extension – RTCなどの電源制御モジュールが必要になると考えています。
■ まとめ
記事執筆時点における、電池駆動型のLTE-M通信対応IoTデバイス作成に有用な通信モジュールの、個人見解をまとめます。
シンプルにLTE-M通信を実現するなら、Wio BG770Aがおすすめです。マイコン機能と通信モジュール機能とGroveシールド機能と電源制御モジュール機能が1つのボードにまとまっており、使いやすいです。
マイコンやセンサーとの配線を自作できる方で、かつ安価に作りたいのであれば省電力性能に優れたマイコン(例えば、Seeed Studio XIAO ESP32C6など)とM5Stamp CAT-M モジュールの組み合わせがよいと考えています。
M5Stack系マイコンで省電力性能に優れたものがあれば、M5Stack系マイコン+ SIM7080G CAT-M/NB-IOT UNITもよいと考えています。私が調べた範囲では、M5Stack NanoC6は省電力性能に優れているのですが、使用できるGPIOピンをLTE-M通信で使い切ってしまう点が残念です。待機時電流が数十μA以下のマイコンがあれば、教えて頂けると嬉しいです。
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次は、SIMカードの選び方をまとめるつもりです。まとめました。
■ 参考
・「自作IoTシステムの構築 基礎編」の各記事を、マガジンにまとめています。
・Lilygo T-SIM7080G-S3に関する情報は、下記が参考になりました。
・Spresense LTE 拡張ボードの消費電力は、下記が参考になりました。